ある決裁資料の最終節に、決裁事項として4項目が並んでいました。1つ目は年間5,000万円の予算計上の可否。2つ目は現場のメンバーへの展開を検討したいという話。3つ目は関係会社との連携の検討で、4つ目は担当者が自部署でどう使えるかの検討です。承認が要るのは、1つ目だけでした。
稟議書の書き方として出回っているものは、だいたい形が同じです。必須項目を4つから6つ並べる。結論を先に書く。数値と根拠を添える。デメリットにも触れる。事前に根回しをしておく。どれも正しく、たいていの人はもう全部やっています。
この記事が扱うのは、全部書き終えたのに返事が来ない状態です。足すものの話はしません。承認が要る一行だけを決裁事項に残し、残りは報告と書き分ける、というところまでを書きます。
テンプレートの項目は、埋めるほど増える
テンプレートは、埋める方向にしか働きません。欄が空いていれば不備に見えるので、書き手は埋めにいきますし、埋まった資料は実際に丁寧です。
だから、返事が来ないときの反応も一方向になります。まだ足りないのだ、と読むからです。根拠を足し、比較表を足し、想定質問への回答を足す。ここまでは、書き手として正しい動きです。
埋めた項目には、承認が要るものと報告で足りるものが混ざる
さきほどの4項目のうち、承認が要るのは1つ目だけで、残りの3つは検討事項なので報告で足ります。それが決裁事項という同じ見出しの下に並んでいました。
2つ目の項目を読み直すと、一つの文の中で3つのことをしていました。まだ使って3日しか経っていないという留保。希望者へ展開したいという提案。導入しなければ選ばれなくなるという主張。決裁事項の欄に、留保と提案と主張が同居しています。
決裁者の側から見ると、順序が逆になります。中身を評価するより先に、どこまで承認したことになるのかを確かめようとするからです。1つ目の予算だけなのか、展開の方針まで含むのか。そこが読めないまま押すことはできないので、判断は重くなり、重い判断は後回しになります。
これが「何を承認すればいいのか読めない」の現物です。私はこう指摘しました。いま4つ並んでいますが、決裁が必要なのは1つ目だけで、残り3つは検討事項です。混ざっていると決裁者が「全部承認するのか?」と身構えます。
決裁資料に疑問符が一つ残ると、詰め方まで推測される
同じ資料で、関係会社の社長の名前を挙げた箇所に、疑問符が付いたままでした。◯◯社長、△△社長?という形で、誰に話を通すかが、まだ確定していなかったからです。
指摘したのは一行です。決裁資料に疑問符が残っていると、詰めきれていない印象を与えます。名前が確定していないなら、関係会社の社長だけで十分です。
一文字の記号ですが、読む側はそこを材料に使います。決裁者は、書かれた中身を全部は検算できません。だから、確かめられるものは全部、詰め方の推定に回ります。疑問符は、その数少ない材料の一つです。
「導入しないと選ばれなくなる」は、脅しとして読まれる
同じ資料に、こういう一文がありました。導入しなければ営業はお客様に選ばれなくなり、管理職はメンバーに選ばれなくなる。
それでも、決裁の場では逆に働くことがあります。私はこう伝えました。決裁者によっては「脅しか?」と受け取られます。抑えたほうが、かえって効きます。
主張そのものは正しい可能性が高いのに、通りにくくなる。正しさと通りやすさは別だ、という実例です。強い言い方は、判断を早める材料ではなく、身構える材料になります。
承認が要る一行を、先頭に一つだけ置く
書き換えは単純で、決裁事項の欄には、年間5,000万円の予算計上の可否だけを置きます。残りの3つは、今後の検討事項として、承認不要・報告と括弧で書いて同じ資料に載せる。
要点は、承認不要・報告と明記したところです。項目は一つも消していないので、読む量も変わりません。変えたのは、決裁者が押す判断の数だけです。
正直に書いておきます。この書き換えが通ったかどうかを、私はまだ知りません。返事が来ていないからです。この記事で確かめられているのは、資料に4項目並んでいたことと、書き換えて渡したことの2つだけで、決裁者が身構えるという読み方も、決裁者に確かめたものではありません。
決裁事項を1つに絞ると、通ったあとに動ける範囲も狭くなる
絞ると通りやすくなる、というのがこの記事の見立てです。ただし、通ったあとに動ける範囲も、その1つ分になります。
隣の話を動かそうとしたとき、もう一度上げ直すことになります。決裁者の時間を取るのが難しい相手なら、この往復はそれ自体がコストです。全部まとめて通しておきたい、という動機は本物だと思います。
分け方は一つあって、まとめて通すのは、承認の対象が同じ性質のときだけにする、という形です。予算と方針と体制が同じ欄に混ざると、決裁者はいちばん重いものに合わせて判断します。3つのうち2つが軽くても、判断の重さは軽いほうには寄りません。
決めてほしいことを、一行で言えるか
手元の資料の最終節を開いて、承認を求めている文だけを抜き出してみてください。2つ以上あったら、どれか1つを決裁事項に残し、残りは報告と書き分けられます。
一行で言えないときは、書き方の問題ではないかもしれません。何を決めてほしいのかが、まだ自分の中で決まっていないという合図です。そこだけ先に決めてから、資料に戻ってみてはいかがでしょうか。

