なぜ手に入れると満たされなくなるのか?ドーパミンの仕組み

手に入れた瞬間に満足が薄れるのは、ドーパミンが「予測と実際の報酬の差」に反応して、手に入れる前の「欲しい」という状態を作る物質だからです。予測どおりに手に入ると、ドーパミン細胞の反応は止まります。

しかし、理想が高すぎる、他人と比較しすぎている、といった心の持ち方を満たされなさの原因とする説明もあります。脳の仕組みで説明できるのかと、疑問に思う方もいるでしょう。

この記事では、ドーパミンの研究、農耕の始まり、スマホの順に見たうえで、満たされなさとの付き合い方を示します。

目次

手に入れた瞬間に満足が薄れるのは、ドーパミンが予測との差に反応するから

ドーパミン細胞は、報酬が来たかどうかには反応せず、予測よりどれだけ多かったかに反応します。予測どおりの報酬には反応しないので、期待していたものを手に入れた瞬間に、「欲しい」という勢いが消えます。

神経科学者のヴォルフラム・シュルツ、ピーター・ダヤン、リード・モンタギューが1997年にサイエンス誌に発表した論文は、サルのドーパミン神経細胞が、報酬そのものでなく予測の変化を伝えているとまとめました。予測していなかった報酬が来ると細胞は活発になり、予測どおりに来ると反応せず、予測した報酬が来ないと活動が下がります。

ドーパミンは快楽物質と説明されることがあります。しかし、報酬への「欲しい」と「好き」は脳の中で別の仕組みが担うことが、ケント・ベリッジらの研究で示されています。満足そのものの心地よさは、ドーパミンの働きだけでは説明できません。

この結果はサルの神経細胞を記録した実験で得られたもので、人の満たされなさと直接つなげた研究は見つかっていません。

なお、以前は楽しめていたことに興味が持てない状態が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性があります。医療機関に相談してください。

報酬が速く大きく来るものは、遅く小さく来るものより強く求められる

報酬が速く大きく来る行動ほど、ドーパミン細胞の反応が大きくなり、繰り返されやすくなります。報酬が遅く小さい行動は、同じ時間の中で後回しにされます。

この見方を、人類が農耕を選んだ理由に当てはめた仮説があります。仮説であり、証明された説明ではありません。

農耕を始めた集団の健康は、骨の分析で見ると悪化していました。マーク・コーエンとジョージ・アーメラゴスが1984年に編んだ『Paleopathology at the Origins of Agriculture』は、農耕へ移った21の社会のうち19で、健康の悪化傾向があったと報告しています。感染症と歯の病気が増え、栄養不足が目立つようになりました。それでも人類は狩猟採集に戻りませんでした。

農耕が広がった理由は、人類学で今も議論が続いています。穀物のように、収穫という大きな報酬が決まった時期にまとめて来るものが、木の実を集める暮らしより強く求められた、というのが仮説の内容です。

スマホが長く使われるのは、報酬がすぐ来て、何が来るか分からないから

スマホで指を動かすと、すぐ新しい情報が出ます。何が出るかは、開くまで分かりません。この2つがそろうと、ドーパミン細胞の反応が続きやすくなります。

報酬の確率が半々のように結果が不確実なとき、ドーパミン細胞の活動が報酬の予定時刻まで徐々に高まることが、ヴォルフラム・シュルツらの2003年のサイエンス誌の論文で報告されています。

人と会って関係を作ることや、何かを作り上げることは、報酬が来るまでに長い時間がかかります。報酬の速さと大きさで比べると、スマホのほうが強く求められます。満たされなさの一因は、報酬が速く来るものを強く求めやすい仕組みにあります。この説明は、人を対象に直接確かめられたものではありません。

報酬を足し続けても、満たされなさは続きやすい

夢や目標を見つける、人生を楽しんでいる人と会う、前向きな言葉を使う、といった方法は、新しい報酬を足していく方法です。新しい報酬も、予測どおりに手に入ると反応が止まるので、足しても満たされなさは続きやすくなります。

これらの方法に価値がないわけではありません。ドーパミンの働きだけでは満足の心地よさを説明できないことも、前の章で述べたとおりです。心の持ち方の問題として自分を責める前に、脳の反応の性質を知っておくと、満たされないこと自体を異常と見なさずに済みます。

時間の使い道は、報酬が来るまでの速さと予測のしにくさで並べ直せる

今やっていることを、満足の量でなく、報酬が来るまでの速さと結果の予測しにくさで並べると、やめにくいものが分かります。次の表は、その並べ方の例です。

観点速く大きく報酬が来るもの遅く小さく報酬が来るもの
報酬が来るまでの時間短い長い
結果の予測次に何が来るか分からないだいたい予測どおりになる
繰り返し何度でもすぐ繰り返せる1回に時間がかかる
例買い物、SNS、通知、短い動画、数字が毎日動く仕事歩く、料理をする、庭の手入れをする、同じ人と長く付き合う、時間のかかるものを作る

予測どおりに進む活動は、驚きが少ないので、やっている最中は退屈に感じやすくなります。退屈は、その活動が合っていないことを示す合図とは限りません。

報酬が速く来るものを遠ざけるのが先で、遅いものを増やすのは後になる

先にするのは、報酬が速く来るものを手元から離すことです。遅く小さい報酬のものを増やしても、速いものが隣にあれば、そちらが選ばれやすいからです。

通知を切る、アプリを手の届かない場所に移す、といった配置の変更で、速い報酬との距離を取れます。そのうえで、遅く小さい報酬のものに時間を置いていきます。最初は退屈でも、それは続けている途中の自然な状態です。

遠ざけるのを先にしたほうが、続けやすいと思います。変化が出るまでの期間は、確かめられた数字がないので、急がずに続けてください。

満たされなさをまぎらわそうと買い物をすると、お金も時間も使い続けやすい

満たされなさをまぎらわそうとする買い物、課金、外食、旅行は、報酬が速く来て、予測どおりに終わるので、次の報酬を探したくなりやすくなります。そのたびにお金と時間が出ていきます。

買わない分のお金と時間は、報酬が遅く小さいものに回せます。満たされなさを問題として解こうとするのをやめると、速い報酬に払っていたお金と時間が手元に残ります。

今週の時間の使い道を、並べ直してみてはいかがでしょうか

まず、今週やったことを書き出し、報酬が来るまでの速さで並べてみてください。速い報酬のものから1つだけ、通知を切る、手元から離すなどして距離を取ってみてはいかがでしょうか。

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