傾聴の本質とは何か:評価と反論を保留して聞くことと、精神的な消耗の関係

傾聴の本質は、自分の評価や反論をいったん保留して、相手の言葉と様子をそのまま受け取ることです。聞きながら返答を準備するとき理解への注意が減るのかを調べた脳波の研究では、素早く答えた人ほど理解に関わる反応が小さい傾向があり、著者は注意が減った可能性と読んでいます。ただし、傾聴が聞き手の精神的な消耗を減らすかどうかは、その消耗を測った研究ではまだ確かめられていません。

しかし、返答を考えずに聞いて、会話が成り立つのかという疑問が残ります。

この記事は、聞きながら返答を考えてしまう背景の2つの説明、傾聴の捉え方、精神的な消耗との関係、実践の3つの方法を、この順に説明します。

目次

聞きながら返答を考えてしまう背景の2つの説明

背景の説明は、理解と返答の準備が重なることと、評価されることへの不安の2つです。返答の準備は、質問に答える実験の場面では、相手の発言の途中から脳波に表れることが、研究で示されています。

返答の準備は、相手の発言の途中で始まる

Bögelsらの2018年の研究(Neuropsychologia誌)は、参加者が協力者の質問に答える場面で脳波を測りました。質問の途中で、返答の準備に当たる脳波の変化が表れるという以前の結果が、おおむね再び確かめられました。

素早く答えた人ほど、質問に出てくる予想された単語と予想外の単語への脳反応(N400)の差が小さく、著者はこれを、理解への注意が減った可能性と読んでいます。一方、返答の準備が始まる前後で、この反応の大きさに差は出ませんでした。

脳が複数の作業を同時にこなすことは難しいという説明があります。聞くことと返答の準備については、上の研究が示した範囲までが確かめられています。

評価されるのではという不安が、返答の準備のきっかけになる

DickersonとKemenyの2004年のメタ分析(Psychological Bulletin誌)は、208件の実験室研究、6,153人を整理しました。他者から成績を否定的に判断されうる課題は、そうでない課題より、ストレスホルモンのコルチゾールの反応が大きいという結果でした(平均の効果量は0.67と0.15)。

会話でも、有能だと見られたい気持ちが強いほど、聞きながら返答を準備しやすくなると思います。そのとき、対話は協調の場から競争の場に近づきます。

評価・判断・反論を保留して聞くという傾聴の捉え方

この記事が傾聴と呼ぶのは、相手の存在そのものに意識を向けて聞く状態です。傾聴の中心は、聞き手が頭の中で起こす評価・判断・反論をいったん止めることで、相槌や要約といった技法は、その状態から生まれる行動の一つです。

言葉を分析する前に、そのまま受け取る

私たちは普段、相手の言葉を情報として受け取り、すぐに分析し、分類し、自分の知識と照らし合わせています。傾聴では、この自動的な処理をいったん保留します。

声のトーン、話す速さ、表情、言葉の間の沈黙まで含めて、評価を挟まずに受け止める聞き方です。それは相手の意見への同意とは別のことで、相手がそう感じ、そう考えている事実を、一つの現実として受け入れる姿勢です。この見方では、この状態になって初めて、言葉の背景にある感情や意図、価値観を受け取れるようになります。

相槌や要約との関係

Wegerらの2014年の研究(International Journal of Listening誌)は、大学生115人を対象に、聞き手の応じ方を3つ比べました。聞き手が相手の話を言い換えて返したとき、話し手が感じた「理解された」という感覚は、相槌が中心の場合やアドバイスの場合より高くなりました。会話の満足は、相槌が中心の場合より高くなりました。

この研究が測ったのは、話し手が感じた理解と満足です。相槌や要約は、傾聴の形として話し手に届く場合があります。

傾聴が精神的な消耗を減らすという説明

この説明には2つの流れがあります。自分の意見や反論を組み立てる活動を止めると脳のエネルギー消費が抑えられるという流れと、信頼が築かれ、相手を制御しようとしたり自分の正しさを証明しようとしたりする消耗や、誤解や対立による消耗が減るという流れです。この2つの流れは、聞き手の消耗を測った研究ではまだ確かめられていません。

この状態は、考え続けることをやめて今の会話に注意を向けるマインドフルネスに近い、という説明があります。

Itzchakovらの2024年の研究(Journal of Personality and Social Psychology誌)は、4つの実験で、聞き手の傾聴の質を低・中・高に操作しました。注意、理解、好意的な意図を備えた質の高い傾聴は、話し手が防衛的にならずに自分の態度を振り返ることを促し、態度の極端さを下げました。測ったのは話し手の側の変化です。

傾聴を実践する3つの方法

3つの方法は、環境を整えること、話す前に気持ちを切り替えること、判断を好奇心の問いに置き換えることです。どれも、頭の中の反応を保留しやすくするための準備です。

スマートフォンと通知を視界から外す

PrzybylskiとWeinsteinの2013年の研究(Journal of Social and Personal Relationships誌)は、2人で話す2つの実験で、携帯電話がそこにあるだけの影響を調べました。親近感、つながり、会話の質に負の影響が見られ、個人的に意味のある話題でとくにはっきりしていました。

可能であれば、スマートフォンをマナーモードにして、鞄の中など視界に入らない場所にしまうことを検討してみてはいかがでしょうか。PCの通知を切る、不要なタブを閉じるといった準備も、対話以外の情報を減らします。

話し始める前に、数秒間、深く呼吸をする

会話を始める直前に、数秒間、一度深く呼吸をして、息を吐くことに集中します。そのあと「今から聴くことに集中する」と、静かに意図を定めます。数秒の呼吸と意図の確認が、それまでの考えを切り替える合図になると思います。

判断が浮かんだら、好奇心の問いに置き換える

相手が話し始めたら、「それは違う」「自分ならこうする」という考えが浮かんでも、ただの考えとして眺め、それ以上追わないようにします。代わりに「なぜ、この人はこのように感じるのだろうか」「この言葉の背景には、どのような経験があるのだろうか」という問いを持ちます。問いを持つと、意識が自分から相手へ移りやすくなると思います。

次の会話で試せること

次の会話では、相手が話している間は返答を作らず、相手の言葉と様子に注意を向けてみます。自分の意見を言うことには価値があり、その前に相手を理解しようとする順番を試します。

たとえば次の会話で、相手が話し終わるまで返答を考えないことを試してみてはいかがでしょうか。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次