Apple Silicon(M1 / M2 / M3チップなど)搭載のMacへ「移行アシスタント」を使用してデータを移行した際、Universal Audio製のオーディオインターフェースが認識されず、音声が出力されないという事象が報告されています。
公式の案内手順に従い、Macの「システム設定」から「プライバシーとセキュリティ」の項目を確認しても、ドライバの読み込みを許可するボタンが表示されないという状況に直面する場合があります。
ソフトウェアの再インストールや再起動を繰り返しても状況が変化しない場合、この現象は単なる一時的な不具合ではなく、OSのセキュリティ構造と移行されたデータとの間に生じている「システムレベルの不整合」に起因している可能性があります。
本記事では、この問題の背景にある技術的な要因と、システム内部の履歴を初期化してデバイスを正常に認識させるための具体的な手順について解説します。
移行アシスタント使用後に生じるエラーの症状
移行アシスタントを使用した直後に生じる主な症状として、UAD Meter & Control Panel上に「Driver Not Installed(ドライバがインストールされていません)」という通知が表示されることが挙げられます。
通常、サードパーティ製のシステムソフトウェアを初めてインストールする際は、OS側からセキュリティ上の確認が求められ、ユーザーが手動で「許可」を出す必要があります。
しかし、このケースにおいては「許可」を行うためのボタン自体が画面上から消失した状態となります。一定時間待機してもボタンは出現せず、デバイスの設定や運用を先へ進めることが困難になります。
なぜ「許可」ボタンが表示されなくなるのか?(原因)
許可ボタンが表示されなくなる背景には、古いMacから新しいMacへデータを移行する際に発生する「権限認識の相違」が関係していると考えられます。
オーディオインターフェースのように、ハードウェアとOSを密接に連携させるデバイスは、「カーネル拡張」と呼ばれるOSの深い部分にアクセスする技術を使用している傾向があります。移行アシスタントを使用して環境を移管した際、過去のMacで使用していた「このドライバは既に許可済みである」というシステム内部の履歴データも同時にコピーされる仕様となっています。
その結果、新しいMacの内部では以下のような矛盾が生じます。
- OS(ソフトウェア)側の認識: コピーされた履歴を参照し「既に安全が確認されたドライバである」と判断するため、ユーザーに新たな許可を求める画面を表示しません。
- Mac(ハードウェア)側の認識: 基板自体は「この新しい端末において正式な承認手順を経ていない」と認識し、ドライバの動作を制限します。
このように、「OSが持つ過去の承認履歴」と「ハードウェアが求める新規の承認」という2つの基準に相違が生じているため、内部では動作が制限されているにもかかわらず、画面上には許可ボタンを表示できない状態に陥っていると推測されます。
3. 【解決策】システム内部の承認履歴を初期化する手順
この状況に対処するためには、Macのシステム深部に保存されているサードパーティ製ドライバの承認履歴を一度リセットし、OSに新規のドライバとして再認識させる方法が考えられます。
この作業には、Macの「リカバリーモード」からアクセスできるターミナルを使用し、システムに組み込まれた正規のコマンドを実行します。過去の履歴を消去し、権限設定を正しい状態からやり直すための具体的な手順は以下の通りです。
STEP 1:リカバリーモードでの起動とポリシー変更
Apple Silicon搭載のMacでカーネル拡張を伴うソフトウェアを動作させるためには、セキュリティのポリシー設定を変更する必要があります。
- Macを「システム終了」で完全に電源を落とします。
- 電源ボタンを押し、画面に「起動オプションを読み込み中」と表示されるまで長押しを続けます。
- ハードディスクと歯車アイコンのオプションが表示されたら、「オプション」を選択して「続ける」をクリックします。
- 管理者アカウントを選択し、ログインパスワードを入力して次に進みます。
- 画面上部のメニューバーから「ユーティリティ」をクリックし、「起動セキュリティユーティリティ」を選択します。
- システムドライブ(通常は Macintosh HD)を選択し、右下にある「セキュリティポリシー」をクリックします。
- 設定項目を「完全なセキュリティ」から「低セキュリティ」に変更し、その下に表示される「確認済みの開発元からのカーネル拡張機能のユーザ管理を許可」にチェックを入れます。
- 右下の「OK」をクリックし、パスワードを入力して設定を保存した後、起動セキュリティユーティリティのウィンドウを閉じます。
STEP 2:コマンド実行による機能拡張のリセット
続いて、過去の承認履歴を初期化します。リカバリーモードの画面のまま作業を続けます。
- 上部のメニューバー「ユーティリティ」から「ターミナル」を選択します。
- ターミナルの画面が開いたら、以下のコマンドを入力します。※半角スペースの配置にも注意してコピー&ペースト、または正確に入力してください。
kmutil trigger-panic-medic --volume-root /Volumes/Macintosh\ HD※注意 システムドライブの名前を初期設定の「Macintosh HD」から変更している場合は、最後の
/Volumes/Macintosh\ HDの部分をご自身のドライブ名に書き換えて実行してください。(例:Macintosh\ HDの\は、直後の半角スペースを認識させるためのエスケープ記号です)
- Returnキー(Enterキー)を押してコマンドを実行し、
Successfully triggered panic medicといった成功を示すメッセージが表示されたことを確認します。 - 左上のリンゴマーク(Appleメニュー)から「再起動」を選択し、Macを通常通り立ち上げます。
STEP 3:ドライバの再認識と音声出力の確認
- Macが通常起動しログインを済ませると、画面右上に「システム機能拡張がリセットされました」というシステムの通知が表示されます。これは、先ほどのコマンドによって承認履歴が初期化されたことを示しています。
- この状態で「システム設定」を開き、「プライバシーとセキュリティ」の項目へ移動します。
- 画面をスクロールしてセキュリティの項目を確認すると、「開発元Universal Audioのシステムソフトウェアの読み込みがブロックされました」という通知とともに、これまで表示されていなかった「許可」ボタンが出現します。
- 「許可」ボタンをクリックし、Macのパスワードを入力します。
- 設定を反映させるために再度Macの再起動を求められますので、指示に従って再起動を行います。
- 再起動後、アプリケーションフォルダから「UAD Meter & Control Panel」を起動します。「ドライバがインストールされていない」という警告が消え、デバイスが正常に認識されている状態になります。
- 最後に、オーディオインターフェースに接続したモニタースピーカーやヘッドフォンから、適切に音声が出力されるかを確認してください。
まとめ
移行アシスタントを利用したデータの移行は効率的ですが、システムの深層で動作するドライバに関する情報を引き継ぐ際、新旧の環境間で権限の不整合が生じる可能性があります。その結果として設定画面に許可ボタンが表示されず、デバイスが使用できないという状況が引き起こされます。
このような問題に直面した際は、ソフトウェアの再インストールを繰り返す前に、リカバリーモードを利用して承認履歴の初期化を行うというアプローチを検討してみてはいかがでしょうか。
本記事で解説したシステム構造の理解と対処手順が、皆様の円滑な制作環境の構築に役立つことを願っております。

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