電子ドラムのシンバルが生と違って聞こえるのは、サンプルを再生する方式だと、前の打撃で出た振動がまだ残っている板を次に叩く、という状態を音に出せないからです。
しかし、上位機種に買い替えれば、この違いがなくなると考える人もいます。ローランドのV71、V51、V31は同じ音源エンジンと同じプリセットキットを使っているため、この3機種の間で機種を上げても、音を決める方式は変わりません。
この記事では、シンバルの音が決まる仕組み、サンプル再生の限界、板の振動を計算する方式、3機種の違いをこの順に説明します。
シンバル系の音は直前の打撃に左右される
生のシンバルは、1発目の振動が残った板を2発目で叩くため、同じ強さで叩いても同じ音になりません。シンバル系の音は、その一撃だけでは決まりません。
タムやキックは膜の縁が固定されているので、同じ場所を同じ強さで叩けば、ほぼ同じ波形が出ます。録った音を鳴らすサンプル再生と相性がよいのは、このためです。
シンバルは金属の板が中央付近で支えられ、縁が自由に動きます。物理モデルの研究では、振幅が大きいと振動のモードどうしが影響し合い、高い周波数の成分が急に増えることが示されています。
ハイハットは上の板と下の板が触れ合って振動するので、足で踏む強さによって、板どうしの触れ方が変わります。
ラウンドロビンは前の打撃を反映しない
ローランドはV71について、強さごとに分けた複数のサンプルを鳴らし、ラウンドロビンで切り替えることで、同じ音が続いて不自然になるのを避けている、と説明しています。ラウンドロビンは、用意した複数の音から選んで鳴らす方式で、前の打撃で板がどう振動しているかは扱っていません。
連打したときに同じ波形が並ばなくなるので、機械的な感じは減ります。ただ、奏者が2発目に何をしたかが音に反映される経路はありません。
生のシンバルは前の一撃の結果として次の音が変わります。ラウンドロビンは次の音をあらかじめ何種類か持っておき、切り替えて出します。聞こえ方が似ていても、仕組みは別です。
センサーの精度を上げても、前の打撃は音に入らない
デジタル接続のパッドは、たとえばローランドのCY-18DRのように、ボウの打点位置を3つのセンサーで細かく検出します。
検出できるのは、どこをどのくらいの強さで叩いたかという、その一撃の情報です。時間をまたいで状態を引き継ぐ情報ではないので、検出が細かくなっても、前の打撃の振動は音に入りません。
物理モデリングなら前の打撃を音に反映できる
物理モデリングは、サンプルを鳴らす代わりに、板の振動そのものを計算します。前の打撃で板に残っている振動を計算の中で保ち、次の打撃による振動をそこに重ねるので、前の打撃を音に反映できます。この方式は原理的に可能で、シンバルの振動を計算で再現する研究もあります。
研究では、シンバルを曲がった殻としてモデル化し、時間領域で計算して、叩いたときの非線形な振動を再現しています。
物理モデリングを製品にした場合の計算量と価格は、調べた範囲では資料が見つかっていません。計算が増える分だけ価格が上がり、現在のモジュールの価格帯には収まりにくい、というのが私の推定です。
ローランドの3機種は同じ音源エンジンで、違いは端子と操作性にある
ローランドのV71、V51、V31は、同じ音源エンジンと同じプリセットキットを使っています。3機種の違いはフロントパネルと接続端子で、シンバル系の音を決める方式は共通です。
| 機種 | 発売 | ダイレクトアウト | 音源エンジン・プリセットキット |
|---|---|---|---|
| V71 | 2024年 | 8系統 | 共通 |
| V51 | 2025年10月 | 2系統 | 共通 |
| V31 | 2025年10月 | なし(ステレオ出力のみ) | 共通 |
V71は2024年に出たフラッグシップで、V51とV31は2025年10月25日に発売されました。ダイレクトアウトの数は、表のとおり機種で違います。
サウンドハウスの掲載価格は、V71が344,800円、V31が154,000円(ともに税込)です。差は約19万円で、この差は端子と操作性の違いに対応しています。
ローランドは、この音源を上位機種だけのものにしなかったので、15万円台のV31でも上位機種と同じ音源が使えます。
よくある疑問
Q:上位機種に買い替えれば、シンバル系の音は良くなりますか。
A:ローランドのV71、V51、V31の間では変わりません。3機種とも同じ音源エンジンと同じプリセットキットを使っていて、違いは端子の数と操作性です。
Q:なぜ電子ドラムはシンバル系だけ不自然に感じるのですか。
A:シンバル系は、1発目の振動が残った板を2発目で叩く楽器だからです。タムやキックは縁が固定されているので、同じ叩き方ならほぼ同じ音が出ます。シンバルは縁が自由に動くため、サンプルを鳴らす方式では、前の打撃の持ち越しを音に入れる経路がありません。
買い替えの前に、機種ごとの違いを確かめてみてはいかがでしょうか
上位機種への買い替えを考えているなら、その差が端子や操作性にあるのかを、各機種の仕様表で見比べてみてはいかがでしょうか。







