MAツールを入れて1年が経つのに、商談が増えた実感がない。メールは毎週出していて、スコアも設定してあります。それでも、営業に渡すリストは去年とほとんど変わっていない。そういう状態にいる方は、少なくないのではないでしょうか。
よく言われる答えは、だいたい決まっています。目的とKPIが曖昧なまま導入したから、専任の担当者がいないから、配信するコンテンツが足りないから、営業との連携が取れていないから。どれも間違ってはいませんし、実際にそこを直せば数字が動く会社もあります。
ただ、この記事が立てる問いは別のところにあります。そのスコアは、そもそも必要だったのでしょうか。
開封もクリックも、買ったという事実ではなく、買うかもしれないという推測である
開封もクリックも、買ったという記録ではなく、買うかもしれないという推測の材料です。先日、受け取ったメールのリンクをそのまま見てみたところ、URLの後ろに長い文字列がいくつも付いていました。
utm_ で始まるものは、流入元を集計するために広く使われている印です。もう1つ、_hsenc で始まる文字列がありました。これは配信システムが発行するハッシュ値で、受け取った1人を一意に識別するために使われます。
私は最初、これをアクセス解析へ渡すための値だと思っていましたが、そうではなく、配信元の管理画面の中だけで使われるものでした。つまり、リンクを踏んだ瞬間に、どのメールアドレスの人が踏んだかが送信側に残ります。ただし、その1クリックが証明しているのは、その人が踏んだという事実だけです。件名が気になっただけなのか、あとで読むつもりで開いたのか、そこまでは記録に残りません。
推測で順番を決める仕組みは、買った記録を持っていない相手のために作られた
リードスコアリングと呼ばれるこの仕組みは、相手がまだ一度も買っていないときのために作られています。メールを開いたら5点、特定のリンクを踏んだら10点、価格のページを見たら15点というように、行動ごとに重みを決めていきます。会社の規模や役職といった属性にも点数を付けて、合計が決めた点数を超えたら、見込みが高い人として営業に渡します。
90日動きのない人からは点を引く、という設計もよく使われます。ずっと前に一度クリックしただけの人が、いつまでも有望な人として扱われ続けるのを防ぐためです。細かいところまで、よくできた仕組みだと思います。
ただし、この設計が答えようとしている問いは1つしかありません。この人は買うだろうか、という問いです。すでに買った人には、その問いが立ちません。答えがもう出ているからです。
その点数が当たっていたかを、後から確かめている会社は少ない
点数の付け方は、最初は勘で決めるものですし、それ自体は悪いことではありません。仮の数字で走り出して、あとから直せばいい。問題は、決めた後に答え合わせをしているかどうかです。
目的の再設計も、専任の担当者を置くことも、コンテンツの拡充も、営業との定例会も、すでに手を付けたという方は多いと思います。それでも変わらないのなら、抜けているのは工程ではなく照合のほうです。点数が高かった人は、低かった人より本当に多く買ったのか。この1つを突き合わせない限り、その点数が効いているのかどうかは、社内の誰にも分かりません。
加点する条件を増やすほど、全員の点数が上がっていき、かえって差がつかなくなります。人事評価の点数が年々上がっていくのと、同じことが起きているわけです。そして年に数回しか売らない商売では、そもそも突き合わせるだけの人数が集まりません。何人いれば足りるという線を引ける話ではありませんが、確かめられない点数は、確かめられないまま残り続けます。
買った記録は、3つに分けて使われている
買った記録のほうは、ずっと以前から分解して使われてきました。最後に買ったのはいつか、何回買ったか、いくら使ったか。この3つで顧客を並べ替える考え方は、通信販売の世界で長く使われてきたものです。
ここで一点、事実と解釈を分けておきます。Peter Fader、Bruce Hardie、Ka Lok Leeの3氏が2005年にJournal of Marketing Research誌(第42巻第4号、415〜430ページ)で示したモデルでは、この3つは同じ働きをしていません。最後に買った時期と買った回数が将来の取引回数を説明し、使った金額のほうは1回あたりの金額を説明する、という分業になっています。
