注意:本記事の内容は、公開されている報道と組織論的知見に基づいた推論であり、特定の事実を断定するものではありません。
現在、JR中央・総武線各駅停車の運転士の間で「意識が朦朧とする」「記憶が飛ぶ」といった謎の体調不良、通称「中電病」が相次いでいます。これは単なる個人の健康問題や、過密ダイヤによる疲労という言葉だけでは片付けられません。なぜなら、この現象は「中野統括センター(旧・中野電車区)」という特定の拠点に圧倒的に偏って発生しているからです。本稿では、この異常事態の背後にある組織的、歴史的、そして構造的な背景を類推いたします。
現場を蝕む「場所」の固有性と異常な頻度
中央・総武線を担当する拠点は複数ありますが、3年間で約40件という異常な頻度のオーバーランや居眠り、意識のシャットダウンは、中野統括センターの所属者に集中しています。対照的に、津田沼側の運転士には同様の現象がこれほど顕著には見られません。
この差が意味するのは、原因が車両や路線といった物理的な環境にあるのではなく、中野という組織の内部に「脳・精神を停止させる何か」が存在するということです。現場の人間を追い詰め、自律神経を破壊するメカニズムを理解するためには、組織の歴史をまずは2018年まで遡ります。
2018年の「断絶」:労使共同宣言の失効がもたらしたもの
JR東日本におけるマネジメントのあり方を決定的に変えたのは、2018年の労使共同宣言の失効です。30年続いた労使の協調体制が終焉を迎え、会社側が組合の影響力を徹底的に排除し、直接的に現場を統制する体制へと舵を切りました。
この過程で導入されたのが、逃げ場のないマイクロマネジメントです。わずかな停止位置のズレや、秒単位の遅れさえも徹底的に追及される「ミス=悪」の空気が醸成されました。管理者による直接的かつ過激な監視体制は、現場から心理的安全性を奪い去りました。人間は、常に誰かに監視され、失敗が許されない極度の緊張状態に置かれ続けると、脳が自己防衛のために機能を停止させることがあります。これが「中電病」の正体であると考えられます。
歴史的文脈の影:名門拠点を縛る「完璧主義」の罠
なぜ、中野という拠点がこれほどまでに苛烈な規律の暴走に陥るのでしょうか。そこには、この拠点が長年「インフラ運行の中枢」として、また「伝統ある名門」として自負してきた歴史的背景が影響していると考えられます。
かつて中野の地には、精鋭教育機関が置かれるなど、特殊な任務を遂行するための「高度な規律」が求められる歴史がありました。こうした土地の記憶と、明治以来の日本の公的組織(警察や軍隊など)に共通する「個人の生存本能よりも、集団の規律を優先させる」という設計思想が、現代の高度な監視システムと不全を起こした可能性があります。
名門拠点であるがゆえに、他よりも厳しい規律を自らに課し、わずかなエラーも許さないという完璧主義。それが、組合という緩衝材を失った2018年以降の管理体制下で「逃げ場のない統制」へと変質しました。この伝統的なエリート意識が、皮肉にも現場の自律神経に限界をもたらす要因となっているのです。
中間層の消失が招く、ダイレクトな圧力の衝突
組織構造の歪みも、この機能不全を加速させています。現在の現場では、30代から40代の中間層が薄く、昭和の苛烈な規律を知る50代以上の管理職と、現代的な価値観を持つ20代の若手が直接対峙する構図になっています。
本来、中間層は上層部からの無理な要求を現場の言葉に翻訳し、圧力を緩和する緩衝材の役割を果たします。しかし、管理の直接化が進み、このフィルターが消失したことで、管理職の「矯正」への熱意がダイレクトに若手の精神を直撃しています。労働力不足ゆえに適性を見極めきれずに配置された若手が、この過酷な監視網に耐えられず、脳・精神をシャットダウンさせてしまうのは、構造的な必然とも言えます。
結論:矯正のエネルギーが健全な層を破壊する可能性
もちろん、なんかの化学物質の問題であり、組織的な構造の問題ではない可能性もある。しかし、組織論の視点から言えば、組織内の「矯正不可能な層」に過剰なエネルギーを割くことは、組織全体の崩壊を招く可能性がある。現在の不全組織で見られるのは、一部の「規律に従えない者」を無理やり矯正しようとする執念が、監視体制を際限なく強化し、結果として健全に機能していたはずの層までをも過緊張で破壊している可能性です。
「中電病」は、古い組織の情念と現代の監視システムが衝突して起きた、組織の自律神経失調症の可能性を想起させる。今、必要なのは規律の再強化でも、ミスの徹底追及でもなく、組織内に「余白」と「信頼」を再構築し、現場が恐怖ではなく自律性によって動ける状態のバランスを取り戻すこと。それこそが、組織を死に至らしめる「脳・精神の停止」を防ぐ唯一の解決策ではないでしょうか。









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