法人の節税には金額の上限がある。だから、事業に回すかどうかは足し算で決まる

「投資リターンを考えれば、節税よりも事業投資だよね。節税は守りの話だもんね」。利益が出てきた会社では、この整理がよく出てきます。私も最初はこの形で考えていました。攻めと守り、リターンの高いほうと低いほう。ところが数字を並べると、この整理では説明のつかないところが出てきます。

流通している節税の説明は、たいてい手法の一覧です。経費、給与、資産、保険と分けて10個ほど並べ、最後に専門家への相談をすすめて終わります。金額の上限にも触れています。ただし触れ方が単品なので、全部やったらいくらになるのかは書かれていません。

この記事が渡すのは、その合計の出し方と、出した額を何と並べるかです。制度の数字は2026年8月時点のものを使います。

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小規模企業共済は年84万円、経営セーフティ共済は年240万円で止まる

小規模企業共済の掛金は、月1,000円から7万円までの範囲を500円単位で選びます。年間にすると84万円が天井になります。

経営セーフティ共済は、月5,000円から20万円までを5,000円単位で選びます。年間で240万円、掛金の総額が800万円に達したところで積立が止まります。どちらも中小機構の制度で、2026年8月時点の条件です。

ここで見ておきたいのは、この数字が会社の規模と関係なく決まっていることです。利益が3,000万円の会社でも、3億円の会社でも、枠は同じ84万円と240万円です。会社が2倍になっても、枠は2倍になりません。

小規模企業共済だけは、払う年ではなく税率のほうが動く

経営セーフティ共済の掛金は、法人なら損金に算入できます。ただし解約手当金を受け取ると、損金にしていた分は益金になります。中小機構が制度の質問集にそう書いています。掛けた年に減った利益が、解約した年に同じ額だけ戻ってくるということです。生命保険で戻ってくるお金も同じ形で、税金が消えたのではなく、払う年が動いただけになります。

4つを並べて語られることが多いのですが、小規模企業共済だけは性質が違います。

入口では、掛金の全額が小規模企業共済等掛金控除として所得から引かれます。所得税は累進なので、所得の高い人ほど引かれ方が大きくなります。出口では、一括で受け取ると退職所得として扱われます。退職所得は、受け取った額から退職所得控除を引いて、残りに2分の1を掛けたものが所得になります。

高い税率で引いて、低い税率で受け取ることになります。払う年が動いただけではなく、税率そのものが下がっています。ここだけは繰り延べではなく、確定した差になります。

もう1つ、これは個人の所得控除であって、法人の損金ではありません。掛けても会社の決算書は痩せないので、銀行が見る数字のほうは動きません。

利益を消すと、銀行から借りられる額も一緒に減る

法人税を払うと、残った利益が自己資本として積み上がります。中小法人の税率は、年800万円以下の部分が15%、それを超える部分が23.2%です。1,000万円の利益を残せば、税を払ったあとで700万円台が会社に残る計算になります。利益を圧縮すると、この積み上がりが止まります。

ここからは私の見方です。銀行が決算書を見るとき、利益と自己資本は中心的な材料になります。利益を消して自己資本を薄くした会社は、借りられる額の上限も一緒に下げていることになります。個別の審査基準は金融機関ごとに違うので、これは構造の話としてだけ書きます。

そして、借りられる額には制度上の固定額がありません。会社が伸びれば、伸びます。共済の枠は伸びません。負けているのは利回りではなく、投下できる金額のほうです。

解約返戻率が70%を超えると、保険料の6割は損金にならない

「守りの話だもんね」と言われて、私はすぐに答えられませんでした。守りが要らないと言えば行きすぎで、要ると言えば節税商品を肯定することになります。

最初は、売り手が売りたいから割高になるのだ、という話にしようとしました。それは推測なので書けません。調べてみると、制度の側にはっきり書いてありました。

法人税基本通達9-3-5の2です。保険期間が3年以上の定期保険等で、最高解約返戻率が50%を超えるものは、保険料の一部を資産に計上します。50%超70%以下なら100分の40、70%超85%以下なら100分の60。資産に計上する期間は、保険期間の初めの40%にあたる期間です。返戻率が70%を超える商品は、その期間、払った保険料の6割が損金になりません。

