あなたの「普通」が通じない他者と、どう共存するか

価値観の違う相手とは、完全に分かり合おうとせず、相手の価値観があることを認めたうえで、折り合いをつけて共存します。

しかし、分かり合えない相手と、本当に折り合いをつけられるのでしょうか。

この記事では、「理解」より「尊重」を目標にする考え方と、共存するための三つの作法を順に並べます。

目次

人は自分の「普通」を客観的だと思いやすい

自分の「普通」が相手に通じない理由の一つは、人が自分の見方を客観的だと思いやすいことです。この傾向は、心理学者リー・ロスらが1990年代に名づけた素朴実在論で、見方の違う相手は情報が足りない、合理的でない、偏っていると受け取りやすいと説明されています。

価値観は、育った家庭環境、受けた教育、所属したコミュニティの文化、成功や失敗の体験の積み重ねの中で形づくられるという見方があります。同じ日本で暮らしていても、人によって違います。同じ出来事を「好ましい」と受け取る人も、「許容できない」と受け取る人もいます。

自分の「普通」や「常識」は、自分の経験から出来上がった基準の一つです。

脳の働きが対立を生むという説明

確証バイアスと、判断の負担を減らそうとする脳の働きが、自分の基準を唯一正しいものに見せ、違う価値観の相手を「異常」や「間違い」として退ける要因になる、という説明があります。この点は、価値観の違いによる対立を対象にした研究では確かめられていません。

確証バイアスとは、人が自分の信念を支持する情報を探し、好む傾向のことです。脳は体重の約2%ですが、安静時にも体のエネルギーの約20%を使います。そのため、判断のたびに深く考える負担を減らそうとして、既存の価値観で自動的に処理する、という説明があります。

理解より尊重を目標にするという考え方

尊重とは、相手の価値観が存在することを認めることです。尊重では、評価や判断を挟まずに、相手には自分と違う論理で動く価値観があると知的に認識します。

「相手に自分と同じように感じ、考えてほしい」と願う人には、理解と同意が同じものに見えてきます。しかし、相手の人生を追体験できない以上、完全に理解することは難しく、分かり合えない状態を出発点にすれば、不要な期待や失望から距離を置けると思います。

尊重は、感情的な対立を避ける第一歩になると思います。

価値観の違う他者と共存するための三つの作法

作法は三つあります。自分の価値観を自覚すること、相手を観察すること、交渉することです。この順に取り組みます。

最初の作法は、自分の価値観を自覚すること

自分の価値観を自覚するとは、自分の「普通」や「正しさ」が相対的なものだと知ることです。

自分の金銭感覚は、どんな家庭環境で作られたのか。労働観には、どんな教育が影響したのか。そう自分に問い、これまでの人生を振り返って、自分の価値観を成り立たせている経験を一つずつ検証します。自分の価値観が絶対的ではないと分かると、相手の価値観を受け止める余地が生まれます。

次の作法は、相手を観察すること

相手を観察するとは、相手を好奇心を持って調べる対象として見ることです。

観察では、未知の文化を調べるときのように、善悪の判断をいったん保留します。「なぜ、この人はこのような行動をとるのだろうか」「この価値観は、どのような経験から形成されたのだろうか」と問い、相手の言動を情報として集めます。感情的な反応を抑え、冷静な対話に入りやすくなると思います。

最後の作法は、目的を交渉に切り替えること

目的を交渉に切り替えるとは、お互いが快適に過ごせるルールや境界線を、相手と話し合って探ることです。

相手の意見を否定して自分の考えに従わせる「論破」で相手を変えようとすると、対立が深まる可能性がある、という見方があります。この点は、確かめられていません。

交渉では、「私はこう感じる」と自分の感じ方を一人称で伝えるI-message(アイ・メッセージ)を使い、相手には「あなたはどう感じますか」と聞きます。I-messageは、心理学者トーマス・ゴードンが1960年代に名づけた、気持ちや信念、価値観を一人称で表す伝え方です。

自分の価値観を相手に伝え、相手の価値観も相手自身に教えてもらいます。そのうえで、特定の話題には触れない、この行動だけは控えてほしい、といった最低限の共通ルールを探ります。これは「折り合いをつける」作業です。

試してみる一歩

今度「普通」が通じない相手に出会ったら、まず自分の「普通」の由来を一つ振り返ってみてはいかがでしょうか。

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