生成AIのファクトチェックで見逃しやすいのは、出典も内容も正しいのに、自分の状況について書かれていない答えです。出典が実在するか、内容が正確かを確かめる方法はそろっています。ただ、その文が自分のしようとしている操作の説明かどうかは、どの方法でも確かめられません。
しかし、出典を開いて原文まで確かめたのなら、それで十分だと考える人も多いはずです。
この記事では、実際に起きた取り違えの例と、それを防ぐ2つの確かめ方を順に書きます。
AIは公式ヘルプを根拠に「返金されない」と答えた
AIは「返金されない」と答え、根拠に公式ヘルプの原文を添えましたが、実際には日割りのクレジットが付きました。チーム向けのAIサービスで、契約している席の種類を入れ替えようとしたときのことです。
安いほうの席を1つ減らし、高いほうの席を1つ増やす作業でした。作業の前に、減らした席の料金が日割りで戻るかをAIに訊きました。
AIの答えは「返金されない」でした。添えられたヘルプの原文にも、すぐのクレジットも返金も発生しないと書いてありました。そこで、月の途中で減らすと1か月分の料金が無駄になるので、更新日の直前に作業しようと考えました。
ところが、管理画面で確定前の確認画面を開くと、減らす席に残り日数分のクレジットが付いていました。AIの答えも、添えられた原文も正しかったのに、私の場合の結論は違っていました。
ヘルプの文は、メンバーを外す操作の説明だった
ヘルプの文は間違っていませんでした。あの文が説明していたのは、メンバーをチームから外す操作です。
メンバーを外すと、その人の席は空きますが、契約している席の数は変わりません。空いた席の料金は払い続けるので、返金はありません。
私がしようとしていたのは、契約している席の数を減らす操作でした。そのサービスの確認画面では、この操作に日割りのクレジットが付いていました。同じヘルプの中でも、2つの操作は別の手順として書かれていました。
資料は正しく、AIがその資料を当てはめた操作が、私のしようとしていた操作と違っていました。なお、席の数を減らしたときの精算の扱いは、サービスや契約の形で違います。使っているサービスの説明と確認画面で確かめてください。
2つの操作は、どちらも「減らす」と呼ばれる
取り違えが起きたのは、日常の言葉ではどちらの操作も「減らす」と呼ぶからです。人を減らすのも席を減らすのも、使う側には同じ作業に見えます。管理画面でも、メンバーの一覧と契約の設定は近い場所にありました。
サービスの側では、2つは別の処理です。
| 操作 | 変わるもの | 料金 |
|---|---|---|
| メンバーを外す | 席の割り当て | 契約している席の数は変わらないので、料金も変わらない |
| 席の数を減らす | 契約している席の数 | 請求の対象が減る(精算の時期はサービスによる) |
この区別を知っていれば、ヘルプのどの文が自分の操作の説明かはすぐ分かります。似た取り違えは、ほかの手続きでも起こりえます。
- 解約と、自動更新の停止
- 削除と、アーカイブ
- 退会と、データの消去
どれも会話では一言で済ませがちですが、実際に起きることは違います。違いを知らないうちは、どちらの説明を読んでも自分の操作の説明に見えます。
どちらの操作かを決める情報は、資料に書かれていない
「席の割り当てと、契約している席の数は別のもの」という一文は、ヘルプのどこにも書かれていませんでした。ここから先は私の解釈で、仕組みとして確かめたものではありません。
資料の書き手にとって、その区別は前提なので、わざわざ書かないのだと思います。区別を知らない読み手には、どちらの文も自分の操作の説明に見えます。
AIは資料を読めますが、質問した人がどちらの操作をしようとしているかまでは分かりません。質問に「減らす」とあれば、「減らす」と書かれた文を引用するのだと思います。引用した文が正しくても、質問した人の操作に当てはまるとは限りません。
AIに確かめ直させても、同じ答えが返ってくる
