夜にオンオフが切り替わらないのは、場所の問題ではなく、うまくなろうとしているかどうかである

仕事は終わりました。パソコンも閉じて、ここからは好きなことをする時間です。それなのに、寝る時間になっても、頭のどこかがまだ立ち上がったままになっている。オンとオフの切り替えができていない、という感覚だけが残る。そういう夜が続いている方は、少なくないのではないでしょうか。

オンオフの切り替えについて、よく言われる答えはだいたい3つです。服を着替える。仕事の道具を目に入らない場所へ片付ける。仕事をする場所と休む場所を分ける。どれも理にかなっていますし、実際に効きます。

この記事が立てる問いは、その先にあります。3つとも試したうえで、それでも夜になると切り替わらない人がいます。その人は、切り替わっていないあいだ、いったい何をしているのでしょうか。

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服を着替えても、部屋を分けても、頭は仕事を続けている

空間を分ける工夫は、仕事のことを考えないためのものです。目に入らなければ思い出さないので、人間が場所の影響を受ける以上、この設計は正しく働きます。

ただ、これらの工夫には共通の前提があります。仕事から離れさえすれば、あとは自然に休息になる、という前提です。オフの時間に何をするかまでは、そこでは問われていません。

問題はここにあります。仕事からは完全に離れているのに、体のほうがまだ休みに入っていない。そういう時間が、夜には普通に存在します。

オフのつもりでやっていることが、体には集中として届いている

オフの時間に選ぶ活動は、たいてい好きなことです。楽器を弾く、ゲームをする、走る、文章を書く。好きなことなのだから休息になっているだろう、と私たちは考えます。

しかし、体が見ているのは好きかどうかではありません。体が反応しているのは、いま自分がどれくらい立ち上がっているか、という一点だけです。

好きなことに深く入り込んでいるとき、私たちは強い気持ちよさを感じます。そして、その気持ちよさを休息の証拠として読んでしまう。オンオフの切り替えが起きていない夜は、ここでずれが生まれています。

気持ちよく集中している状態は、休んでいる状態ではない

深い集中には、心理学で「フロー」という名前が付いています。時間を忘れ、自分のことを考えなくなり、目の前の対象と一体になっている状態のことです。

このフロー中の身体を測った研究があります。Peifer、Schulz、Schächinger、Baumann、Antoni の5人が2014年に Journal of Experimental Social Psychology で報告したものです。この研究では、フローの起こりやすさが、交感神経の活動と逆U字の関係にあることが示されました。低すぎても高すぎても起こらず、中程度のときに最も起こりやすい。一方で副交感神経の活動とは、高いほど起こりやすいという直線的な関係でした。

つまり、フローは体が静まった状態ではありません。アクセルとブレーキの両方が、ほどよく踏まれている状態です。集中が気持ちいいのは、この釣り合いが取れているからであって、体が休んでいるからではありません。

ここで一点、事実と解釈を分けておきます。この研究は実験室で課題を与えて測ったものであり、夜に趣味をしている人を測ったものではありません。ここから言えるのは、フローには交感神経の関与があるという事実までです。夜のフローが必ず寝つきを妨げる、と証明されたわけではありません。

運動と食事は、終わったあとも数時間、体に残る

夜に体が立ち上がったままになる経路は、もう一つあります。運動と消化です。

Stutz らが2019年に Sports Medicine で発表したメタ分析は、11,717件の文献から23件を選んで検討したものです。結論は、夕方の運動が睡眠を悪くするという説を支持しない、というものでした。むしろ深い睡眠が1.3ポイント増えています。ただし例外が一つあり、強度の高い運動が就寝1時間前までかかった場合には、寝つきと総睡眠時間と睡眠効率が損なわれる可能性がある、と報告されています。

食事も同じ向きに働きます。消化のあいだは血流が内臓へ集まり、心拍が上がるので、数値の上では休息ではなく活動として現れます。

夜のオンオフを考えるとき、この2つは活動の中身の話ではありません。終わってからどれだけ時間を置いたか、という順序の話です。

同じことをしていても、うまくなろうとした瞬間に体の反応は変わる

ここが、この記事の中心です。

フローが起きる条件は、いくつか特定されています。目標がはっきりしていること、結果がすぐに返ってくること、課題の難しさと自分の力が釣り合っていること。

並べ直すと分かりますが、これは上達しようとしているときの条件そのものです。うまくなろうと思った瞬間に、目標が生まれ、できたかできなかったかの判定が生まれます。そこから先、脳は自分の演奏や文章に点数をつけ続けることになります。

