ドラムスティックは、振り比べても選べない。自分の叩き方から決まる

楽器店のスティック売り場で、何本か手に取って振ってみる。5Aと5Bを持ち替えて、どちらがいいか考える。結局、前と同じものを買って帰る。

そういう経験のある方は、多いのではないでしょうか。

スティックの選び方として世の中に流通している答えは、だいたい3つです。振ってみて手に馴染むものを選ぶ。体格に合わせて選ぶ。ジャンルに合わせて選ぶ。どれも間違いではありません。ただ、売り場で立ち止まっている人には効きません。振ってみても違いが分からないから、立ち止まっているわけです。

この記事が立てる問いは違います。プロのドラマーは、何を基準にあの寸法を選んだのでしょうか。

目次

太さは、体格でもジャンルでも決まらない

実在するシグネチャーモデルの寸法を並べると、体格でもジャンルでも説明がつきません。

まず数字を見てください。ハイスタンダードの恒岡章さんのモデルは、直径14.0ミリです。スレイヤーのデイヴ・ロンバードは16.0ミリ。グリーン・デイのTré Coolは15.9ミリ。TOOLのダニー・ケリーは16.0ミリ。

一方で、ラルク アン シエルのyukihiroさんとsakuraさんは、2人とも14.5ミリです。X JAPANのYOSHIKIさんも14.5ミリ。村上”ポンタ”秀一さんは15.0ミリでした。

いずれもメーカー公式の数値です。

同じ速さで叩く2人が、2ミリ違うものを選んでいる

恒岡章さんとデイヴ・ロンバードは、どちらも速いテンポを叩き続けることで知られたドラマーです。メロディックハードコアとスラッシュメタルという違いはありますが、要求される手数の速さという点では近い場所にいます。

その2人が、14.0ミリと16.0ミリを選んでいます。2ミリの差です。スティックの世界では、これは別のカテゴリーに入るほどの開きです。

速く叩くために細いスティックを選ぶ、という説明は、ここで成立しなくなります。

同じジャンルの中でも割れている

パンクという枠で見ても同じです。恒岡章さんが14.0ミリ、Tré Coolが15.9ミリ。ほぼ2ミリ違います。

ジャンルで決まるなら、この差は生まれません。

体格についても、根拠として弱いと言わざるを得ません。体格に合わせろという説明は、なぜそう言えるのかを示していないからです。手が大きい人が細いスティックを握ると余計な力が入る、という話は理解できます。しかし、それは太さを1ミリ変える理由にはなっても、2ミリ変える理由にはなりません。

Q:ドラムスティックの太さは、体格に合わせて選ぶべきでしょうか。

A:体格は目安になりますが、決め手にはなりません。実際に選ばれている寸法を見ると、同じジャンルの中でも2ミリ近い開きがあります。決めているのは体格よりも、腕をどれだけ大きく振るかです。振り上げて叩く人にとって重さは負担になり、跳ね返りで刻む人にとって重さは味方になります。

決めているのは、振り上げて叩くか、跳ね返りで刻むかである

ここからは私の解釈です。研究で確かめられた話ではありませんので、そのつもりで読んでください。

スティックを大きく振り上げて打面に落とす叩き方では、質量がそのまま腕の負担になります。1発ごとに、重さの分だけ余計に持ち上げることになるからです。この叩き方をする人にとって、太いスティックは単純に疲れる道具です。

跳ね返りを使って小さく刻む叩き方では、逆のことが起きます。重いものほど慣性が大きく、一度動き出せば同じ動きを続けようとします。腕を大きく振っていないので、重さが負担になる場面がそもそも少ない。

デイヴ・ロンバードが16.0ミリで速く叩けるのは、腕を大きく振っていないからだと考えられます。

つまり、太さを決めているのはテンポではありません。ストロークの大きさです。

そしてもう1つ、重いスティックには見落とされがちな利点があります。慣性が大きいと、手からの入力のむらが吸収されます。振り子は重いほど揺れが一定になりますが、それと同じことが起きるからです。

軽いスティックは、その逆になります。入力のばらつきが、そのまま音に出ます。軽いほどコントロールしやすいと思われがちですが、実際には、軽いほど誤魔化しが効かないというのが近いように思います。

0.5ミリの差が指に伝わるのは、重さのせいではない

14.0ミリと14.5ミリ。数字だけ見ると、誤差のような差です。しかし握ると分かります。

なぜ分かるのか。重さのせいではありません。

重さから確認します。スティックの断面は円なので、重さは直径の2乗に比例します。14.5の2乗を14の2乗で割ると、1.07です。7パーセント増える計算になります。ヒッコリーのスティックは1本50グラム前後なので、差はおよそ3グラム。1円玉3枚分です。握って分かる差ではありません。

硬さは違います。棒の曲げにくさは、直径の4乗に比例します。14.5の4乗を14の4乗で割ると、1.15。15パーセント増えます。

つまり0.5ミリ太くすると、重さは7パーセントしか増えないのに、硬さは15パーセント増えます。指が受け取っているのは重さではなく、振ったときのしなりの量です。

長さも同じ理屈で効きます。しなりやすさは長さの3乗に比例するので、10ミリ長くするだけでも、たわみ方ははっきり変わります。細くて長いスティックは、この2つが重なるので、いちばんしなります。

