市の税収が減って市が公約を実行できなくなると、人々はその失敗を「民主社会主義は非現実的だった」と説明し、家賃が高いままという問題は調べられずに残ります。この流れは筆者の見立てで、起きたと確かめられた出来事ではありません。
しかし、民間企業の資金移動や連邦政府の対応まで、市政が失敗した理由にしてよいのでしょうか。市の財源が減る原因は政策の外にもあります。
この記事は、生活費危機、公約の中身、歴史の2つの型、財源が減る流れ、失敗の責任を誰が負うかの順に書きます。
家賃の高騰が、勝利の背景にある生活費危機だった
ゾーラン・マムダニ氏は、2025年11月4日のニューヨーク市長選挙で勝ちました。民主社会主義者で、アメリカ民主社会主義者(DSA)のニューヨーク市の支部に所属しています。若い有権者からの支持が勝利を支えました。
若い有権者が重く見たのは、家賃をはじめとする生活費の上昇です。経済学者トマ・ピケティは、資本の収益率(r)が経済成長率(g)を上回ると、すでに資産を持つ人の富が経済全体より速く増えると論じました。
ピケティの「r>g」の式をニューヨーク市の家賃に当てはめると、不動産の持ち主が得る収益(r)が増えるほど、賃金の伸び(g)に頼る借り手の負担が重くなります。これは筆者の当てはめで、家賃の上昇をこの式だけで説明できるかは確かめていません。
公約は家賃・食料品・バス・保育の4分野に向けられていた
マムダニ氏の主な公約は、家賃規制の対象になっているアパートの家賃凍結、各区に市営の食料品店を1店ずつ置く試行、バス運賃の無料化、公的な保育の拡充です。どれも、毎月の生活費を市の政策で下げる内容です。
マムダニ氏は、財源として、州の法人税を7.25%から11.5%に上げることと、年収100万ドルを超える市民に2%の所得税を課すことを提案しています。収入が大きい層への課税で、保育や大学の無償化などを賄う計画です。
歴史には、文化的反乱と制度的構築の2つの型がある
大きな運動の結末は、運動が何を目指したかで分かれます。文化的反乱の例が、1967年のサマー・オブ・ラブです。サンフランシスコのヘイト・アシュベリーに最大10万人の若者が集まり、価値観や暮らし方を変えようとしました。
サマー・オブ・ラブは、政治権力の獲得や経済の制度の作り替えを主な目的にしていませんでした。雑誌が大きく報じ、曲やミュージカルが売れるなど、その文化は商品として広まりました。
制度的構築の例が、第一次世界大戦後のウィーンです。1918年から1934年まで、オーストリア社会民主労働党が市政を担い、市営住宅を大量に建てました。財源の中心は、別荘や高級な住宅に重い税率をかけた住宅建設税です。
マムダニ氏は家賃や保育を市の制度で変えようとしているので、その公約は制度的構築の型に入ります。
財源が減ると、公約の実行が止まる
市の財源が減れば、公約の実行は止まります。2025年11月3日、トランプ大統領は、マムダニ氏が当選すれば、法律で定められた最小限を除き、ニューヨーク市に連邦の資金を出す可能性は低いと述べました。
富裕層や金融・不動産の事業者が市外へ移れば、税収も減ります。連邦の資金が絞られ、税収も減ると、公約の実行に回す資金がなくなります。警察、消防、教育といった基本のサービスの水準を保つことも難しくなります。
財源が減って公約が止まるまでの流れは、起こりうることとして書いたもので、実際に起きるかどうかは確かめられていません。事業者の転出や資金の削減が計画的に行われるかどうかも、確かめられていません。
公約を実行できなかったとき、人々はその責任を政策を選んだ有権者に負わせる
市が財源を失って公約を実行できなかったとき、人々はその結果を「非現実的な政策を選んだからだ」と説明します。人々は、失敗の責任を、政策を選んだ有権者と市長に負わせます。
「非現実的な政策だった」という説明が広まると、家賃が上がり続ける仕組みを誰も調べないままになります。責任を個人の選択に帰す考え方が「自己責任」で、元の問題を直そうとした試みだけが失敗として記憶されます。
今後の市政について、公約の実行状況と止まった理由を確かめてみてはいかがでしょうか
ニューヨーク市の家賃や保育の公約が実行されたか、実行されなかったならその理由は何か。市や連邦の公式な発表と数字で確かめると、失敗と説明される出来事の中身が分かります。







