ドラムのルーディメンツにおいて、5、7、9といった奇数打で構成されるストローク・ロールは、その活用に難しさを感じる奏者が少なくありません。偶数打のロールが持つ安定感とは対照的に、奇数打のロールはリズム的に収まりが悪いと感じられることがあります。
しかし、この特性こそが、奇数打のロールが持つ音楽的な価値に繋がります。本稿では、奇数連のストローク・ロールがなぜ「奇数」で構成されているのか、その構造的な理由と音楽的な効果について分析します。
偶数連ロールの安定感と「完結」する機能
奇数連の役割を理解する前提として、偶数連のロールが持つ機能を確認します。4ストローク・ロール(RLRL)や6ストローク・ロール(RLLRRL)などがこれに該当します。
偶数連のロールは、その多くが拍や小節といった音楽的な単位の中で完結するよう設計されています。演奏を開始した際の手順(リードハンド)が維持され、フレーズの区切りが明確になるため、音楽に安定感をもたらす効果があります。
この性質は、フレーズの終点を明確にしたり、リズムパターン内に予測可能な装飾を加えたりする場合に有効に機能します。偶数連のロールは、音楽の構造を整理し、完結させる役割を担っていると考えられます。
奇数連ロールが生み出す「推進力」の正体
次に、5、7、9ストローク・ロールといった奇数連のロールを分析します。これらの特徴は、演奏を開始した手順とは逆の手でロールが終了し、結果として拍の境界を越える点にあります。
例えば、5ストローク・ロール(RRLLR)を右手から16分音符の連続として演奏した場合、最後の打音は次の拍の頭に配置されることになります。この「拍を越える」という構造が、奇数連ロール特有の音楽的効果を生み出します。
この構造がもたらす主な効果は、音楽に「推進力」を与えることです。偶数連のロールがフレーズを完結させる機能を持つのとは対照的に、奇数連のロールは次の音や拍への繋がりを強く意識させます。これにより、フレーズが停滞せず、前方へ進行する感覚が生まれます。
拍の境界を「越える」という音楽的効果
音楽における拍の頭や小節線は、時間的な区切りを示す指標として機能します。聴き手は多くの場合、この区切りを無意識に予測しながら音楽を構造的に認識しています。
奇数連のロールは、この予測される区切りを越えて音が配置されるため、拍の境界を一時的に曖昧にする効果があります。これにより、セクション間の移行やフィルインへの導入が滑らかになります。異なる音楽的要素をスムーズに接続する役割を果たすのです。この構造は、音楽に緊張と緩和のサイクルを生み出し、展開の単調さを回避する上で有効です。
リードハンドの転換という技術的側面
奇数連のロールが持つもう一つの機能は、技術的な側面における「リードハンドの転換」です。
例えば、右手リードで進行しているフレーズの終わりに5ストローク・ロール(RRLLR)を配置すると、ロールの終了と同時に次の小節の頭を左手から自然に開始できます。
このように、奇数連のロールは、意図的な手順の組み換えをせずとも、演奏の流れの中でリードハンドを転換させる合理的な手段となります。これによってフレーズ展開の選択肢が増え、身体的な負荷の偏りを軽減し、バランスの取れた演奏に繋がる可能性があります。
実践への応用:奇数連ロールをフレーズに組み込む思考法
奇数連ロールの構造と音楽的効果を理解することで、その応用方法は明確になります。重要なのは、単なる技術的な装飾としてではなく、次の展開への接続を意図した設計要素として活用することです。
一つの応用例として、フィルインの最後に9ストローク・ロールを配置し、その最後の打音を次の小節の頭で演奏するクラッシュシンバルに同期させる方法が考えられます。これにより、フィルインの持つ運動量を維持したまま、次のセクションの開始点にアクセントを付与できます。これは、偶数連のロールでフレーズを一度完結させてからシンバルを演奏する場合とは、音楽的な効果が異なります。
また、基本的なグルーヴを構成するスネアドラムのゴーストノートに5ストローク・ロールを組み込むことで、リズム全体に微細な変化と前進する感覚を加えることもできます。このような細やかな設計が、グルーヴの奥行きに影響を与える可能性があります。
まとめ
5、7、9ストローク・ロールが「奇数」で構成される理由は、音楽的な「完結」ではなく、「接続」と「推進」を機能的な目的としているためです。偶数連のロールは拍の中で完結して安定感をもたらす一方、奇数連のロールは拍の境界を越えることで推進力を生み出します。
もし奇数連のロールの扱いにくさを感じている場合、その役割を「次の展開への接続」と捉え直すことが有効かもしれません。フィルインやグルーヴの中で、意図的に拍を越える構成を試すことで、新たな音楽的表現に繋がる可能性があります。
ルーディメンツの構造を分析し、その音楽的な意味を再検討するプロセスは、より深い音楽理解への一助となります。









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