AIが賢くなったら、自分の仕事はどうなるのだろう。部下を持ちながら、自分でも案件を抱えている。見積もりも、報告書も、客先に出す資料も、結局は自分が作っている。会議で進捗を聞く時間より、手を動かしている時間のほうが長い。
調べると、答えはだいたい揃っています。事務的な管理業務はAIに代替される。しかし心理的安全性の醸成や、部下の動機づけや、部門間の調整は人間にしか担えない。だから役割を再定義して、管理する人から支援する人へ回りましょう。どこで読んでも、生成AIに聞いても、この形で返ってきます。
この記事が立てる問いは違います。その答えは、日本の管理職が実際に何をしているかを見たうえで書かれているのでしょうか。
日本の管理職は、9割が自分でも手を動かしている
リクルートワークス研究所が2019年3月に管理職2,183人を対象に実施した調査では、約9割がプレイングマネジャーでした。中尾マネジメント研究所代表の中尾隆一郎氏が、機関誌Works185号(2024年9月19日)で紹介している数字です。
同氏が知人の管理職およそ100人に対して行った調査では、さらに内訳が見えます。プレイング業務の割合が7割から8割と答えた人が最も多く2割強を占め、プレイング業務が3割以上だった人は約85%にのぼりました。
つまり日本の管理職の大半は、管理だけをしている人ではありません。自分の担当を持ち、締め切りを抱え、その合間に部下を見ています。役職名は管理職でも、実態は作業者です。
海外の議論を輸入した「マネジャー」という像は、部下の育成と評価と調整を専業でやる人を指しています。日本の職場にいるのは、その像とは別の人たちです。この違いを飛ばしたまま議論を進めると、結論が丸ごとずれます。
AIが引き受けるのは、管理ではなく作業のほうである
生成AIが今いちばん得意なのは、文章を書くこと、表を作ること、資料の下書きを起こすこと、長い情報を要約することです。どれも手を動かす仕事です。
管理業務のうちAIに置き換わりやすいと言われている部分を並べると、進捗の集計、報告書の作成、議事録の要約、数値のダッシュボード化あたりになります。これらもやはり、手を動かす仕事です。
一方で、部下の評価を最終的に決めること、揉めている二人の間に立つこと、決裁に判子を押して責任を引き受けること。この部分は当分残ります。人間が引き受けているのは判断であって、作業ではないからです。
ここまでは、世の中に流通している説明と同じ結論に見えます。ずれるのはこの先です。代替される作業には、その人がプレイヤーとしてやっている作業も含まれている。管理の作業とプレイングの作業は、同じ人の同じ手が動かしているので、片方だけ残ることはありません。
だから「管理業務が代替されても、人間らしい仕事が残る」という説明は、専業のマネジャーには当てはまり、日本の管理職の9割には当てはまりません。残るのは仕事ではなく、仕事の一部です。
管理だけが残った椅子は、そんなに数が要らない
仮に、作業の側をAIが全部引き受けたとします。管理職に残るのは、判断と調整と責任の3つです。
これは確かに人間の仕事です。ただ、そのとき問うべきなのは「人間に残るか」ではありません。その3つだけを担う椅子が、いま置かれている数だけ必要かどうかです。
判断と調整と責任だけを切り出すと、1人が見られる範囲は広がります。進捗を聞いて回る必要がなく、資料を作る必要もなく、数字は勝手に集まってくるからです。10人の部下を見ていた人が、30人を見られるようになります。そのとき、管理職の椅子は3分の1で足ります。
Gartnerは2024年10月、2026年までに20%の組織がAIを使って組織構造をさらにフラット化し、その企業では現在の中間管理職ポジションの半数以上が消えると予測しました。この数字が示しているのは、人間の価値が下がることではありません。同じ人数の管理職を置く理由が消えることです。
薄くなるという言い方が実態に近いと思います。層としては残り、頭数が減ります。
課長の2割は、残業代を足した部下より給料が低い
減らす側から見ると、日本の管理職の椅子には、もう一つの条件が揃っています。
産業能率大学総合研究所が2023年7月に実施した第7回「上場企業の課長に関する実態調査」があります。従業員300人以上の上場企業に勤め、部下が1人以上いる課長級809人が対象です。
この調査で「課長の給与は、残業代を加算した非管理職よりも高い水準にある」に肯定的だった課長は37.6%でした。裏を返すと、6割の課長は、そうは思っていません。そして20%弱の課長は、残業代を加算した非管理職よりも自分の給与が低いと答えています。
管理職に上がると手取りが減る、という話は前から言われてきました。ここで確認したいのは待遇の不公平さではありません。その椅子が、既に報酬面での魅力を失っているという事実です。
魅力のないポストは、減らすときの抵抗が小さくなります。守りたい人が少ないからです。若手が管理職を目指さなくなっている現状も、同じ方向に働きます。構造を変える意思さえあれば、この層はいちばん動かしやすい場所にあります。
消すと決めるのはAIではなく、負けはじめた決算である
