「ToDoリスト」より「To Feelリスト」。今日、どんな気分でいたいかを決める

私たちは日々、多くの「やるべきこと」に囲まれて生活しています。起床してから就寝するまで、スマートフォンの通知やカレンダーの予定が、次々と私たちに行動を促します。多くの人が活用する「ToDoリスト」は、こうしたタスクを効率的に管理し、生産性を高めるための優れたツールです。

しかし、リストの項目を一つひとつ完了させていく作業に、精神的な充足感は伴っているでしょうか。タスクを完了した瞬間の達成感はあっても、それが持続的な幸福感に直結しないことがあります。むしろ、次から次へと現れるタスクを処理するだけの毎日に、精神的な疲弊を感じる人も少なくないかもしれません。

この記事では、そのような「行動中心」の状態から、「感情中心」のあり方へと視点を移行させるための、新しい思考の枠組みを提案します。それが、一日の始まりに「今日、どのような感情状態でいたいか」を定義する「To Feelリスト」です。

目次

ToDoリストの限界と、それが心にもたらす影響

ToDoリストの本質は、タスク管理による生産性の向上にあります。その焦点は、あくまで「何をすべきか(What to do)」という外部的な行動に置かれています。もちろん、これは目標達成や日々の業務を遂行する上で不可欠な要素です。

しかし、このアプローチにはいくつかの限界が存在する可能性があります。第一に、「なぜそれを行うのか(Why)」や「それを通じて何を感じたいのか(How to feel)」という内面的な動機が考慮されにくい点です。タスクを完了させること自体が目的となり、その過程で得られる感覚や、行動の先にあるはずの感情的な報酬が見過ごされがちになります。

第二に、常に「次」のタスクに意識が向かうため、現在の瞬間に集中することが難しくなる傾向があります。これは、私たちの意識を未来への懸念や過去への反省から引き離し、「今、ここ」という感覚を維持することを困難にさせ、精神的な消耗を招く一因となる可能性があります。

当メディアでは、ピラーコンテンツである『パニック障害』を、身体感覚への過剰な注意と、それに対する「コントロールを失うことへの恐怖」という側面から分析しています。ToDoリストによる「物事を管理できている感覚」は、一見すると安心材料のように思えるかもしれません。しかしその実態は、外部のタスクに自分自身が管理されている状態であり、自らの内的な心の状態からは意識が離れている状態とも言えます。

この心と行動の乖離は、予期せぬ心身の不調に対する脆弱性を高める可能性があります。本稿が属する『アスリート的生活術』というテーマは、心身のコンディショニングの重要性に着目します。トップアスリートが最高のパフォーマンスを発揮するために、技術や体力だけでなく精神状態を細心の注意を払って調整するように、私たちもまた、日々の生活という舞台で能力を発揮するために、自らの「心の状態」を能動的に調整する必要があるのです。

To Feelリストとは何か:行動の目的を感情に設定する

ToDoリストが具体的な行動計画を示すものである一方、「To Feelリスト」は目的とする感情状態を定義するものです。これは、一日の始まりに「今日、私はどのような感情状態で過ごしたいか」を自らに問いかけ、その日に経験したい感情を明確にするという、簡潔かつ効果的な手法です。

例えば、以下のような感情がリストアップされるかもしれません。

  • 穏やかな状態
  • 集中している感覚
  • 知的好奇心や楽しさを感じる気持ち
  • 人との温かい関係性
  • 深くリラックスしている状態

ここで重要なのは、To FeelリストがToDoリストを否定したり、代替したりするものではないという点です。むしろ、To FeelリストはToDoリストの上位概念として機能します。

まず、目的とする「感じたい感情」を設定します。次に、その感情状態を実現するための具体的なルート、つまり「どのような行動(ToDo)をとるか」を考えます。このプロセスを経ることで、行動はそれ自体が目的ではなく、理想の感情を経験するための「手段」へと変わります。行動が、目的とする感情状態を達成するために寄与するようになるのです。この「To Feelリスト」という概念は、生産性向上のみを追求する思考から距離を置き、自分自身の内面的な状態に意識を向けるための第一歩となります。

