1本目のギターにはもう慣れて、そろそろ2本目が欲しい。ただ、何を買えばいいのかが決まらない。
よく言われるのは、だいたい3つです。グレードを上げる。いま持っているのとは違うタイプにする。ステージ用の予備として持っておく。どれも間違っていません。
引っかかるのは2つ目です。違うタイプにしろとは言われるのですが、その違いを何で測るのかは示されません。ストラトとレスポール、シングルコイルとハムバッカー。名前を並べられても、自分がどちらを先に取るべきかは決まらない。
この記事が立てる問いは一つです。次の1本は、何を基準に決まるのか。
次の1本は、好みではなく、いま持っているギターで出せない音から決まる
2本目を決める基準は一つで、いま持っているギターで出せない音を、その1本で埋めます。
好きな音を足すのではありません。好きな音というのは、たいてい手元の1本の延長線上にあります。だから買っても、いつもの音の少し良い版が増えるだけで終わりやすい。一方で、いま出ない音は、買わない限り一生出ません。
たとえばストラトを1本持っているとします。ソリッドボディにシングルコイルという組み合わせなので、高域が立ち、中低域は薄くなります。ここで空いているのは、マホガニーのバックにハムバッカーを載せたソリッドが出す、詰まった中低域と長いサステインです。
グレードを上げても、出せる音の範囲は変わらない
値段を上げるという答えは、別の軸の話です。
同じタイプの上位機種を買うと、木材の精度も、パーツの精度も、組み込みの精度も上がります。鳴りは確実に良くなりますが、出せる音の種類は増えません。ストラトの上位機種は良いストラトであって、レスポールにはならないからです。
グレードを上げるのは、埋めるべき音域が無くなってからで間に合います。
音が消えていく途中の質感は、アンプに入る前に決まっている
ここからが、この選び方の根拠です。エレキギターの音がどれだけ伸びるかは、ピックアップより手前で決まっています。
Arthur Paté、Jean-Loïc Le Carrou、Benoît Fabre の3人が、2014年に Journal of the Acoustical Society of America 誌(135巻5号、3045から3055ページ)でこれを報告しています。ソリッドボディのエレキギターの音が、どれだけの時間で消えるかを予測する研究です。
彼らが特定した減衰の要因は2つでした。弦そのものが持つ内部の減衰と、ネックとの機械的な結合を通じて弦のエネルギーが逃げていく分です。そして電磁ピックアップは、弦に対して追加の減衰を与えていませんでした。
弦のエネルギーが逃げる先が、伸びの長さを決めている
この結果は当たり前に見えて、実は買い物の判断に直結します。
弦は振動しているあいだエネルギーを失い続けますが、その行き先は空気と楽器本体の二つしかありません。楽器がよく鳴るということは、弦のエネルギーがそれだけ速く楽器側へ移っているということでもあります。
だから生音の大きい楽器ほど、弦の振動は早く止まります。アコースティックギターが生音で朗々と鳴るのに、伸びはエレキより短いのはこのためです。ソリッドボディのエレキギターは生音がほとんど出ません。エネルギーの行き場が少ないので、弦は長く振動し続けます。
セミアコが、その中間にいる理由
ES-335のようなセミアコは、この二つの中間にいます。
1958年に登場したES-335は、ラミネートしたメイプルのボディの中央に、ソリッドのメイプルブロックが通っています。ブリッジは固い木の上に立っているので、フルアコのように大きくエネルギーを逃がしません。ただしfホールがあり、上部は箱として鳴ります。
ここからは私の解釈です。上に挙げた研究が測ったのはソリッドボディだけで、セミアコとソリッドを並べて測ったものではありません。事実として言えるのは、減衰を決めているのがピックアップより手前の機械的な結合だという点までです。そのうえで、箱が鳴る分だけ弦のエネルギーが逃げ、伸びの後ろ半分に箱の共鳴が乗る。セミアコの伸びがソリッドと違って聴こえるのは、これが理由だと考えています。