同じ楽器を同じ時間だけ弾いても、この点数づけがあるかないかで、体の立ち上がり方は変わります。速く叩けるようになろうとして弾けば、一音ごとに採点が入ります。ただ音に浸って弾いているだけなら、採点は起きません。没入している度合いは同じでも、片方には評価が乗っていて、もう片方には乗っていません。

Q:好きなことに集中するのは、リラックスにならないのでしょうか。
A:なります。ただし、上達や完成を目指していない場合に限られます。同じ活動でも、うまくなろうとすると、目標と即時の判定が生まれ、体は集中の側に立ち上がります。夜に落ち着きたいのであれば、活動の種類を変えるのではなく、その活動から目的を外すほうが確実です。

夜に向いているのは、うまくなろうとしなくていい時間である

具体的には、こうなります。楽器なら、その日の課題を決めずに弾きます。文章なら、完成させずに書き流します。読書なら覚えようとせずに読み、走るなら時計を見ません。

判断は、活動の種類ではありません。いま自分が点数をつけているかどうか、その一点だけです。同じ活動が、昼には上達の道具になり、夜には落ち着きの道具になります。オンオフを切り替えているのは、活動ではなく目的のほうです。

もう一つ、同じ方向に効く手段があります。ゆっくりした呼吸です。1分間に6回、つまり0.1ヘルツ前後で呼吸すると、心拍の揺れが最も大きくなることが知られていて、これは圧受容器反射の共鳴周波数と呼ばれています。雑念が消えるという点ではフローと似ていますが、こちらは体を立ち上げません。

こちらも出所を書いておきます。この共鳴周波数の知見は、高血圧の患者を含む循環器領域の研究から得られたもので、夜の落ち着きを目的として測られたものではありません。ここで言えるのは、ゆっくりした呼吸が心拍の揺れを大きくする、という事実までです。

湯船は、活動と睡眠のあいだに置く

この順序について、確かめられている数字が一つあります。

Haghayegh らが2019年に Sleep Medicine Reviews で発表したメタ分析では、5,322件の研究を精査した結果、就寝の1時間から2時間前に40度から42.5度の湯へ10分程度つかると、寝つきまでの時間が平均でおよそ10分短くなり、深い睡眠が増えると報告されています。

この数字が示しているのは、湯船の効き方が時刻に依存する、ということです。就寝の直前ではなく、1時間から2時間前。つまり湯船は、寝る前の最後の行為ではなく、活動と睡眠のあいだに挟む区切りとして働いています。

夜の流れが「運動して、食べて、そのまま寝る」になっているなら、湯船を食事より前に動かすだけで、区切りが一つ増えます。運動で上がったものを一度下ろしてから、食事に入る形になるからです。

この考え方のコストを、正直に書いておく

夜から上達を外すというのは、その分だけ習得が遅くなる、ということです。1日に3時間を練習に充てている人が、その3時間から目的を抜けば、1週間で21時間分の上達が消えます。趣味を伸ばしたい人にとって、これは小さな代償ではありません。

もう一つ、この考え方には構造上のねじれがあります。うまくなろうとしないことを目標にすると、それ自体が目標になってしまう。今日はちゃんと目的を外せただろうか、と採点が始まれば、元の木阿弥です。

そして公平を期すために、逆側も書きます。夜に集中して、それで調子がいい人は、何も変える必要がありません。ここまでの話が意味を持つのは、夜に落ち着きたいのに落ち着けない、という前提があるときだけです。オンオフが切り替わっていないこと自体が困りごとになっていないなら、この記事は読み飛ばして構いません。

判断基準は、いま自分が点数をつけているかどうか

夜のオンオフを見直すとき、活動のリストを作り直す必要はありません。見るのは1つだけです。

いまやっていることに、自分は点数をつけているだろうか。うまくいったかどうかを、途中で数えているだろうか。数えているなら、それは昼の時間の使い方です。数えていないなら、夜の時間の使い方になっています。

なお、寝つけない状態が2週間以上続いているなら、それはこの記事の範囲を超えています。睡眠の困りごとには医療の領域があるので、専門家に相談することを検討してみてください。

今夜、あなたが手に取ろうとしているものに、点数はついていますか。

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