To Feelリストの実践方法

To Feelリストの実践に、特別なツールや長い時間は必要ありません。日々の習慣として取り入れやすい、具体的な手順を紹介します。

静かな時間を確保する

朝の数分間、誰にも邪魔されない時間と場所を確保します。起床直後や通勤中の時間など、自身が内省に集中できる環境を見つけてください。

感じたい感情を問いかける

「今日、私はどのような感情状態で一日を過ごしたいだろうか?」と、心の中で静かに問いかけます。特定の正解はありません。ただ、心に自然と浮かんでくる感情や感覚を観察します。

感情を言語化する

1つから3つ程度の「感じたい感情」を、手帳やノートに書き出します。これが、その日の「To Feelリスト」となります。例えば、「平穏」「集中」「好奇心」といった単語だけでも十分です。

感情と行動を接続する

リストアップしたそれぞれの感情に対して、それを実現するための具体的な行動(ToDo)をいくつか検討します。

  • 「平穏」を感じたい → 昼休みに5分間、静かな場所で目を閉じて深呼吸する。
  • 「集中」を感じたい → 午前中はスマートフォンの通知をオフにし、一つのタスクに取り組む時間を作る。
  • 「好奇心」を感じたい → いつもと違う道で通勤してみる。関心のある分野の書籍を1ページだけ読んでみる。

一日の終わりに内省する

一日の終わりに、その日のTo Feelリストをどの程度実現できたか、どのような感覚があったかを軽く振り返ります。完璧に実行できなくても問題ありません。自身の感情に意識を向けられたこと自体が、重要なプロセスです。

なぜTo Feelリストがパニック障害の対策となりうるのか

このTo Feelリストというアプローチは、なぜパニック障害の対策という文脈で有効である可能性があるのでしょうか。その理由は、主に3つの側面から考えられます。

内的感覚への意識転換

パニック障害の一つの特徴として、不安や恐怖といったネガティブな内的感覚に意識が集中してしまう状態が挙げられます。To Feelリストは、意図的に「穏やかさ」や「安心感」といったポジティブまたはニュートラルな内的感覚に意識を向ける訓練となります。これは、自身の注意の焦点を自らコントロールする練習であり、認知行動療法的なアプローチにも通じるものです。

コントロール感覚の再獲得

「予期不安」は、未来の不確実性や、自身の心身がコントロール不能に陥ることへの恐れから生じることがあります。To Feelリストは、「自身の感情状態は、自らの選択と行動によって創造できる」という自己効力感を育む可能性があります。コントロールの対象を、外部のタスクの完了から、内面の感情の充足へと移行させることで、より本質的で安定した安心感を得ることに繋がります。

身体と心の再接続

「穏やかさ」を感じるために深呼吸をする、「楽しさ」を感じるために少し歩くペースを上げてみるなど、To Feelリストは感情と身体的な行動を意識的に結びつけます。これにより、ストレス下で乖離しがちな心と身体の繋がりを回復させる効果が期待できます。これは、アスリートが心身の状態を一致させることで最高のパフォーマンスを引き出すプロセスと、本質的に同じ構造を持っています。

まとめ

私たちは、日々のタスクを効率的に処理する「ToDoリスト」の価値を認めつつも、その限界を認識する必要があります。行動に追われるだけの毎日から抜け出し、より充足感のある人生を送るためには、新たな指針が求められます。

それが、今日どのような気分でいたいかを自ら決める「To Feelリスト」です。これは単なるタスク管理の技法ではありません。自身の心の状態を何よりも優先し、大切にするという、内面的な充足へと価値観を向ける試みです。

当メディアが一貫して提唱するように、健康、特に精神的な健康は、資産形成やキャリアを含む全ての人生の活動の土台となります。To Feelリストを実践することは、その最も重要な土台を、日々丁寧に、そして主体的に築き上げていくための、具体的かつ強力なツールとなり得ます。

まずは明日、たった一つで構いません。「どのような気分でいたいか」を自らに問いかけることから始めてみてはいかがでしょうか。その小さな問いが、あなたの日常を、そして人生を、より深く豊かなものへと変えるきっかけになるかもしれません。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

サットヴァ(https://x.com/lifepf00)

『人生とポートフォリオ』という思考法で、心の幸福と現実の豊かさのバランスを追求する探求者。コンサルタント(年収1,500万円超/1日4時間労働)の顔を持つ傍ら、音楽・執筆・AI開発といった創作活動に没頭。社会や他者と双方が心地よい距離感を保つ生き方を探求。

この発信が、あなたの「本当の人生」が始まるきっかけとなれば幸いです。

コメント

コメントする

目次