多くのドラマーが一度は向き合うことになる課題の一つに、「奇数連ロール」の扱いが挙げられます。特に高速な楽曲の中でフィルインとして組み込もうとすると、タイミングが合わなくなり、フレーズ全体が不安定になることがあります。そうした経験から、無意識のうちに奇数連のロールを避け、使い慣れた偶数連符のパターンに依存しているケースは少なくないでしょう。
この記事では、その課題の構造を分析し、実践的な解決策を提示します。扱うのは、5、7、9ストロークといった代表的な奇数連ロールです。これらを単なる手順の暗記としてではなく、ダブルストロークを基盤とした合理的な運動として再解釈することを目指します。
本稿を読み終える頃には、これまで扱いにくかった奇数連ロールが、あなたの表現の幅を広げる有効な手段となるでしょう。高速な16ビートの中でも、自信を持って奇数連ロールをフィルインに組み込むための、具体的な思考法と実践手順を解説します。
なぜ奇数連ロールは難しいのか? – 偶数連符との構造的な違い
そもそも、なぜ私たちは奇数連のロールに難しさを感じるのでしょうか。その根源は、私たちが演奏する音楽の多くが、2や4で割り切れる偶数の構造を基本としている点にあります。
4分、8分、16分といった音符体系は、私たちの身体感覚に深く根付いています。パラディドルのような代表的なルーディメンツも4打で一つの周期となっており、拍の頭に自然に着地しやすい設計です。つまり、私たちの身体の動きは、偶数の構造に最適化されていると考えられます。
一方で、5、7、9といった奇数連ロールは、この偶数の規則性から外れることになります。例えば、16分音符の連続の中で5ストローク・ロールを演奏すると、その終わりは拍の頭や裏といった明確な区切りには収まりません。この「着地点のずれ」が、タイミングの取りにくさの要因となっているのです。次のアクションへの移行が円滑に行えず、結果としてフレーズが不安定になる傾向があります。
この課題に対処するためには、奇数連ロールを、偶数連符を基準とした構造の中で、意図的にコントロールする思考法が必要となります。
奇数連ロールを再定義する – ダブルストロークからのアプローチ
奇数連ロールを習得するための鍵は、フレーズを「分解」し、慣れ親しんだ動きの組み合わせとして「再構築」することです。ここでは、多くのドラマーが基礎として習得しているダブルストロークを、その再構築の核として用います。
奇数連ロールを、手順の羅列として捉えるのではなく、「偶数単位の塊」と「端数の1打」の組み合わせとして認識し直します。この思考法は、認知的な負荷を低減させ、高速なテンポでも安定した演奏を可能にすると考えられます。
5ストローク・ロールの分解
5ストローク・ロールは、最も基本的な奇数連ロールです。これを「4打のダブルストローク」と「最後の1打」に分解して考えます。
- 手順:
RRLL RまたはLLRR L - 分解後の認識:[RRLL] + [R] または [LLRR] + [L]
この考え方では、最初の4打は身体に馴染んだダブルストロークとして処理し、意識を最後の1打のタイミングと音色に集中させることができます。フレーズ全体を一挙にコントロールしようとするのではなく、処理を分割することで、正確性と速度の両立が期待できます。
7ストローク・ロールの分解
7ストローク・ロールも同様のアプローチで分解できます。これは「6打のダブルストローク」と「最後の1打」の組み合わせです。
- 手順:
RRLLRR LまたはLLRRLL R - 分解後の認識:[RRLLRR] + [L] または [LLRRLL] + [R]
6連符のダブルストローク自体が難しいと感じる場合は、さらに[RRLL] + [RR] + [L]のように、より小さな単位に分解して練習することも有効です。重要なのは、自分が無意識的に処理できる単位までフレーズを分解し、意識を向けるべきポイントを最小限に絞り込むことです。
9ストローク・ロールの分解
9ストローク・ロールは、フィルインの締めくくりなどで効果的なアクセントとなり得ます。これも「8打のダブルストローク」と「最後の1打」として捉えます。
- 手順:
RRLLRRLL RまたはLLRRLLRR L - 分解後の認識:[RRLLRRLL] + [R] または [LLRRLLRR] + [L]