プラグインで足せるのは、音が出たあとの部分だけである
アンプシミュレーターやプラグインを一通り持っていると、機材で埋められるのではないかと考えます。私もそう考えました。
埋まりません。プラグインが触れるのは、ピックアップが信号を出したあとの区間だけだからです。アンプもキャビネットもEQもコンプレッサーも、全部が後段にあります。減衰の仕方は、その手前ですでに完成しています。
EQで中低域を持ち上げると、箱鳴りごと持ち上がります。太くはなりますが、詰まりません。コンプレッサーでサステインを稼ぐと、ノイズと箱の余韻が一緒に持ち上がってきます。伸びはしますが、芯が残りません。
近づけることはできる。同じにはならない
近づける方向はあります。
出力の高いピックアップに載せ替える。ピッキングのアタックを強くする。ブリッジ寄りで弾く。どれも効きますし、実際に距離は縮まります。
ただ、それはセミアコでレスポールらしく弾いているのであって、レスポールの音ではありません。差がいちばん出るのは、音が消えていく途中です。ロングトーンや、フィードバック手前で粘らせる場面では、構造を知らない聴き手にも違いとして届きます。逆に、バッキングで音を短く切っていく使い方なら、差はかなり縮まります。
音域が空いているのと、キャラクターが違うのは、別のことである
2本目の候補は、2種類に分かれます。いま出ていない音域を埋めるものと、キャラクターを増やすものです。
先に取るのは埋めるほうで、理由は単純です。ゼロが1になるのと、1が1.5になるのとでは、使い道の増え方が違います。
ストラトとセミアコを持っている人にとって、ジャズマスターは魅力的な候補です。ただ、あれが足すのはキャラクターの独自性であって、音域の穴埋めではありません。ソリッドにハムバッカーという組み合わせは、その2本ではまだゼロのままです。
ストラトを持っていても、テレキャスターの音にはならない
同じ理屈は、シングルコイル同士のあいだにも働きます。
テレキャスターのブリッジピックアップは、スチールのベースプレートに固定され、ブリッジプレート側に吊られています。弦はボディ裏のフェルールから入り、ボディを貫通して、そのプレートの上のサドルを通ります。あの高域の刺さり方と中域のゴツさは、この構造から出ています。ストラトのブリッジピックアップはトレモロブロックの手前にあり、鉄のプレートもありません。
近づける限界は、ハーフトーンを外してブリッジ単体にし、トーンを全開にして、ピッキングを強く前寄りにするあたりです。それでもストラトのブリッジの音であって、テレキャスターの音にはなりません。
それでも、テレキャスターは順番として上に来る
だからテレキャスターは要らない、という話ではありません。
埋まるのがキャラクターの差だとしても、バッキングとカッティングでの稼働率が段違いです。手に取る回数の多い楽器は、それだけで価値があります。
順番として整理すると、2本目はソリッドのハムバッカー、3本目にテレキャスター、ジャズマスターはさらにその後ろになります。
楽器のサステインは、左手だけで音が続くかどうかまで決める
この差は音色の好みでは終わらず、弾き方そのものまで決めてしまいます。
ハンマリングとプリングを連打したとき、2発目、3発目で音量が落ちるかどうか。楽器側がサステインを持ってくれていれば、右手で弾き直さなくても音が残ります。ソリッドボディにハムバッカーを載せて歪ませると、左手だけでフレーズが流れていきます。
ジミー・ペイジ、スラッシュ、松本孝弘といった、レスポールを主機にしてきたプレイヤーのレガートが成立する条件として、この物理が効いています。減衰の速い楽器で同じことをやると、2発目で音量差が見えてきます。だから右手で補うか、歪みを足して稼ぐ動きになりやすい。
タッピングが増えるのは、適応かもしれない
ここからは私の解釈です。学説として確立された議論ではありませんので、そのつもりで読んでください。
