趣味が昔のように楽しめない主な理由は、上達して耳や目が肥えた結果、やっている最中に自分の出来を細かく判定し続けるようになり、頭が疲れることです。ただし、この仕組みが日常の趣味の疲れを説明することは、研究ではまだ確かめられていません。
しかし、息が上がり、腕もだるくなるのだから、体力の問題ではないのか、と感じる方もいるでしょう。
この記事では、疲れの中身の見分け方、関連する実験、判定を休ませる3つの方法を順に並べます。
疲れの源は、集中力と判断力の消耗にある
疲れの源は、腕や脚の限界の手前にある、集中力と判断力の消耗です。ドラムを例にすると、叩いたあとに観察して、息は上がっていても腕や脚が限界に来ているわけではない、と気づく人がいます。
若い頃は没頭するだけで済んだところに、理想との差を判定する処理が加わり、頭の負荷が増えます。
若い頃は、対象に没頭する処理ひとつで完結していました。目や耳が肥えた大人は、没頭しながら、理想との差をその場で判定する処理も同時に動かしています。
ブランクの間に育った耳が、演奏中も判定を続ける
育った耳は、自分が演奏している最中も、理想との差を探し続けます。楽器から離れていた間も、音楽を聴き込み、好きなドラマーの音作りを分析していれば、良い音とそうでない音の区別がつくようになります。
演奏していない間も、耳は上達し続けます。この耳は、音源を作るときや機材を選ぶときには欠かせない基準になります。
一方、演奏している最中も、耳は判定をやめません。タイムのズレ、音の粒立ち、シンバルの当たり方といった理想との差を、一打ごとに見つけて意識に上げます。演奏を楽しむつもりで座っても、一打ごとに出来を判定されている状態になります。
熟練した動きは、意識して監視すると乱れることが実験で示されている
熟練者が自分の動きを段階ごとに意識すると、成績が下がることが実験で示されています。認知科学者のシアン・バイロックらは、2002年にJournal of Experimental Psychology: Appliedで、経験者のゴルファーを対象にした実験を発表しました。パットの各段階に注意を向ける条件より、別の課題で注意をそらされる条件のほうが、パットは正確でした。
バイロックらによる2004年の実験(Psychonomic Bulletin & Review)でも、経験者のゴルファーは、スイングの手順に注意を向ける条件より、音を聞き分ける別の課題を同時に行う条件のほうが正確でした。時間に制限をかけて、動きを監視する余裕を減らした条件でも、経験者の正確さは上がっています。
ただし、これらの実験が調べたのは、ゴルフなどの動作の正確さです。日常の趣味で起きる頭の疲れが同じ仕組みで説明できるかは、確かめられていません。判定が疲れを生むという見方は、実験で確かめられたものではなく、体験から立てた仮説です。
体力の衰えのせいだと決めると、練習の設計で減らせる疲れを減らす手立てが使えなくなる
原因を体力と決めると、打てる手は鍛え直すか諦めるかの二択になります。もう歳だからと言って、趣味をひとつ手放した経験のある方もいるでしょう。
しかし疲れの主因が判定の負荷なら、練習の設計で減らせる疲れです。見立てを誤ると、減らせる疲れまで、仕方のないものとして扱うことになります。
見立ての誤りは、観察の前に原因を決める順序にある
体力の衰えそのものは実在します。見直したいのは、疲れの中身を観察する前に原因を決めてしまう順序です。腕が疲れているのか、頭が疲れているのかを見分けることが、対処の出発点になります。
何をしても楽しめない状態では、設計より休養が先になる
趣味に限らず、何をしても楽しめない状態が続いているときは、判定の疲れとは別の問題かもしれません。工夫より先に、休養や専門家への相談を検討してください。
この記事が扱うのは、目や耳が肥えた領域に疲れが集中するケースです。他のことは変わらず楽しめるのに、上達した趣味だけが消耗するなら、判定の負荷を疑う手がかりになります。
判定する耳は消せないので、判定する時間には区切りが必要になる
一度育った耳は元に戻りませんし、戻す必要もありません。そこで、判定する時間と判定を休む時間を分けます。
放っておくと、演奏中はずっと判定が続きます。判定を休ませる方法を、次の3つに分けて並べます。
録音しない判定禁止の1曲が、判定を休ませる枠になる
練習の最初か最後には、判定禁止の1曲が固定で入ります。ミスしても止まらず、音を詰めず、最後まで演奏します。
ここで大切なのは、録音しないことです。録音すると、あとで聴き返す自分が頭に入り、演奏が評価の対象に変わると思います。
理想の音がなければ、差は測れず判定は始まりにくい
判定は、理想との差を材料にして進みます。差を測れない状態にすれば、判定は始まりにくくなります。
詰めていないプリセットの音を使った演奏には、基準になる理想の音がありません。そのため、演奏だけが残ります。作り込んだ音源は、しっかり判定する日の練習に回します。
判定項目は、その日ひとつに絞られる
タイムも粒立ちも音色も、全項目を同時に判定すると、頭の負荷が上がります。今日はタイムだけ、今日は右手だけと決めて、他の項目は問わないことにします。
判定をやめるのではなく、担当範囲を狭める方法です。項目を絞ると改善点が明確になるため、練習の質も上がると思います。
夢中の楽しさは、意図して設計すれば取り戻せる
若い頃は、判定する耳が育っていなかったので、ただ夢中になるだけで楽しめました。いまは、その感覚が自然には戻らないため、場面を意図して設計する必要があります。
判定できる力は、良いものを見分ける目や耳と同じものです。目や耳が育った結果として判定の負担が生じているので、時間と範囲を決めて使えば、負担は抑えられます。
体力や歳のせいにして手放した趣味の中に、実は判定の疲れが原因だったものが、ひとつくらい混ざっていないでしょうか。
疲れの中身の観察と、判定を休ませる時間が出発点になる
昔の趣味が疲れて続かない理由は、育った目や耳が実行中も判定を続けることにあります。この判定は消せず、消す必要もありません。まず観察するのは、疲れているのが腕なのか頭なのか、そして疲れが目や耳の肥えた領域に集中しているかです。
判定を休ませる方法は3つです。録音しない判定禁止の1曲を置く、理想の音を外して差を測れない状態にする、判定項目を今日ひとつに絞る。この3つで、判定する時間と、夢中だけが残る時間を分けられます。
趣味の再開は、判定禁止の1曲を練習の最初か最後に置くことから始めてみてはいかがでしょうか。