ここまで来ると、ロールの大部分は馴染みのある偶数連符の感覚で処理できるため、高速なテンポでもフレーズの輪郭を保ちやすくなります。奇数連ロールは偶数連の延長線上にある特殊な形である、と認識を更新することが、習得に向けた第一歩となります。
実践編:16ビートに組み込む奇数連ロール・フィルイン
理論を理解した上で、次はそれを実際のフィルインとして楽曲に組み込む方法を検討します。ここでの要点は、16分音符で構成された「グリッド」を意識し、そのどこに奇数連ロールという「音符の塊」を配置するかを設計する思考です。
16分音符のグリッドを意識する
多くの楽曲におけるフィルインは、1拍(16分音符4つ分)や2拍(16分音符8つ分)といった単位で行われます。この時間的な枠組みを「グリッド」と捉え、その中でフレーズを組み立てます。奇数連ロールを使う際は、その音符の長さがグリッド上でどの程度の領域を占めるかを正確に把握することが不可欠です。
例えば5ストローク・ロールは、16分音符5つ分の長さに相当します。この塊を、1拍や2拍のフィルインスペースのどこに配置すれば、次の小節の頭に円滑に着地できるかを逆算して考えます。
5ストローク・ロールを使ったフィルインの具体例
1小節の4拍目をすべて使ってフィルインを行う場面を想定します。この4拍目というスペースは、16分音符4つ分のグリッドです。ここに5ストローク・ロールを組み込むにはどうすればよいでしょうか。
一つの方法は、3拍目の最後の16分音符の位置からロールを開始することです。
3拍目 | 4拍目
...e & a | 1 e & a ...
... ● | ● ● ● ● ● ...このように、3拍目の4つ目の音から5ストローク・ロール(RRLL R)を開始すると、最後のRがちょうど4拍目の4つ目の音の位置に来ます。この最後の1打をクラッシュシンバルなどに移動させれば、次の小節の頭に繋がる効果的なフィルインが構成できます。これは、奇数連ロールをフィルインとして活用する際の基本的な設計思想です。
7, 9ストローク・ロールへの応用
この設計思想は、7ストロークや9ストロークのロールにもそのまま応用できます。
例えば、2拍(16分音符8つ分)のフィルインで9ストローク・ロールを使う場合を考えます。9ストローク・ロールは16分音符9つ分の長さを必要とするため、フィルインが始まる拍の1つ前の拍の最後の音からスタートする必要があります。
フィルインを3拍目と4拍目で行うと仮定すると、2拍目の4つ目の16分音符の位置から9ストローク・ロールを開始します。そうすると、最後の9打目が4拍目の最後の16分音符の位置に収まり、次の小節の頭に円滑に接続できます。
このように、使いたいロールの長さ(音符の数)を把握し、着地したいタイミングから逆算して開始位置を決める。このプロセスこそが、奇数連ロールをフィルインで自在に扱うための中心的な技術となります。
まとめ
本稿では、5、7、9ストロークといった奇数連ロールを高速なフィルインで活用するための、具体的な思考法とアプローチを解説しました。
奇数連ロールがもたらす扱いにくさの要因は、偶数連符に慣れた身体感覚との間に生じる「着地点のずれ」にあります。この課題に対し、ロールを「ダブルストロークの塊」と「端数の1打」に分解して認識するアプローチは、認知的な負荷を軽減し、高速化と安定化に寄与します。
さらに、16分音符のグリッドを基準に、音符の塊をどこから開始すれば狙ったタイミングで終われるかを設計する思考法は、奇数連ロールを即興的なフィルインの中でも扱うための指針となります。
このメディアでは、複雑な問題を構造的に理解し、分解・再構築することで本質的な解決を目指すアプローチを探求しています。今回解説したルーディメンツの習得法も、単なるドラムの技術論に留まるものではありません。それは、一見すると扱いにくい問題を、制御可能な要素の組み合わせとして捉え直すという、より普遍的な思考の訓練でもあります。
これまで避けてきた奇数連ロールに、本稿で提示したアプローチで向き合ってみてはいかがでしょうか。それはドラミングの表現を豊かにするだけでなく、複雑な事象を分解して対処するという、より普遍的な思考能力を養う一助となる可能性を秘めています。









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