運動の翌日に疲れを残したくない。そう思ってストレッチをしている方は多いと思います。私もその一人でした。伸ばした直後は体が軽くなるので、効いていると感じます。
しかし、その軽さは疲労が減ったことではありませんでした。ストレッチが翌日の筋肉痛をどれだけ減らすかを調べた12件のランダム化試験をまとめると、差は100点満点で0.5点から4点です。
効いていたのはマッサージのほうでした。2つの何が違うのかは、運動のあとに筋肉を採って調べた研究のところで分かれます。
ストレッチで減る筋肉痛は、100点満点で4点だった
12件のランダム化試験をまとめると、ストレッチをした人としなかった人で、翌日以降の筋肉痛の差は100点満点で0.5点から4点でした。コクラン・レビュー(Herbert、de Noronha、Kamper、2011年)の数字です。
運動の前にやった場合が0.52点、運動の後にやった場合が1.04点、前と後の両方でやった場合が3.80点。いちばん大きい3.80点でも、100点満点の中の4点です。著者の結論は、健康な成人において、ストレッチは運動の前でも後でも前後の両方でも、遅発性筋痛を臨床的に意味のある程度には減らさない、というものでした。
やるタイミングを変えても数字は動きません。運動前と運動後のどちらがいいか、という問いの立て方そのものが、この結果では意味を持ちません。
効かないことと、逆効果なことは違う
では、やめたほうがいいのでしょうか。このレビューが言っているのは、効果が体感で分かる大きさに届かない、ということだけです。害があるとは書かれていません。
分かるのは、疲労回復を目的にしてストレッチをやる理由が、100点満点で4点という数字からは出てこないということです。目的が別にあるなら、そちらの話になります。この記事が扱っているのは、翌日に残る疲れの側だけです。
片脚だけマッサージして、両脚の筋肉を採って比べた
ストレッチの側はここまでです。マッサージの側では、別のことが起きています。11人の太ももで、運動のあとに片脚だけマッサージをして、両脚から筋肉を採って比べた研究があります(Crane ら、Science Translational Medicine、2012年)。
マッサージをした側では、炎症の司令塔にあたるNFκBが細胞の核に溜まるのが抑えられ、TNF-αとIL-6という炎症性の物質の産生が下がっていました。同時に、ミトコンドリアを新しく作る側のシグナル(PGC-1α)が上がっていました。炎症の抑制もPGC-1αの上昇も、何もしなかった側の脚では起きていません。同じ人の、同じ日の、左右の脚で分かれています。
主観の側でも同じ向きです。99の研究を集めたメタ分析で、運動後の回復手段のうち、筋肉痛と疲労感をいちばん減らしたのはマッサージでした(Dupuy ら、Frontiers in Physiology、2018年)。軽い運動での回復は、筋肉痛には効いていましたが、疲労感には有意な差が出ていません。
マッサージでも、使い切った燃料は戻らない
ただし、マッサージが何にでも効くわけではありません。同じ11人の筋肉で、グリコーゲンと乳酸には差が出ていませんでした。
グリコーゲンは筋肉に貯めてある燃料で、運動をすると減ります。乳酸は運動中に増える代謝物です。どちらも、マッサージをした側としなかった側で変わっていません。使い切った燃料は、揉んでも戻らないということです。
だから、マッサージをしたから明日も同じだけ動ける、とはなりません。マッサージが手を入れているのは壊れた側の後始末であって、マッサージが引き受けているのは燃料の補充ではありません。
「疲労物質を流すから効く」は、順番が逆だった
ここまでを並べると、よく聞く説明と食い違います。ストレッチもマッサージも、血流を促して疲労物質を排出するから効く、と説明されます。
ただ、マッサージで代謝物が動いていない以上、この順番では説明がつきません。流れて減ったから楽になったのであれば、グリコーゲンか乳酸のどちらかに差が出ているはずです。出ていないのに、炎症の側だけが下がっています。
効いていたのは、押されたことそのものでした。Crane らの研究で、筋肉に力が加わったことを細胞が受け取る経路(FAKとERK1/2)が動いていました。その先で炎症が下がり、ミトコンドリアを作る側が動いています。流れたから効いたのではなく、押されたから中の反応が変わった、という順番です。
翌日に残したくない日は、ストレッチをやめてマッサージに回す
では、翌日に残したくない日に何をするか。ストレッチを疲労回復のためにやるのをやめて、その時間をマッサージに回します。
Crane らの研究がやったのは、運動が終わった直後の10分間のマッサージです。翌日から始めた場合や、自分の手で揉んだ場合に同じことが起きるかは、この研究からは決まりません。運動の直後に10分、というのが、いま確かめられている形です。
そして、これをやっても燃料は戻りません。翌日も同じだけ動きたいなら、食べて寝る側が別に要ります。
よくある疑問
Q:ストレッチは、もうやらないほうがいいのでしょうか。
A:疲労回復を目的にするなら、やる理由がこの数字からは出てきません。ただ、コクラン・レビューが調べたのは筋肉痛です。ストレッチをやらないほうがいい、とまでは言っていません。
Q:マッサージは、強いほうが効きますか。
A:分かりません。Crane らの研究でやったのは、運動の直後の10分間のマッサージです。強さを変えて比べたものではないので、この研究からは答えが出ません。
Q:翌日に筋肉痛が出てからマッサージをしても間に合いますか。
A:Crane らの研究は、運動の直後にマッサージをしています。翌日から始めた場合を調べたものではないので、答えられません。
Q:ストレッチをすると体が軽くなるのは、気のせいですか。
A:気のせいではありません。伸ばした直後に動かしやすくなるのは、実際に起きています。ただ、それと翌日に残る疲れが減ることは別で、翌日に残る疲れは12件の試験で差が出ませんでした。
運動の翌日に疲れを残したくないなら、まず、いまストレッチに使っている時間がどこに効いているのかを、一度見てみてはいかがでしょうか。







