マイダス・システムの中古価格が数万円のまま下がらないのは、この本の中身を書いた文章がほとんどなく、値段のほかに価値を判断する材料がないからです。高い値段は、それだけで「特別な本だ」という印象を与えます。高く買った人が「効かなかった」と書きにくいことも、評判が高いまま続く理由の1つです。
しかし、絶版で部数が少ない本なら、高くて当たり前だと考える人もいると思います。その理由も間違いではありませんが、同じ本がブックオフの公式オンラインストアには中古価格3,135円で載っています。
この記事では、本の中身、感想の数、値段が下がらない4つの理由、本の手順に効果があるかを順に見ます。
マイダス・システムが説くのは、目標を書いて繰り返す古典的な成功法則である
『マイダス・システム―奇跡の成功法則』は、スチュアート・ゴールドスミスの The Midas Method を竹内克明が訳した本です。国立国会図書館の書誌では、廣済堂出版から1998年1月に出ています。
本の主張は、成功を左右するのは自尊心と、自分の能力を信じる気持ちの2つだ、というものです。実践の部分では、目標を書いたカードを作って読み上げるなど、決めた手順を繰り返す「儀式」を求めます。
目標をはっきりさせ、言葉にして繰り返し、思い描くという方法は、ナポレオン・ヒルやマクスウェル・マルツの『サイコ・サイバネティクス』にも書かれています。書かれている方法は他の成功法則の本でも読める種類のもので、数万円を払わないと手に入らない情報ではないと思います。
日本語で書かれたこの本の感想は数件しかない
ブクログでこの本を本棚に登録している人は16人で、感想は3件です。3件とも星3つで、平均評価は3.00です。
3件のうち、2005年の1件は本文が「9,000円」だけです。2008年の1件は目標設定の方法が参考になるという1文で、本の中身を説明しているのは2015年の1件だけです。
ブックオフの公式オンラインストアには中古価格3,135円の商品ページがありますが、在庫はなく、入荷した店舗も0店です。
これらは公開されている記録の数で、この本を読んだ人の数ではありません。それでも、数万円の値が付く本について、中身を書いた文章が数件しかないことは、値段が下がらない理由を考える手がかりになります。
理由1:中身の評価がない本では、値段が価値の目安として使われる
中身の評価がほとんどない本では、買う人は値段を見て本の価値を推し量ります。高い値段は、それだけで「特別な本だ」という印象を与えます。
感想が数百件ある本なら、買う人は感想を読んで買うかどうかを決めます。値段は判断材料の1つにとどまります。
感想が3件の本では、判断材料として値段しか残りません。中身を書いた記録が少ない本ほど、買う人は値段を中身の目安として使うことになります。誰かが意図して仕組まなくても、こうなります。
理由2:出品が少ない市場では、少数の人の動きで値段が上がる
出品が少ない中古市場では、少数の人が買いに動くだけで値段が上がります。買い占める人がいなくても、値段は上がります。
著述家の石田久二氏は2018年7月のブログで、この本のアマゾン中古価格を上げたのは自分だという説があると書いています。一時期は10万円ほどまで上がったとしたうえで、10万円の価値はないこと、英語が読めれば原著は無料で手に入ること、国会図書館にもあることを続けています。
同じ記事で石田氏は、自分の著書の1章がこの本を下敷きにしていると書き、ライブ配信でもこの本を取り上げています。値段が誰かの意図で上がったかどうかにかかわらず、感想の少ない本で高値が続きやすい点は変わりません。
理由3:高く払った人ほど「効かなかった」と言いにくい
高い金額を払った人は、払ったことを正しかったと考えたくなります。社会心理学者レオン・フェスティンガーが1957年に提唱した認知的不協和の理論は、この傾向を扱っています。
この理論では、自分の行動と考えが食い違うと、人は不快を感じ、食い違いを減らそうとします。払ったお金は取り戻せないので、変えやすいのは「この本は良かった」という考えのほうです。
数万円で買った本が平凡だったと認めると、そのお金を無駄にしたと認めることになります。これは誰の頭の中でも起きることで、値段が高いほど認めにくくなります。
その結果、高く買った人からは苦情や批判が出にくくなります。高く買った人の「すごい本だった」という感想だけが残り、中身の説明がないまま評判が高くなります。
理由4:「正しい方法をまだ知らない」という説明は何度でも使える
自分が変われない理由を「正しい方法をまだ知らないから」と考えると、その説明は否定されないまま残ります。世の中の方法は数えきれないので、まだ試していない方法がいつまでも残るからです。
高額な本を買うと、買った時点で何かを始めた気持ちになれます。読み切らなければ、内容にがっかりすることもありません。
高い値段を払ったことは、自分が本気だった証拠にもなります。本気で取り組んでも変わらなかったときには、「まだ本物の方法に出会っていない」という次の説明が使えます。
確かめられないことが「幻の本」の価値になっているので、読まれないまま高く売り買いされる状態は、売る人にも買う人にも都合がよいのです。正しい方法を探し続けるのは、人が自分を保つための普通のやり方だと思います。気にかけたいのは、そのために数万円を払うことのほうです。
本の「儀式」には効果のある部分があるが、効果は値段と関係ない
目標を紙に書き、決めた手順を繰り返すという「儀式」には、研究で効果が確かめられた方法と重なる部分があります。効果が期待できるのは書いて繰り返すことで、高い金額で本を手に入れたことは効果に関係しません。
心理学者ペーター・ゴルヴィツァーは1999年に American Psychologist 誌で、「いつ、どこで、何をするか」を前もって決める実行意図を示しました。ゴルヴィツァーとシーランが2006年に94の研究をまとめたメタ分析では、目標の達成に中程度から大きな効果が報告されています。
たとえば「痩せたい」と思うだけより、「月曜の朝7時に家を出て、角を左に曲がって歩く」と決めたほうが実行されやすくなります。マイダス・システムの後半が求める手順は、形としてはこれに近いものです。
同じ方法は、図書館で借りられる本や、無料で読める研究の解説にも書かれています。また、実行意図の研究が調べたのは決めた行動や目標を達成できたかで、収入が増えるかどうかは調べていません。
よくある疑問
Q:アマゾンに表示されている高い値段は、その値段で売れているということですか?
A:そうとは限りません。マーケットプレイスに表示されるのは出品者が付けた値段で、取引が成立した値段ではありません。出品が少ない本では、高い値段の出品が売れないまま残り、その値段が相場のように見えます。
Q:原著を読むことはできますか?
A:原著 The Midas Method は、英語版の電子書籍がアマゾンで売られています。日本語版は国立国会図書館が所蔵しています。
買う前に、読み終えた翌週の自分が何をしているかを考える
高額な自己啓発本や講座を買うか迷ったときは、読み終えた翌週に自分が何をしているかを考えると判断しやすくなります。値段が妥当かどうかは、中身を読む前には分からないからです。
翌週の行動が具体的に浮かぶなら、買う理由があります。月曜の朝に目標を紙に書き出す、手帳の予定を組み替える、誰かに連絡する、といった行動です。
浮かばないなら、少し待ってもよいと思います。「読み終えたら何か分かるはずだ」としか浮かばないときは、本の中身より、正しい方法を探し続けている状態にお金を払おうとしている可能性があります。
この基準は値段を見なくても使え、3,000円の本でも数万円の本でも、翌週の行動が浮かばないなら答えは同じです。行動が浮かぶなら、図書館で借りる、原著を読むといった安く手に入れる方法を探せます。
いま買おうとしている1冊を読み終えた翌週、あなたは何をしていますか。







