ドラム演奏において、既存の音色やパターンに留まらず、表現の幅を広げるための新たな音を模索する場面があります。楽曲に意外性や構造的な変化を加えたいと考えながらも、具体的な方法論が見出しにくいという課題は、多くの演奏者が直面する可能性があります。
この記事では、そうした状況を打開する一つの選択肢として、特殊な奏法である「スティックオンシンバル」を紹介します。これはライドシンバルなどの上にスティックを置き、もう一本のスティックでそのスティックを叩くことで、金属的でパーカッシブなサウンドを生み出すテクニックです。
本稿は、当メディアが扱うテーマの一つである『ドラム知識』、その中でも応用的な奏法に分類される内容です。単なる技術解説に留まらず、このテクニックがどのように私たちの創造性を刺激し、表現の選択肢を広げるかという視点から分析します。この記事を通じて、ドラムセット全体が音源であるという認識を深め、新たな音楽的探求への道筋を提示します。
ドラムにおけるスティックオンシンバルとは何か
スティックオンシンバルとは、シンバルの上に片方のスティックを置き、もう片方のスティックでそれを叩く奏法を指します。この奏法から生まれる音は、通常のシンバルレガートやクラッシュサウンドとは大きく異なります。
サウンドの主な特徴は、硬質で金属的なアタック音と、短いサスティンです。シンバルの倍音がミュート(消音)されることで、明確なピッチ感のある「カン」というパーカッシブな音が得られます。この音色は、ラテンパーカッションで用いられるウッドブロックやアゴゴベルの音にも近く、リズムパターンに特有のアクセントを加えることができます。
この奏法は、既存のサウンドパレットに留まらず、楽器の新たな可能性を追求する過程から生まれたものと考えられます。ドラムセットという限られた機材の中で、いかにして新しい音を生み出すかという探求が、このユニークなテクニックの背景にあります。
スティックオンシンバルの基本的な奏法
この奏法を実践するために、特別な機材は必要ありません。手持ちのスティック2本とシンバルがあれば、すぐに試すことが可能です。ここでは、ライドシンバルを用いた一般的な手順を解説します。
スティックの配置
まず、片方のスティック(以下、ミュートスティック)をライドシンバルの上に置きます。基本的な配置は、スティックのショルダー(チップの少し下、太くなっている部分)をシンバルのベル(中央の盛り上がった部分)に乗せる形です。ミュートスティックのチップ側がシンバルのエッジ(縁)方向に向くように配置します。このとき、スティックを置く位置や角度、シンバルに触れる面積によって音色やサスティンが変化します。
叩くスティックの動き
次に、もう片方の手に持ったスティックで、シンバルの上に置かれたミュートスティックを叩きます。叩く場所は、ミュートスティックのどの部分でも構いません。例えば、スティックの中央付近を叩けば、比較的オープンな響きを持つ音になります。一方で、グリップエンド(持ち手側の端)に近い部分を叩くと、よりタイトで短い音が得られます。
音色の探求
スティックオンシンバルの音色は、複数のパラメータによって変化します。
- ミュートスティックを押さえる力加減
- ミュートスティックを置く位置(ベル、ボウ、エッジ付近)
- 叩く側のスティックで打つ強弱
- 叩く側のスティックで打つ場所(チップ、ショルダー、グリップ)
これらの要素を組み合わせることで、多様な音色バリエーションを生み出すことが可能です。様々な組み合わせを試行し、意図する音色を探求するプロセスが重要です。
効果的な活用シーンとアイデア
この特殊なサウンドは、実際の演奏においてどのように活用できるのでしょうか。ここでは、具体的な活用シーンを3つ提案します。
静かな場面でのアクセント
バラードの静かなセクションや、楽曲がブレイクする瞬間など、音数が少なくなる場面でスティックオンシンバルを単発で鳴らすと、効果的なアクセントとして機能します。特徴的な金属音が聴き手の注意を引きつけ、楽曲に展開の変化を与える効果が期待できます。
リズムパターンの代替要素
ハイハットやライドシンバルの代わりに、スティックオンシンバルのサウンドをリズムの主軸として使用することも可能です。短いサスティンと明確なアタックを持つこの音は、クローズドハイハットのようにグルーヴを構成する役割を担うことができます。特に、ラテンやアフロキュースタイルの音楽において、パーカッション的なアプローチとして有効です。
特殊効果音(SE)としての利用
イントロや間奏、アウトロなどで、楽曲の世界観を演出するためのサウンドエフェクトとして使用する方法もあります。この金属的な響きにディレイやリバーブといった空間系エフェクトを組み合わせることで、特有の音響空間を構築することができます。
スティックオンシンバルから学ぶ既成概念の転換
スティックオンシンバルは、単なるテクニック以上の示唆を与えます。それは、既成概念から自由になり、創造性を発揮するための思考法です。
「楽器」の定義を再考する
通常、シンバルは「叩く対象」、スティックは「叩くための道具」として認識されます。しかし、スティックオンシンバルという奏法は、その役割を転換させます。シンバルはスティックを共鳴させる「装置」となり、上に置かれたスティックは「音源」としての役割を担います。この視点の転換は、ドラムセットの他の部分にも応用可能です。リム(フープ)やシェル(胴)、スタンドのパイプに至るまで、全てが潜在的な音源であると捉え直すことで、表現の選択肢が広がります。
制約が創造性を促す
ドラムセットは、ピアノやギターに比べて音階の自由度が低いという特性を持つ楽器です。スティックオンシンバルのような奏法は、このような制約の中で新しい表現方法を模索する試みの一つです。「シンバルはこう叩くものだ」という一般的な認識を一度保留し、自分なりの使い方を模索するプロセスそのものが、奏者としての独自性を構築する一助となります。これは、決められたルールの中でいかにパフォーマンスを最適化するかを考える、当メディアが提唱する「ポートフォリオ思考」にも通底するアプローチです。
まとめ
今回は、特殊なドラム奏法である「スティックオンシンバル」について、その基本的な奏法から効果的な活用法、そしてその背景にある思考法までを解説しました。
このテクニックは、演奏における表現の選択肢を増やし、新たな音楽的展開をもたらす可能性があります。しかし、より重要なのは、この奏法が示唆する「既成概念を再検討し、身の回りにあるものの新たな可能性を探求する」という姿勢です。
ドラムセットは、探求心次第で多様なサウンドを引き出せる、創造性のためのツールです。まずは手元の機材を使い、音色の探求を試みてはいかがでしょうか。









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