解約して戻ってくる割合が高い商品ほど、損金にできる割合は下がります。戻り率と税効果は、売り手の都合ではなく制度の側でトレードオフになっています。ここから先は私の解釈ですが、両方をまとめて買うと、保障1円あたりの値段は良くなりません。貯蓄の部分に払ったお金は、保障額を増やしていないからです。

だから判定は1つで足ります。税効果をゼロと置いて、それでも買うか。買わないなら、その守りは元々要らなかったことになります。

個人保証つきの借入があるなら、死亡保障は税と関係なく要る

個人保証をつけて借りている場合、経営者が亡くなると、その保証債務は原則として相続人へ引き継がれます。相続放棄という手段はありますが、それを選ぶと自社株を含めて全部を放棄することになります。

この場合の死亡保障は、節税の話ではありません。家族に何が渡るかの話です。必要な額は、債務の残高と返済期間と家族構成で変わるので、ここでは金額を書けません。掛け捨てで買うか貯蓄型で買うかも、そのあとの話です。

逆に、個人保証つきの借入が無いのであれば、節税を理由に保障を買う必要はありません。

上限を全部足した額を、来期に事業へ投下する額と並べる

小規模企業共済で年84万円。経営セーフティ共済で年240万円。生命保険は、税効果をゼロと置いたときに買う分だけを入れます。社用車は、実際に使う分だけです。

足したら、その額を、来期に事業へ投下する額の隣に置きます。人を採るなら採用と人件費、設備を入れるなら設備、広告を出すなら広告費を、金額で書き出します。

2つの数字を並べると、判断はだいたい決まります。会社によって違うので、何%なら誤差だという線は引けません。ただ、並べていないと、比較そのものが頭に立ちません。ここから先は私が提案する手順であって、確立された経営の理論ではありません。

事業に投下する先が無い会社では、順番が逆になる

ここまでの話が丸ごと逆になる会社があります。事業に投下する先が無い場合です。人を採っても回す仕事が無い、設備を増やしても稼働しない、広告を出しても受け皿が無い。その状態で利益を残すと、税を払ったうえで現金が寝るだけになります。

このとき、上限のある枠のほうが最善手になります。特に小規模企業共済は税率そのものが下がるので、投下先が無い会社にとっては強い選択肢です。

判定は、来期に投下する先を具体的な名前で書けるかどうかです。書けないなら、この記事の順番は当てはまりません。

事業に回さない分は、会社と一緒に動かないものにする

足し算をして、多くを事業に回すと決めたとして、全部を回してよいのでしょうか。

私は最初、これを「事業は失敗するかもしれないから、個人側に残しておけ」という話として考えていました。裏を取ろうとして生存率を調べたら、前提のほうが崩れました。広く流通している「起業10年後の生存率6.3%」という数字には、根拠が見つかっていません。国立国会図書館のレファレンス協同データベースが調べて、そう記録しています。同じ記録が挙げている公式の統計では、起業5年後の生存率は8割前後です。

つまり、失敗する確率を根拠にした説得は成り立ちません。残す理由は別のところにあります。

経営者の場合、役員報酬も、純資産の大半も、自分の値打ちも、個人保証があれば自宅も、すべて同じ1社に紐づいています。会社が傾くと、この4つが同時に動きます。分散が効くのは値動きがずれているときだけなので、全部が同じ方向に動く状態では、金額を増やしてもリスクは下がりません。

だから、事業に回さないと決めた分は、会社と一緒に動かないものにします。法人契約の保険は、解約返戻金が会社の資産です。会社が傾けば同時に処分されるので、これは同じ側にあります。残す額に正解はありませんし、残しすぎれば事業の速度が落ちます。

会社が傾いた日に、一緒に動かないものはあるか

ここに書いた税率と通達と共済の条件は、2026年8月時点のものです。制度は変わりますし、効き方は会社の数字で変わります。手をつける前に、顧問の税理士に自社の決算で当ててもらってください。この記事が渡しているのは考える順番であって、個別の判断ではありません。

そのうえで、1つだけ確かめてみてはいかがでしょうか。会社が傾いた日に、一緒に動かないものが、いま手元にありますか。

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