「要するに」が対話を損なう理由は、話し手がまだ言葉にしながら考えている途中で聞き手が先にまとめてしまい、話し手が考えを広げる機会が減る点にあります。この仕組みは、要約そのものを調べた研究では確かめられていません。傾聴の研究が示したのは、聞き方によって話し手の考えの探り方が変わるところまでです。
しかし、「要するに」は、議論を前に進めたい、時間を有効に使いたいという配慮から出る一言です。その一言が、なぜ対話の問題になるのでしょうか。
この記事では、要約してしまう理由、話し手と聞き手の段階のずれ、聞き方の工夫を順に並べます。
人が要約してしまう理由の説明
相手の話をまとめてしまうのは、そうすると考える手間を省けるから、という説明があります。この説明の土台は、社会心理学の「認知的倹約家(cognitive miser)」という考え方です。
考える手間を省くという説明
「認知的倹約家」という言葉は、1984年にフィスクとテイラーが持ち込みました。その考えは、人は処理できる情報の量に限りがあるので、できるときは近道を使う、というものです(Wikipedia英語版「Cognitive miser」)。相手の話を最後まで聞いて理解するには、注意と記憶を使います。「要するに」と一言でまとめることも、考える手間を省く手段の一つだと思います。
問題解決を優先する聞き方という見方
会話を問題解決の手段と考えている聞き手は、相手の話がまとまっていない途中でも、問題点と解決策を探して結論へ持っていこうとする、という見方があります。報告・連絡・相談のような仕事の会話は、課題を解決して行動につなげるために行われる、という見方があります。
聞き方で、話し手が自分の考えを探る度合いが変わる
共感的で、注意を向け、評価しない聞き方は、話し手の不安を下げ、自分の考えを深く探ることにつながりました。
2018年の5つの実験(うち1つは事前登録)では、聞き手の聞き方の質を変えると、話し手の社会不安が下がり、自分の考えに関する知識をより探るようになり、考えの明確さが増しました。明確さは増えましたが、考えの正しさは増えませんでした(Itzchakovら、Personality and Social Psychology Bulletin)。2017年の4つの実験では、質の高い聞き方を受けた話し手が、自分の中にある矛盾した見方により気づき、考えの極端さが下がりました(Itzchakovら、同誌)。
話し手の「発散」の段階
人が自分の考えや悩みを話すとき、頭の中にある漠然とした思考や感情に、言葉で形を与えている段階にある、という見方があります。この記事では、この段階を「発散」、考えをまとめる段階を「収束」と呼びます。
この段階の話し手は、まだはっきりした結論を出していません。様々な可能性の断片を言葉にしながら、自分の考えを探り、整理しようとしています。
聞き手が「要約」を、話し手の「発散」の途中で入れるとき
聞き手が「要するにこういうことですよね?」と言って話を早くまとめようとすると、話し手が考えを広げている途中なのに、話の形を先に決めてしまいます。話し手が「単純化された」「これ以上話しても意味がない」と感じて、話すのをやめる場面もあると思います。
話し手が黙ったとき、納得したのか、話す意欲を失ったのかは、外からは区別できません。
言い換えで返すことが、会話の満足や理解された感じに結びつくかを調べた研究があります。2010年に発表された大学生180人の実験では、試験についての意見を聞かれた学生に、聞き手が言い換えて返す場合と、相づちだけの場合を比べました。言い換えた聞き手は、社会的な魅力が高い相手と評価されましたが、会話への満足や、理解されたという感じとは関連しませんでした(International Journal of Listening掲載の論文)。
安心して話せる場を作る聞き方という説明
聞き手の役割は、相手が安心して考えを広げられる場を保つことだ、という見方があります。評価せずに聞く聞き方は、2018年の実験で話し手の社会不安を下げました。
話をそのまま聞く
話し手がまとまりのない話や矛盾して聞こえる話をしても、否定も整理もせず、まずそのまま聞きます。この聞き方を、この記事では「受け皿」と呼びます。
「なるほど」「そう感じているのですね」と相づちを打つことは、「ここでは何を言っても聞いてもらえる」と知らせる方法だという説明があります。
沈黙と言葉の繰り返し
話し手が言葉に詰まったとき、助言や質問をすぐ言わずに待つ聞き方があります。沈黙は、話し手が自分の内面と向き合い、次の言葉を探している時間だという説明があります。
話し手の言葉をそのまま繰り返す聞き方は、バックトラッキングと呼ばれます。「正確に聞いています」という合図になり、話し手が自分の言葉を聞き直して考えを深めるきっかけにもなる、という説明があります。相槌・沈黙・言葉の繰り返しの効果は、要約との比較では確かめられていません。
次に話を聞くときの一言
この見方では、善意から早く結論を決めてしまう聞き方も、相手が話す機会を減らす点で、話を聞いていない態度の一つです。効率を求めて早く結論を決めることが、人間関係の摩擦という別のコストにつながる、という見方もあります。
次に相手の話が長くなったとき、「要するに」と言う前に、相手の言葉をそのまま返して待ってみてはいかがでしょうか。







