AIは、職業によって人の仕事を減らすことも、人の生産性を高めることもあります。内閣府の報告書「世界経済の潮流 2024年I」は、前者を「代替」、後者を「補完」と呼び、職業ごとに分けて示しています。
しかし、自分の職業が代替される側でなければ、AIへの備えは要らないのでしょうか。
この記事は、2024年7月に内閣府が公開した報告書(https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh24-01/index-pdf.html)の労働市場の章に書かれた内容を、職業、属性、リスキリングの順に示します。そのあと、世界経済の章に書かれた2024年前半の景気とリスク要因を示します。
AIは職業によって、仕事を減らす場合も、生産性を高める場合もある
AIが労働市場に与える影響は、職業によって代替にも補完にもなります。代替では、AIが仕事を引き受けて、その職業の労働需要が減ります。補完では、AIが人の労働を補って、生産性が高まります。
代替される職業と補完される職業
報告書は、経理事務員、一般事務員、データ入力事務員、管理・行政事務員を、AIの影響が大きく代替されやすい職業に挙げています。定型的で自動化しやすい作業が多いためです。
医師、裁判官、弁護士は、社会的に重い判断を担う職業です。完全に自動化することには社会の抵抗があり、人が関わり続けるため、AIは主に補完の役割を担います。
報告書が紹介するIMFの研究(Cazzaniga et al.)では、職業に就く人の割合は次の通りです。
| 対象 | 代替の影響が大きい職業 | 補完の影響が大きい職業 | 影響が小さい職業 |
|---|---|---|---|
| 世界全体 | 21% | 16% | 63% |
| 先進国 | 32% | 26% | 42% |
女性と教育水準の高い人は、AIの影響が大きい職業に就く割合が高い
報告書によると、所得水準を問わず調べた全ての国で、女性の方が代替されやすい職業にも補完されやすい職業にも就く割合が高くなっています。秘書、経理事務員、銀行窓口のように、AIの影響が大きい職業に女性が多いためです。
報告書が紹介するGmyrekらの2023年の研究では、生成AIで代替されうる仕事に就く人の割合は、女性が3.7%、男性が1.4%です。女性の中には、AIから便益を得る人も多いと報告書は示しています。
教育水準では、調べた全ての国で、教育水準が高いほどAIの影響が大きい職業に就く割合が高くなっています。補完されやすい職業に就く割合も、全ての国で教育水準が高いほど高くなります。代替されやすい職業は、アメリカとインドで教育水準が高いほど割合が高く、国によってばらつきがあります。
リスキリングは各国で官と民が進めており、日本は自分で学ぶ自信を持つ人が少ない
AIを使いこなす力を労働者全体で高めるため、各国では、官と民と大学が協力してリスキリング(学び直し)を進めています。報告書は、年齢が上がるほどITを活用した問題解決能力が低くなる傾向があるため、高齢層ほどリスキリングの必要性が高いとしています。
海外の取り組み
| 国 | 取り組み |
|---|---|
| フィンランド | 無料のオンラインコース「Elements of AI」を2018年に開設し、人口の1%を数か月で訓練するという当初の目標を達成しました。2021年には全EU市民の1%にAIの知識を提供しました。 |
| スペイン | 「復興及び強靭化施策」の一環として、2026年までに404億ユーロを投資する計画です。そのうち36億ユーロをデジタルスキルの訓練に充てます。 |
| イタリア | AI関連の企業研修にかかる費用を、税額控除の対象にしています。 |
| アメリカ | 2021年成立のAI訓練法に基づき、連邦政府職員向けの訓練プログラムを作っています。実施には年間200万ドルが必要とされています。 |
日本は、自分で学ぶ自信を持つ生徒の割合が低い
OECDのPIAAC(2012年)では、ITを活用した問題解決能力の平均点が最も高かった国は日本です。一方、PISA 2022では「学校が再び休校になったら自分で学習できる自信があるか」に前向きに答えた生徒の割合が、日本は40%でした。多くの国は70%前後で、日本は突出して低くなっています。
2024年前半の世界経済は、アメリカが堅調で、欧州が持ち直し、中国は成長が鈍っている
報告書は、2024年前半の景気を、国と地域ごとに次のように整理しています。アメリカは個人消費が増え、欧州は総じて持ち直し、中国は成長率が下がっています。
アメリカ:個人消費が増え、設備投資が緩やかに増加
個人消費は、名目賃金の伸びが物価上昇を上回り、超過貯蓄を取り崩しているため、増えています。増加の中心はサービス消費です。設備投資は、研究開発やソフトウェアなどの知的財産生産物への投資が中心で、緩やかに増えています。半導体法などの政策を受けた製造業の工場建設も、設備投資を増やしました。
欧州:緩やかに持ち直している
2024年1〜3月期に、ユーロ圏と英国の実質GDP成長率はプラスになりました。個人消費はユーロ圏が横ばいで、英国は持ち直しの兆しがあります。設備投資は、ユーロ圏も英国もおおむね横ばいです。ECBは2024年6月に政策金利を0.25ポイント引き下げて4.25%にし、イングランド銀行は5.25%で据え置きました。
中国:不動産市場の停滞が続く
実質GDP成長率は、2024年1〜3月期の前年同期比5.3%から、4〜6月期は4.7%に下がりました。住宅価格は一級・二級・三級のどの都市でも下がり続けています。不動産開発投資は、2024年1〜6月に前年同期比で10.1%減りました。
世界経済のリスクは、金利の高止まり、中国の不動産、中東情勢、米大統領選挙の4つ
報告書は、世界経済が下振れするリスクとして4つを挙げています。欧米の政策金利が高い状態の長期化と、中国の不動産市場の停滞が、需要を減らすリスクです。
- 欧米の政策金利の高止まりの長期化:住宅ローンの利払い負担と企業の資本コストが上がり、消費、住宅投資、設備投資が抑えられて、景気が下振れするおそれがあります。利下げ回数の市場予想は、年初の5〜7回程度から、6月中旬には約2回に減りました。
- 中国の不動産市場の停滞の長期化:関連企業の債務を返し続けられるかが懸念されています。補助金で過剰に生産された財が低価格で輸出される「過剰供給」も、各国から指摘されています。
- 中東情勢:2023年10月以降のイスラエルとパレスチナの衝突や、紅海での船舶への攻撃を受けて、海運がスエズ運河を避け、喜望峰を回る動きが増えました。物流コストの上昇圧力が続き、エネルギー価格が上がる局面もありました。
- アメリカ大統領選挙(報告書の時点では2024年11月5日の予定):移民政策と貿易政策が主な論点です。移民政策が厳しくなれば、労働の供給が不足してインフレが再び強まりえます。関税が広い品目で上がれば、輸入物価の上昇とサプライチェーンの混乱を通じて、世界経済に大きく影響しえます。
自分の業務は代替と補完のどちらに近いか
報告書によれば、AIの影響は職業ごと、そして属性ごとに異なります。まずはご自身の業務を一つずつ書き出し、定型的で自動化しやすい作業と、人が判断し続ける作業に分けてみてはいかがでしょうか。