ですから、金額さえ見ておけばよい、とは言えません。ここで言えるのは別のことです。この3つはどれも、実際に払ったという事実から作られています。開封のほうは、まだ何も払っていません。
広告の会社の強さも、買う場所にどれだけ近いかで決まっている
同じ構造は、もっと遠いところにも見えます。ここからは私の解釈で、学説として確立された議論ではありませんので、そのつもりで読んでください。
通販サイトの検索窓に商品名を打ち込んでいる人は、もう買うと決めています。そこに商品を並べる会社が握っているのは、確定した意図です。一方、まだ何も買う気のない人が眺めている画面に広告を差し込む会社は、確定していない意図のほうを推測しているので、勝負している場所がそもそも違います。
どちらも強いのですが、強さの出どころが違います。前者は買う場所そのものを持っていて、後者は推測の精度を何年もかけて上げてきました。買った記録が手元にある会社が、推測の精度を上げる側の作法をそのまま持ち込むと、持っているものを使わないまま戦うことになります。
推測を足したほうがよい場合も、正直に書いておく
公平を期すために、逆側も書きます。推測の仕組みが要らないと言えるのは、条件が揃ったときだけです。
まだ一度も買っていない相手しかいない事業では、推測するしかありません。法人向けの新規開拓が、その代表です。買った記録が古くなる商売もあって、数年に一度しか買わないものであれば、5年前の記録は今日の状態を説明しません。そこは行動のほうが、新しい情報を持っています。
そして、たくさん売っている事業には、突き合わせるだけの人数があります。人数が揃えば、点数が当たっていたかを毎月でも確かめられますし、確かめられる場所では行動の点数は実際に働きます。要らないと言えるのは、買った記録があって、なおかつ人数が少ない事業の話です。ここを取り違えると、必要な仕組みまで外してしまうことになります。
判断基準は、その点数を外したときに誰が漏れるかである
明日から試せる形にしておきます。順番は3つで、表計算ソフトがあれば足ります。
最初に、過去に買った人を金額の大きい順に並べます。次に、点数の高い順に並べた表を、その隣に置きます。最後に、上から順に顔ぶれを見比べます。
上から同じ顔ぶれが並ぶなら、その点数は何も足していません。ずれた人が出たときだけ、そこを見ます。買っていないのに点数が高い人が多いなら、その点数はノイズを拾っています。買ったのに点数が低い人が多いなら、その人たちはメールを開かずに買っているので、そもそも開封では捕まえられません。どちらが多いかで、点数を直すのか、外すのかが決まります。
よくある疑問
Q:MAツールを解約したほうがいい、ということでしょうか。
A:いいえ。配信そのものは必要です。外すことを検討してよいのは、開封やクリックに点数を付けて順番を決めている部分だけです。誰にいつ何を送るかを自動で回す機能と、誰が買いそうかを点数で推し量る機能は、同じツールの中に入っていますが別のものです。前者を止める理由はありません。
Q:購入履歴がまだない事業では、どうすればよいのでしょうか。
A:その場合は推測するしかないので、スコアリングは妥当な選択です。ただし最初に決めるべきは加点条件ではなく、3か月後に何と突き合わせるかです。突き合わせる先を決めずに点数を作ると、当たっていたのかどうかが、後から分かりません。
Q:営業から「温度感が分からない」と言われています。点数を外したら、もっと分からなくなりませんか。
A:渡す情報を点数から購入金額に替えると、かえって分かりやすくなることが多いと思います。点数は社内でしか通じない数字ですが、いくら払ったか、いつ買ったかは、そのまま会話の材料になります。前回いつ何を買ったかが分かっていれば、連絡をする口実にもなります。
買った記録があるなら、最初の線はそこで引ける
ここまでを1つにまとめます。MAツールで効果が出ないとき、疑うべき場所は運用の手前にあります。買った記録を持っているのに、買うかどうかを推測する仕組みを、その上へ重ねていないでしょうか。
推測は、記録がないときの次善策です。記録があるのなら、次善策は要りません。誰にいくら払ってもらったかを並べるだけで、案内する順番はだいたい決まります。
あなたの手元にある名簿のうち、実際に払った金額まで入っているのは、何人分でしょうか。