フランス革命はなぜメートル法を生んだのか 度量衡の統一と公平な課税という課題

私たちの日常生活は、メートルやキログラムといった単位によって測られています。これらの単位は、科学的な合理性から生まれた普遍的なものと認識されがちです。しかし、その単位系の成立には、フランス革命という歴史的な出来事と、明確な政治的意図が関わっています。

当メディアでは、税を国家と社会の関係性を考察する対象として捉え、その本質を探求する『/税金(社会学)』というテーマを設けています。本記事は、その探求の一環として「税と国家の形成」を考える上で、「単位の標準化」という問題に焦点を当てます。

なぜ、革命政府はメートル法の制定を進めたのでしょうか。それは、近代国家の根幹をなす公平な課税を実現するために、不可欠な社会インフラであったと考えられます。本記事は、単位系の優劣を論じるものではありません。単位の標準化が、近代国家の統治能力を確立する上で、いかに重要な役割を果たしたかを歴史的な事実として解説します。

目次

革命以前のフランス:統一されていない単位と恣意的な税制

18世紀末のフランス革命以前、アンシャン・レジームと呼ばれる旧体制下のフランスには、統一された単位という概念がありませんでした。長さ、重さ、容積を測る「度量衡」は、地方ごと、領主ごと、さらには都市や村ごとに異なっていたのです。

例えば、長さを示す「オーヌ」という単位一つをとっても、パリと地方ではその長さが異なりました。穀物の量を測る「ボアソー」という升も、場所によって大きさが異なっていたとされています。一説には、当時のフランスには約25万種類もの単位が存在したとも言われています。

この単位の不統一は、商取引上の不便さを生むだけではありませんでした。より深刻な問題は、これが領主による恣意的な徴税の一因となっていたことです。

農民が領主に納める年貢(地代)は、収穫した穀物の現物で支払われることが一般的でした。その際、領主は自らが所有する、より大きな升を使って量を測り、本来よりも多くの税を取り立てることが可能でした。農民は、その測定が不当であると訴えようにも、基準となる単位が存在しないため、領主の主張を受け入れざるを得ない状況がありました。この構造的な格差は、人々の不満を高め、のちの革命に繋がる社会的背景の一つとなりました。

フランス革命が目指した公平性と国家の再構築

1789年に始まったフランス革命が掲げた理念は「自由、平等、友愛」でした。革命政府にとって、旧体制の象徴であった身分制度や領主による特権を廃し、すべての国民が法の下に平等である、新しい国家を建設することが急務でした。

この国家再構築のプロセスにおいて、中心的な課題の一つが「税制改革」です。それまでの不平等な税制を廃止し、国民全体が納得できる、公平で統一された税のシステムを確立すること。これは、新しい国家の正統性を確立し、財政基盤を安定させる上で重要な課題でした。

しかし、全国一律の公平な税制、特に土地や生産物に対する課税を実現しようとしたとき、革命政府は根本的な問題に直面します。それは、課税の基準となる「測る」ための物差しが、国中に存在しないという事実です。

どれだけの広さの土地に、どれだけの価値の税を課すのか。どれだけの量の生産物に対して、どれだけの税率を適用するのか。これらの計算を行うためには、誰もが利用でき、どこで使っても同じ結果が得られる、標準化された単位が不可欠でした。度量衡の統一は、革命の理念である公平性を課税という形で実現するための、基盤となる重要な工程でした。

メートル法の制定:科学的合理性と政治的理念の結びつき

こうした背景から、革命政府は度量衡の統一を国家の重要課題の一つとして推進します。そして、国内の特定の単位に統一するのではなく、普遍性を持つ新しい単位系を創設することが目指されました。特定の地方や権力から中立な、普遍性を持つ単位が、新しい時代の公平性を示すものと考えられたためです。

こうして考案されたのがメートル法です。

その基準として選ばれたのは、地球でした。1メートルは「北極点から赤道までの子午線弧長の1000万分の1」と定義されました。これは、特定の国家や文化に依存しない、地球そのものを基準とする普遍的な定義です。また、重さの単位であるキログラムも、1リットル(10cm四方の立方体の体積)の水の質量を基準とするなど、各単位が相互に合理的な関係性を持つように設計されました。

このプロジェクトには、当時のフランスを代表する科学者たちが動員されました。彼らは測量のために国内外で困難な調査を遂行しました。メートル法の制定は、科学的な合理性を追求する探求であると同時に、「一つの国民、一つの法、一つの度量衡」という、統一国家を目指す政治的な理念を反映した事業でもありました。

単位の標準化がもたらした近代国家の統治基盤

メートル法の導入は、フランス社会に大きな変化をもたらしました。商取引は円滑になり、科学技術の発展にも寄与しました。しかし、その最も大きな影響の一つは、国家の統治能力を向上させた点にあります。

単位が統一されたことで、政府は国内の土地や資産、生産量を正確に把握できるようになりました。これにより、個人の資産状況に応じた、透明性の高い課税が可能となります。恣意的な徴税の余地は減少し、国民は国家の定めた法と規則に基づいて納税するという、近代的な関係が確立されていきました。

つまり、度量衡の統一は、中央集権的な近代国家が領土と国民を把握し、効率的に税を徴収するための基盤となりました。私たちが享受している行政サービスや社会インフラも、こうした安定した税収基盤があってこそ成り立っています。

まとめ

私たちが日常的に使用するメートルやキログラムは、単なる物理的な単位ではありません。その背景には、フランス革命という歴史の転換点において、公平な社会を目指す理念がありました。

革命以前の統一されていない単位が恣意的な徴税の一因となっていた状況に対し、革命政府がメートル法という普遍的な基準を導入することで、公平な課税と近代的な国家統治の基盤を築いた歴史は、私たちに一つの視点を提供します。

それは、社会を支える「当たり前」のシステムやルールの多くが、過去の課題に対する解決策として、明確な意図をもって設計されたものであるという事実です。税という制度、そしてそれが機能するための社会インフラの成り立ちを理解することは、私たちが生きるこの社会の構造を客観的に捉え、その中でより良く生きるための知性となり得ます。

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この記事を書いた人

サットヴァ(https://x.com/lifepf00)

『人生とポートフォリオ』という思考法で、心の幸福と現実の豊かさのバランスを追求する探求者。コンサルタント(年収1,500万円超/1日4時間労働)の顔を持つ傍ら、音楽・執筆・AI開発といった創作活動に没頭。社会や他者と双方が心地よい距離感を保つ生き方を探求。

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