ストラト系のプレイヤーに、ピッキングで細かく刻む人やタッピングを多用する人が多く見えるのは、好みだけの話ではないのではないか。サステインが足りない分を、右手の手数で補っている。楽器の減衰特性への適応という側面が、そこにあるように思います。
もちろんタッピングは音域を広げる手段としても使われるので、これで全部を説明できるわけではありません。ただ、レスポール使いのフレーズに左手主体のレガートが混ざる比率が高いことと、無関係ではないと考えています。これを測った研究は、いまのところ見つけられていません。
この選び方のコストを、正直に書いておく
公平を期すために、逆側も書きます。この基準は、弾きたいという気持ちを後回しにします。見た目が好きなだけで手が伸びるギターは実在しますし、それはそのまま練習量に直結します。
音域の空白という考え方が効くのも、条件付きです。録音をするか、1人で複数の音色を担当する場面がある人には効きます。バンドで一つのジャンルだけを演奏し続けるなら、同じタイプの上位機種を買ったほうが満足度は高いはずです。
そして、埋めた音域を実際に使うとは限りません。ソリッドのハムバッカーを買っても、書く曲がクリーンのアルペジオばかりなら出番は来ない。この選び方は、使う場面がいつか来ることに賭けています。
判断基準は、いまの機材で出せない音を一つ言えるかどうか
持ち帰っていただける基準は、一つです。
いま持っているギターとアンプとプラグインを全部使って、どうしても出せない音を、一つ言葉にできるか。言えるなら2本目はもう決まっていますし、言えないなら、まだ買う時期ではありません。
言葉にするときは、ジャンル名やアーティスト名では言わないほうがいい。それだと機材の話に下りてこないからです。音が消えていく途中の質感、アタックの立ち上がり方、中域の詰まり具合。この粒度まで下ろすと、どの構造が足りていないかが見えてきます。
出せない音が言えたら、あとは手前か後ろかを見る
粒度が下りたら、判定は一度で済みます。
その音を作っているのは、ピックアップより手前でしょうか。それとも後ろでしょうか。後ろなら、いまの機材で作れるので買わずに済みます。前なら、買うしかありません。
歪みの種類、空間の広がり、音量のばらつき。このあたりは後ろにあります。減衰の仕方、アタックの立ち方、弦を弾いた瞬間の張りの感触。このあたりは前にあって、後ろからは触れません。
よくある疑問
Q:2本目は、いま持っているギターより高いものを選ぶべきでしょうか。
A:値段は、出せる音の範囲を広げません。同じタイプの上位機種は鳴りと精度を上げてくれますが、出ない音は出ないままです。埋めたい音域が決まっているなら、そのタイプの中で予算に収まるものを選ぶほうが、手に取る回数は増えます。グレードを上げるのは、埋めるべき音域が無くなってからで間に合います。
Q:ライブ用の予備として、同じタイプをもう1本持つのは無駄でしょうか。
A:無駄ではありません。ただ、それは音の話ではなく運用の話なので、この記事の基準とは分けて考えたほうがいいです。予備が要る段階なら、予備として選ぶ。音域を埋める1本は、別に選ぶ。混ぜると、どちらの目的にも中途半端な1本になります。
Q:ピックアップだけ交換すれば足りませんか。
A:ピックアップの交換で変わるのは、出力と周波数の特性です。音が消えていく途中の質感は、ほとんど変わりません。伸びの長さを決めているのが弦とネックの機械的な結合である以上、拾う側を替えてもそこは動かないからです。中低域を厚くしたいだけなら交換で届きます。伸びの後半まで芯を残したいなら、届きません。
まとめ
2本目を決める基準は、好みではなく、いま持っているギターで出せない音です。順番は、空いている音域が先で、キャラクターの差がその次になります。ゼロが1になるほうが、1が1.5になるより効くからです。
理由は、音が出る前に決まっている差だけが、後から足せないからです。ボディの構造も、ピックアップの位置も、ブリッジの形も、弦が振動しているあいだに働いています。後ろにあるもので、前を作り直すことはできません。
いま手元にある機材で、どうしても出せない音は何でしょうか。それが一言で言えたとき、次の1本はもう決まっています。