ここで一度、話の向きを変えます。技術的に代替可能になることと、実際に人が減ることは、別のできごとです。
日本企業が自分から人を減らすことは、あまりありません。雇用を維持する慣行があり、社内の合意形成に時間がかかり、ポストを残すこと自体が人事の安定装置になっているからです。だから内側からは変わりません。
変わるのは、外から圧がかかったときです。同じ品質のものを、明らかに安く、明らかに速く出してくる相手が現れたとき、その差は決算に出ます。決算に出た差は言い訳ができません。そこで初めて、人員構成を触るという判断が通ります。
ここは事実ではなく、私の見立てです。ただ、日本の産業でこれまで起きてきた構造変更は、たいてい国内での議論からではなく、外から来た競合が数字を突きつけたところから始まっています。流通も、電機も、金融の事務も、その順番でした。
だから「いつ消えるのか」という問いの答えは、AIの性能向上のカーブの上にはありません。答えがあるのは、自分の会社の損益計算書のほうです。
この見立てのコストを、正直に書いておく
反対側に立ちます。この記事の見立てには、弱い部分が3つあります。
1つ目は、根拠にした数字が古いことです。9割がプレイングマネジャーだというデータは2019年の調査で、生成AIが業務に入る前のものです。この6年で、日本の管理職の働き方が変わっている可能性はあります。
2つ目は、まだ起きていないことです。先に挙げた産業能率大学の2023年の調査で、コロナ禍前と比べて「AIに仕事が代替されている」に当てはまると答えた課長は11.4%でした。調査項目の中で最下位です。現場の実感としては、代替はまだ始まったばかりです。
3つ目が、いちばん効くかもしれません。作業が速くなると、その分だけ仕事の総量が増えることがあります。資料を作るのが10分で済むなら、これまで作らなかった資料まで作りはじめる。そうなると、手を動かす時間は減らず、頭数も減りません。過去の効率化では、実際にこれが何度も起きています。
この3つを踏まえたうえで、それでも私はこの見立てを取ります。理由は、外から来る競合には、増えた仕事を引き受ける義理がないからです。
判断基準は、自分の会社が何を守っているかにある
ここまでの話を、明日から自分に当てはめられる形にします。見るのは3つです。
1つ目は、自分の時間の何割が手を動かす仕事かです。これはメモを取れば1週間で出ます。この割合が高いほど、AIに削られる面積が大きくなります。
2つ目は、自分の会社が誰と競争しているかです。同じ業界の国内企業とだけ競っているなら、横並び意識が働くので、変化は遅くなります。国外の企業や、まったく別の業界から入ってきた相手と競っているなら、その決算はもう動きはじめています。
3つ目は、自分の会社がこれまで何を守ってきたかです。人を減らさずに事業を畳んだことがあるか。赤字の部門を何年も抱えていたか。守ってきた実績がある会社は、次も守ろうとします。ただしそれは、外圧が来るまでの話です。
この3つを見て、自分の位置を測る。そのうえで、判断と調整と責任のうち、自分がどれを実際にやっているかを確かめる。手を動かす以外に何もやっていないなら、椅子の理由が薄いということです。
よくある疑問
Q:AIが進化すると、中間管理職は本当にいらなくなるのですか。
A:職種としては残りますが、人数は減る可能性が高いと考えられます。理由は、AIが管理という仕事を丸ごと代替するからではなく、日本の管理職が実際にやっている手を動かす作業を代替するからです。判断と調整と責任だけを担う役割は残りますが、その役割は1人が見られる範囲が広いため、同じ人数の椅子を必要としません。
Q:管理職として生き残るには、何を身につければよいのでしょうか。
A:スキルの前に、自分の時間配分を確認することをおすすめします。手を動かす時間が8割を占めているなら、それはスキル不足ではなく、会社がその人に作業を割り当てているという状態です。個人の学び直しで解ける部分と、組織の設計でしか解けない部分は分けて考えたほうが、消耗が少なくて済みます。
Q:いつ頃、その変化は来ますか。
A:時期はAIの性能ではなく、その会社の収益状況で決まります。同じ品質を安く出す競合が現れて決算に差が出たときが、実際の分かれ目になります。だから業界や会社によって、数年から十年以上の開きが出ます。
消えるのは仕事ではなく、その仕事を置いておく理由
ここまで書いてきて、いちばん伝えたかったのはこの一点です。
AIの世代が上がるたびに、自分の職が消えるかどうかを測ろうとしても、答えは出ません。性能のカーブと、雇用の判断は、別のところで動いているからです。
決めているのは、その会社が構造を変える意思を持つかどうかです。そして日本の会社がその意思を持つのは、たいてい外から数字を突きつけられたときです。
だから見る場所は、次のモデルの発表ではありません。自分が今週、何時間手を動かしたか。その手を動かす仕事を、会社はいくらで買っているのか。そして自分の会社は、いま誰に負けはじめているのか。
あなたの椅子は、どの理由で置かれていますか。







