私は、手のひらにそれほど汗をかきません。それなのに、10分も叩くとスティックが指の間から抜けそうになります。腕を下ろしたときに手首を見たら、そこが濡れていました。汗は手のひらから出ていたのではなく、肩から前腕を伝って、手首から手のひらへ流れ込んでいたわけです。
滑り止めとして出てくるのは、グリップテープ、ワックス、グローブです。どれも、手のひらとスティックが触れているところをどうにかする道具です。私も、まずグリップテープを巻くことを考えました。汗がどこから来ているかは、一度も見ていませんでした。
ここから書くのは、汗の行き先という見方です。手汗を止める作業ではなく、汗の行き先を作る作業だと考えると、試す順番が決まります。手首、仕上げ、テープの順です。一度に全部を変えないので、どれが効いたのかも分かります。
少し湿った手のほうが、乾いた手よりスティックをつかんでいる
汗があるから滑る、という言い方は正確ではありません。乾ききった手も滑ります。指先が乾いて紙をめくれなくなるのと、同じことが起きています。
Tomlinson らが2011年に Tribology Letters 誌で報告した研究があります。指と平らな素材のあいだの摩擦は、水分量がある水準に達するまでは増え、その水準を超えると落ちる、という内容です。摩擦が増える主な仕組みは、触れているところで水が吸われることでした。
つまり、滑りはじめる境目は汗の有無ではなく、吸われる量を超えた分が膜になって残ったときです。ただし、この研究が測ったのは指と平らな素材であって、木のスティックではありません。
手のひらに届く汗が、手のひらから出たとは限らない
私の場合、手のひらは乾いているのに、手首から先が濡れていました。肩から前腕を伝ってきた汗が、手首の内側を回って手のひらへ入っていたことになります。これは自分の腕で見た範囲の話で、測ったわけではありません。
だから私がいちばん先に変えたのは、手首でした。リストバンドを、手首より少し腕寄りまで下げて着けます。汗の多い日は吸い切って飽和するので、2本用意して曲の合間に替えます。ここまでは、スティックを一本も買わずに試せます。
叩いていない時間帯にも汗の量が生活のさまたげになっているなら、これは機材で解く話ではありません。皮膚科などの専門家に相談することを検討してみてください。
クリアラッカーは、木が水を吸う穴をふさいでいる
私が使っているのは Pearl の110HTC です。ヒッコリーで、仕上げはクリアラッカー。2026年8月時点のメーカーの製品ページには、1,980円と書かれています。
塗装は見た目のために足されているわけではなく、湿気と汚れから木を守る役目があります。ただ、塗膜は水を通しません。汗は、木に入れなくなります。
先の研究が示したのは、水が吸われると摩擦が上がるところまでです。だから塗装を外せば滑らない、というのは、そこから私が引いた解釈にすぎません。ドラムスティックそのものを測った研究は、見つけられていません。
パールは、手汗をかくドラマー向けと書いた無塗装のスティックを売っている
同じ Pearl に、Natural Series の110NH があります。110HC と同じ寸法、同じ形状で、仕上げだけがナチュラルです。2026年8月時点の製品ページには、特に手汗をかきやすいドラマーにとってグリップ力を発揮するモデル、と書かれています。
私は最初、パールに無塗装は無いと思っていました。110番の製品ページを見て、ラッカー仕上げしか無いと判断したからです。実際には、同じ番号の並びに、ナチュラル仕上げが別に置かれていました。
滑り止めとして紹介されるのは、ほとんどがテープとワックスです。メーカー自身が手汗をかくドラマー向けと書いている製品には、その言葉ではたどり着けません。探すなら、仕上げの名前です。ナチュラル仕上げ、あるいは raw finish と入れると出てきます。
無塗装のスティックは、汗も汚れもそのまま吸う
弱点も書いておきます。吸う木肌は、汗だけを選んで吸うわけではありません。手の脂も汚れも入るので木肌は黒ずみますし、湿気の多い日は手触りや重さの感じも変わります。
摩擦を上げるために吸わせている以上、ここは避けられません。塗ってあるスティックのように、いつも同じ手触りではないわけです。私は、それでも滑らないほうを取りました。
無塗装は、安く済ませるための選択でもありません。スリップノットの現在のドラマー、エロイ・カサグランデのシグネチャーモデルも、2026年8月時点の仕様では raw finish です。塗らずに、サンドペーパーで仕上げてあります。
Q:無塗装のスティックにすると、指が使いづらくなりませんか。
A:摩擦が上がるとスティックが手の中で固まってしまう、という心配だと思います。実際は逆でした。支点が滑らないほうが、指は動かせます。滑る状態では、抜けないように握り込むしかなくなるからです。テープと違って太さが変わらない点も、指を使う人には効きます。
グリップテープとワックスは、吸わせずに間へ入る
テープとワックスは、汗を吸わせる道具ではありません。手とスティックのあいだに、別の素材を入れる道具です。だから、効き方が違います。
テープを巻くと、太さと手触りが変わります。ワックスは、粘りで止めます。どちらも消耗するので、続けるなら買い足すことになります。
強く握るほど、手のひらは熱くなって汗が増える
滑ると、すっぽ抜けが怖くなります。怖くなると握り込みますし、握り込むと手のひらが熱くなって汗が増えます。これも私の観察で、叩きながら測ったものではありません。
だから、握力で解こうとしないほうが早いです。滑りが止まれば、握り込む理由のほうが消えます。
手や前腕に痛みやしびれが出るなら、その日の本数を減らしてください。休んでも戻らないときは、続けずに専門家へ相談することを検討してみてください。
この順で試すと、どれが効いたかが分かる
手首、仕上げ、テープの順です。上流から順に当てていて、しかも戻しやすい順になっています。リストバンドは今日から試せますし、スティックは1組から替えられます。
一度に全部を変えると、効いたものが分かりません。次に消耗品を買うときの判断も、手元に残りません。
滑る原因を、手のひらの汗の量だと決めていませんか。腕を下ろしたときに手首の内側が濡れていないかを見るところから、始めてみてはいかがでしょうか。







