なぜアジア人は欧米人より糖尿病になりやすいのか?「倹約遺伝子」とインスリン分泌能力の構造

「特に太っているわけではないのに、血糖値が高い」
「糖尿病は肥満の人がなるものだと思っていた」

もしあなたがこのように感じているのであれば、それは決して珍しいことではありません。痩せ型であっても血糖値の問題を抱えることは、特にアジア人にとっては十分に起こり得ることです。その背景には、欧米人とは異なる、私たちの祖先から受け継いできた身体的な特性が存在します。

この記事では、なぜアジア人は糖尿病になりやすいのか、その背景にある遺伝的、身体的な構造を解説します。これは、当メディア『人生とポートフォリオ』が提唱する、人生全体の資産を最適化するという思想において、最も基盤となる「健康資産」の理解を深めるための重要な知見です。ご自身の身体特性を客観的に把握し、自分に合った健康戦略を構築するための一助としてください。

目次

環境の変化と身体の適応:倹約遺伝子という遺産

アジア人が糖尿病になりやすい理由を解明する上で、重要な概念の一つが「倹約遺伝子(スリフティ遺伝子)」の存在です。これは、少ないエネルギー源からでも効率的に栄養を吸収し、脂肪として体内に蓄積する働きを持つ遺伝子群を指します。

私たちの祖先の多くは、収穫期と食料が乏しい時期を繰り返す農耕民族でした。食料が不安定な時代において、この倹約遺伝子は生存に不可欠な、非常に有利な特性でした。わずかな食事からでも最大限にエネルギーを抽出し、飢餓に備えるためのエネルギーとして体内に貯蔵する。この特性を持つ個体が、厳しい環境を生き延びやすかったと考えられています。

しかし、この生存に有利だったはずの遺伝子が、現代の飽食の時代において、私たちに不利に作用するという逆説的な状況が生じています。かつて生存に貢献した「効率的に蓄える能力」が、いつでも高カロリーの食事が手に入る現代社会では、エネルギーの過剰な蓄積、すなわち内臓脂肪の増加を招きやすくなるのです。

これは、環境の急激な変化に対し、私たちの身体システムが適応しきれていない「進化のミスマッチ」として捉えることができます。

血糖値調整能力の個人差:インスリン分泌の役割

倹約遺伝子に加えて、もう一つ知っておくべき重要な体質的な特徴が、インスリン分泌能力です。

インスリンとは、膵臓から分泌され、血液中の糖(血糖)を細胞に取り込ませることで血糖値を下げる役割を持つホルモンです。食事によって血糖値が上昇すると、インスリンが分泌されて血糖値を正常範囲に保つ、という仕組みになっています。

研究によれば、アジア人は欧米人と比較して、このインスリンを分泌する能力が遺伝的に低い傾向にあることがわかっています。欧米人の場合、肥満になってインスリンの効きが悪くなる状態(インスリン抵抗性)に陥ると、それを補うためにインスリンの分泌量を増やして対応しようとします。

一方でアジア人は、インスリンの分泌能力そのものに余力があまりないため、少しインスリンの効きが悪くなっただけでも、血糖値を十分に下げきれず、血糖値が高い状態が続きやすくなる傾向があります。

つまり、倹約遺伝子によってエネルギーを蓄えやすい体質である上に、高血糖状態を是正するインスリンの分泌能力も相対的に低い。この二つの要因が重なることで、アジア人は欧米人ほど肥満でなくても、糖尿病を発症する可能性が高くなる、という構造が示唆されます。

画一的な健康指標を再考する

これまでの説明から、「糖尿病は太っている人の病気」という一般的な認識が、必ずしもアジア人には当てはまらない理由が理解できるかと思います。

欧米では、高度な肥満(BMI30以上)になってから糖尿病を発症する事例が多いのに対し、アジアでは、痩せ型や標準体重(BMI25未満)でも発症する事例が少なくありません。外見上は太っていなくても、内臓の周りに脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」が、インスリンの働きを妨げ、血糖値の上昇に影響しているのです。

この事実は、私たちが健康を考える上で、外部から与えられた画一的な指標だけで自身の状態を判断することのリスクを示唆しています。例えば、体重やBMIといった一般的な指標だけで安心するのではなく、自身の体質的な背景を理解した上で、より本質的な健康管理を行う必要があります。

個々の特性に基づいた食事戦略

では、このような体質を持つ私たちは、具体的にどのような対策を検討できるでしょうか。鍵となるのは、血糖値の急激な上昇、いわゆる「血糖値スパイク」をいかにして避けるか、という点です。

インスリンの分泌能力に余力がないのであれば、一度に大量のインスリンを必要とするような食事は、身体にとって大きな負担となる可能性があります。重要なのは、特定の食事法をそのまま模倣するのではなく、私たちの体質に合わせて、血糖値を穏やかに保つ食習慣を構築することです。

食べる順番の調整

食事の最初に野菜や海藻などの食物繊維を摂り、次に肉や魚などのタンパク質、最後に米やパンなどの炭水化物を食べる方法です。これにより、糖の吸収を穏やかにする効果が期待できます。

GI値(グリセミック・インデックス)を考慮した食品選択

GI値は、食後の血糖値の上昇度合いを示す指標です。白米より玄米、食パンより全粒粉パンなど、GI値の低い食品を選ぶことは、血糖値の急激な上昇を避ける上で有効な選択肢となり得ます。

食事の量と頻度の最適化

一度の食事量を減らし、食事の回数を増やす「分割食」という考え方もあります。これにより、一度に処理する糖の量を減らし、血糖値の急激な変動を抑えることを目指します。

これらの戦略は、特別なことではありません。しかし、なぜこれらが必要なのか、その背景にある「倹約遺伝子」や「インスリン分泌能力」といった身体の仕組みを理解することで、その実践への納得感は大きく変わるでしょう。

まとめ

本記事では、アジア人が欧米人よりも糖尿病になりやすいとされる理由について、「倹約遺伝子」と「インスリン分泌能力の低さ」という二つの観点から解説しました。農耕民族であった祖先から受け継いだエネルギーを蓄積しやすい体質と、血糖値の上昇に対応する能力の特性が重なることで、肥満でなくても血糖値の問題が生じやすい構造があります。

「痩せているのになぜ」という疑問は、ご自身の身体が持つ特性を客観的に理解することで、論理的に説明がつきます。重要なのは、いたずらに不安になることではなく、事実を冷静に受け止め、自分自身の身体に合った戦略を立てることです。

当メディアが提唱する「ポートフォリオ思考」は、金融資産だけでなく、人生のあらゆる資産の最適な配分を目指す考え方です。そして、その全ての土台となるのが「健康資産」に他なりません。自身の身体が持つ変えられない特性を客観的に理解し、その上で食事や生活習慣といったコントロール可能な要素を最適化していくこと。これこそが、外部の基準に惑わされることなく、揺るぎない健康資産を構築するための、極めて合理的なアプローチの一つです。

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この記事を書いた人

サットヴァ(https://x.com/lifepf00)

『人生とポートフォリオ』という思考法で、心の幸福と現実の豊かさのバランスを追求する探求者。コンサルタント(年収1,500万円超/1日4時間労働)の顔を持つ傍ら、音楽・執筆・AI開発といった創作活動に没頭。社会や他者と双方が心地よい距離感を保つ生き方を探求。

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