BPM200前後までは叩けるのに、220になると手が追いつかない。テンポ300のスウィングのレガートは、粒が揃う前に腕が疲れてしまう。この壁を前にしたとき、私が最初に疑ったのはスティックでした。太さが合っていないのではないか、長さを変えれば楽になるのではないか。そう考えて、スペックの検証を始めました。
この記事が答えるのは、スティックのスペックと速さの壁の関係です。結論を先に言うと、太さや長さの調整で得られるものは確かにありますが、壁の正体はそこにはありませんでした。
速いドラマーのスティックは、思ったより細い
有名ドラマーのシグネチャーモデルを実際に調べてみると、意外な傾向が見えてきます。速さや繊細なコントロールで評価されるドラマーほど、細めのスティックを選んでいるのです。
片手だけの超高速ストロークで世界的に知られるEl Estepario Siberianoのシグネチャーは14.1ミリで、標準的な5Aよりわずかに細い設計です。また、淳士のモデルは14ミリ、真矢のモデルも14ミリです。パワフルな印象のあるドラマーでも、実測値は14ミリ台に収まっているケースが目立ちます。
一方で15ミリを超える太いモデルを使うドラマーもいますが、その場合は素材に軽いメイプルを選んで、太さのわりに総質量を抑える設計になっていることが多いようです。太ければパワフル、という単純な話ではなく、太さと質量と重心のバランスをどう組むかが設計の本質だと分かってきます。
テーパーの理論は、メーカーごとに説明が食い違う
太さの次に検証したのがテーパー、つまりスティックの重心設計です。重心が先端にあるのか、グリップ側にあるのか?ということです。ここを調べていくと、興味深い事実にぶつかりました。メーカーによって説明の力点が食い違っているのです。
あるメーカーは、チップ側に重心が寄る短いテーパーの方がリバウンドが速く強く、音量やアタックを出しやすいと説明しています。別のメーカーは、グリップ側に重心が寄る長いテーパーの方がリバウンドを高めて速い展開に向くと説明しています。重心の作用のどの側面に注目するかが各社で違うのだと思いますが、少なくとも、テーパーと速さの関係に業界共通の答えがあるわけではなさそうです。
この食い違いに気づいた時点で、疑いが生まれました。道具の設計理論をいくら比較しても、速さの壁を破る決定的な答えには近づいていないのではないか、と。
スティックを変えれば速く叩けるようになるのか
スティックを変えれば速く叩けるようになるのか。この問いには、次のように答えられます。太さや長さの調整は疲労の軽減とグリップの安定に効きますが、BPM220前後の高速フレーズや粒の揃ったレガートが叩けない原因の多くは、道具ではなく奏法にあります。一打ごとに手首や腕を振る奏法のままでは、繰り返せる速度に物理的な上限が生まれるため、スペックをどう調整しても、その上限自体は動かないのです。
壁の正体は、指で二打目を作る技術、プッシュ・プルだった
検証の末にたどり着いたのは、プッシュ・プルと呼ばれる奏法でした。手首でスティックを振り下ろして一打を出したあと、手首は下げたまま、指の握り込みだけで二打目を作る技術です。ひとつの腕の動きから二つの音が生まれます。
この奏法の要点は、手首と指という別々の筋肉を交互に使うことにあります。片方を酷使せずに済むため、疲労を溜めずに高い速度域へ届くようになります。しかもこの技術はスティックのリバウンドへの依存が小さいため、重心設計の違いに左右されにくいという性質もあります。テーパー理論の食い違いに悩む必要が薄れるのは、このためです。
さらにこの技術は、連打の速さだけでなく、ジャズ系の速いライドパターンで粒を均一に保つ場面でも効きます。私が壁を感じていた高速レガートは、まさにこの奏法が本領を発揮する領域でした。習得には月単位の練習が必要とされていますが、少なくとも壁の場所がスティック売り場ではなく練習パッドの上にあると分かったことは、大きな前進でした。
それでも、音の好みは手放さなくていい
技術がボトルネックだったと分かっても、道具の好みまで否定する必要はありません。素材によって音の性格は実際に変わります。軽く密度の低いメイプルはシンバルが繊細で暖かく、タムは丸みのある音になりやすく、密度の高いヒッコリーは輪郭のはっきりした音になりやすいとされています。
私はメイプルで鳴らすシンバルとタムの音が好きで、これは技術では代替できない価値です。そこで、指の技術を鍛える練習には軽くて標準テーパーの細身なスティックを使い、好きな音を鳴らす場面では従来のメイプルの太いモデルに戻る、という使い分けに落ち着きました。道具は速さの壁を破る魔法ではなく、鍛えた技術をどんな音で鳴らすかを選ぶためのものだった、というのが検証の結論です。
まとめ:道具を疑う前に、奏法を疑う
速さの壁にぶつかったとき、スティックに手を伸ばすのは自然な反応です。ただ、太さも長さもテーパーも検証した先に見えたのは、道具の理論の外側にある奏法という答えでした。もし同じ壁を感じているなら、次のスティックを買う前に、指で二打目を作る練習を一度試してみることを検討してみてはいかがでしょうか。




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