生成AIのファクトチェックとしてよく勧められる方法を、この例に当てはめると、どの方法でも取り違えは見つかりません。
| 方法 | この例での結果 |
|---|---|
| 出典を示させる | 公式ヘルプの原文が示される |
| 複数のAIに同じことを訊く | どのAIも同じ公式ヘルプを根拠にしやすく、同じ答えになりやすい |
| 検索機能のあるAIで裏を取る | その文は実在するので、裏が取れてしまう |
これらの方法が確かめているのは、その文が実在するか、書かれた内容が正確か、の2点です。今回の答えは、どちらも満たしていました。
確かめられないのは、その文が自分の操作について書かれているかどうかです。判断に必要な区別が資料に書かれていないので、AIに何度訊き直しても、同じ資料から同じ答えが返ってきます。
確かめ直すのは、お金・契約・取り消せない操作のときだけでよい
AIの答えを毎回すべて確かめ直すと、AIで調べる手間が省けなくなります。今回のような取り違えは、同じ言葉が別々の操作を指す場面で起きやすく、そうした場面はそれほど多くないと思います。
管理画面を開いて確認画面まで進めるのは、質問を1行打つより手間がかかります。すべての質問でこれをすると、調べる速さはAIを使う前と変わらなくなります。そこで、確かめ直す場面を次の3つに絞ります。
- お金が動くとき
- 契約が変わるとき
- あとから戻せないとき
この3つのどれかに当たるときだけ確かめ直せば足りると思います。
AIが引用した文が、何の操作の説明かを確かめる
AIが資料を引用してきたら、その文が何の操作について書かれているかを見ます。今回のヘルプの文は「メンバーを外す」操作の説明で、私がしようとしていたのは「席の数を減らす」操作でした。
説明している操作が自分の操作と違えば、内容が正しくても自分には当てはまりません。
AIの答えを読んだら、「この説明は、自分がしようとしている操作について書かれたものか」を自分に問います。同じことをAIに訊いても、判断に必要な区別が資料に無ければ、AIの答えが合っているかを確かめる手段がありません。
取り消せる操作なら、確定前の確認画面まで進めて数字を見る
取り消せる操作なら、AIに訊くより先に、確定前の確認画面まで進めるのが確実です。今回、答えが分かったのもこの画面でした。
多くの手続きでは、確定ボタンの前に、金額や変更前と変更後の内容を並べた画面が出ます。ボタンを押さなければ、何も確定しません。
この画面には、自分の操作をしたときの実際の金額が出ます。一般向けの説明と自分の状況を照らし合わせる必要がないので、取り違えが起きません。
画面の名前はサービスによって違い、「確認画面」「見積もり」「プレビュー」「変更内容の確認」などと書かれています。取り消せない操作ではこの方法は使えないので、前の章の「何の操作の説明か」を確かめる方法を使います。
よくある疑問
Q:AIの回答に出典が付いていれば、その内容は信用してよいのでしょうか。
A:出典が実在すること、記述が正確であることは、出典を開けば確かめられます。ただし、その記述があなたの状況について書かれたものかどうかは、出典を開いても分からないことがあります。お金や契約が動く場面では、確定前の画面まで自分で進めて、実際の数字を見るほうが確実です。
Q:ハルシネーションの対策をしていれば、この取り違えも防げますか。
A:防げません。ハルシネーションは、AIが事実に基づかない情報を作り出す現象で、その対策は根拠のある情報だけを答えさせるためのものです。今回の取り違えは、根拠のある情報を答えた結果として起きたので、その対策では防げません。
AIの答えが誰の何についての説明かを、自分で確かめる
AIに調べ物を任せる場面は、これから増えると思います。AIは速く、根拠も添えて答えてくれます。
答えの文が正しいかどうかは、出典を開けば確かめられます。その文が誰の何についての説明かは、使う人が自分で確かめる必要があります。
お金や契約が動く場面では、AIの答えが自分の操作の説明かを確かめてから進めてみてはいかがでしょうか。