太いスティックの音に芯があるのは、しなりが少ないからです。力がまっすぐ伝わる。逆に細いスティックの音が甘くなるのは、途中でエネルギーがしなりに逃げるからです。

折れるのと、削れて終わるのは、意味が違う

ここからが、この記事でいちばん実用的な部分かもしれません。

使い終わったスティックには、自分の叩き方が記録されています。

折れるスティックは、握り込んだ状態で、リムやフープに角度悪く当たったときに折れます。強く握っていると、スティックが手の中で逃げられません。逃げ場のない力が1点に集まって、そこから割れます。

削れて終わるスティックは、違うことを示しています。当たる角度が毎回そろっていて、握りに余計な締め付けがないということです。跳ね返りを殺していないとも言えます。

減る場所からも読み取れます。首の少し下、ショルダーと呼ばれる部分が削れていくなら、ハイハットやライドのエッジに当たる位置が毎回同じだということです。チップだけが丸くなっていくなら、打面へのヒットが素直だということになります。

これも私の解釈であって、確立された対応関係ではありません。ただ、道具が均等に消耗しているという事実は、身体の使い方が一定であることの結果です。ここは論理として無理がないと思います。

そして、ここから1つ、実用的な結論が出ます。

折らない人にとって、耐久性は選ぶ理由になりません。パンクだから丈夫なものを、という発想が必要なくなります。折る人はヒッコリーやオークに縛られますが、折らない人は縛られていません。音と振り心地だけで選んでよいということです。

好きな音の正体は、腕ではなく木の重さだった

私は村上”ポンタ”秀一さんの音が好きです。特にシンバルの鳴り方です。叩いた音というより、楽器が響いている音に聞こえます。

あの柔らかさに近づきたくて、メイプルのスティックを試そうと考えました。メイプルは軽いので、シンバルのアタックが立ちすぎないからです。

後から調べて、少し驚きました。ポンタさんのシグネチャーモデルは、メイプルでした。パールの132M、直径15.0ミリ、長さ395ミリ、丸型チップです。

耳が先に、木の物性を言い当てていたことになります。

数字で確認しておきます。メイプルの気乾比重は0.72、ヒッコリーは0.82です。同じ寸法なら、メイプルはおよそ12パーセント軽い。

軽いと何が起きるか。打撃のエネルギーは質量に比例するので、当たった瞬間のアタックが小さくなります。金属がぶつかる硬い音が引っ込み、その分、シンバル本体が鳴っている音が前に出ます。ヒッコリーが最初の一撃で音を作りにいくのに対して、メイプルは楽器を鳴らしにいく感じになります。

好きなドラマーの音があるなら、その人が何の木を使っているかを調べてみてください。テクニックの問題だと思っていたものが、材料の問題だったということは、わりに起こります。

チップの形は、どんな音が出るかより、毎回同じ音が出るかを決めている

チップの形も、音色そのものより、音色のそろい方に効きます。

丸型のチップは球なので、どの角度で当たっても同じ曲面が接します。手首の角度が多少ぶれても、シンバルに当たる位置が変わっても、出てくる音色が変わりません。接触面積が小さいので、音は明るく、輪郭が立ちます。

樽型のチップは、面で当たります。接触面積が広いので、音は太くなります。シンバルの倍音が広く出て、スネアも胴が鳴る感じになります。ただし打面に対する角度が変わると接触面積も変わるので、音色が角度に左右されます。

初心者に丸型が勧められることが多いのは、この安定性が理由です。

ここで、さきほどのラルクの2人に戻ります。yukihiroさんもsakuraさんも、14.5ミリの丸型チップを選んでいます。あのバンドの、輪郭のはっきりしたタイトな音は、演奏だけでなくチップの形にも支えられている可能性があります。

この選び方が効かない場面を、正直に書いておく

ここまで書いてきた読み方には、限界があります。

まず、消耗の痕跡は演奏環境にも左右されます。練習パッドばかり叩いていればチップが減りますし、ライブが多ければショルダーが減ります。フォームだけを映しているわけではありません。

次に、素材の違いは大音量のバンドの中では埋もれます。メイプルの柔らかさは、ひとりで叩いているときと、録音したときには、はっきり分かります。しかしギターの音圧の中に放り込むと、その差は消えます。むしろスネアの押しが足りなくなって、不利に働くことがあります。

そして、いちばん大事なことを書いておきます。今のスティックで不満がないなら、変える必要はありません。この記事は、選び直したいのに基準がなくて決められない人のためのものです。

最後に1つだけ。手首や腕に痛みがあるなら、それはスティック選びの話ではありません。2週間以上続いているようなら、専門家に相談することを検討してみてください。

判断基準は、叩き方と減り方と好きな音の3つ

売り場で振り比べても決まらないのは、比べる基準を持っていないからです。基準は3つあります。どれも、あなたの演奏がすでに答えを出しているものです。

1つ目は、叩き方です。自分は腕を大きく振り上げて叩いているのか、跳ね返りを使って小さく刻んでいるのか。振り上げているなら、細く軽いほうが楽になります。跳ね返らせているなら、太くても速度は落ちません。

2つ目は、減り方です。折っているのか、削って終わっているのか。折っているなら、太いスティックに替えても解決しません。握りの強さと当てる角度を見直すほうが先です。削って終わっているなら、耐久性を選ぶ理由から外してよいということになります。

3つ目は、好きな音です。憧れているドラマーの音を思い浮かべてください。アタックが立っていますか。それとも余韻が広がっていますか。立っているならヒッコリーかオーク、広がっているならメイプルが近いはずです。

この3つのうち、いま自分がいちばんはっきり答えられるものが1つでもあれば、次の1本は決まります。3つ全部を読む必要はありません。

使い終わったスティックは、まだ手元にありますか。

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