プルデンシャル生命の営業社員と元営業社員が、お客さまから約31億円を受け取っていた問題で、金融庁は保険業法に基づく一部業務停止命令を出す方向で調整しています。業務停止となるのは新規契約と販売で、期間は3カ月以上とする案です。親会社のプルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパンにも、業務改善命令が出る見通しです。2026年10月2日の時点で、金融庁の正式な発表はまだありません。
31億円という額を見ると、処分が軽すぎると感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、保険業法には、この額でも免許取消しにしない理由が2つあります。保険会社への処分の段階から、順に見ていきます。
保険会社への処分は、報告の要求から免許取消しまで6段階ある
保険業法と、金融庁の保険会社向けの総合的な監督指針は、保険会社への処分を軽いものから順に並べています。以下のとおりです。
| 処分 | 条文 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 報告を求める | 第128条 | 業務や財産の状況を確かめる必要があるとき |
| 立入検査 | 第129条 | 営業所に立ち入り、帳簿などを調べる必要があるとき |
| 業務改善命令 | 第132条 | 重大な問題があり、会社の自主的な取り組みでは改善しないとき |
| 業務停止命令(第132条) | 第132条 | 改善に一定の期間がかかり、その間は改善に専念させる必要があるとき |
| 業務停止命令(第133条) | 第133条 | 重大な法令違反や、公益を害する行為があったとき |
| 免許の取消し | 第133条 | 重大な法令違反などが多数あり、業務を続けさせることが不適当なとき |
免許の取消しはいちばん重い処分で、金融庁は、その会社に業務を続けさせること自体が不適当なときに検討します。今回の処分案は、この表の業務停止命令にあたります。
処分の重さは、会社に業務を続けさせてよいかで決まる
免許取消しにならない1つ目の理由は、金融庁が処分の重さを被害額だけで決めないことです。監督指針は、処分を決めるときに見るものを3つ挙げています。
- 行為がどれだけ重大で悪質か(お客さまの被害の大きさ、続いた期間と繰り返した回数、組織ぐるみだったか、隠していたか、など)
- その行為を防げなかった、経営と業務の管理体制に問題がないか
- 金融庁が処分を出す前に、会社が自分からお客さまを守る対応をとっているか
被害額は、1つ目の「どれだけ重大で悪質か」に含まれる項目の1つです。被害額が大きいことだけで、免許の取消しが決まるわけではありません。
プルデンシャル生命は、2026年1月16日に調査結果を公表し、2月1日付で社長を交代させました。2月9日からは新規契約の販売を90日間自粛し、4月22日にはその期間を180日間延ばしています。金融庁がこれらをどう評価したかは公表されていません。ただ、会社が自分から対応しているかどうかは、監督指針が処分の重さを決めるときに見る3つ目の項目にあたります。
免許を取り消すと、問題に関わっていない契約者の保険まで、ほかの会社へ引き継ぐことになる
2つ目の理由は、免許の取消しが、問題に関わっていない契約者の保険まで動かすことです。保険会社は、免許を取り消されると解散します(保険業法第152条)。解散した会社の保険契約は、ほかの保険会社などへ引き継ぐことになります。
免許を取り消すと、何の問題も起こしていない大勢の契約者の保険まで、ほかの会社へ引き継ぐ手続きに乗せることになります。過去に生命保険会社が受けた重い処分も、業務停止でした。2005年の明治安田生命は約2週間、2019年のかんぽ生命は3カ月、保険の募集と契約の締結を止めています。
なお、会社が保険金を払えなくなる「破綻」は、免許の取消しとは別のものです。破綻した場合は、生命保険契約者保護機構が補償しますが、補償されるのは破綻した時点の責任準備金等の90%等で、保険金額が減ることがあります。今回の処分案は業務停止なので、この仕組みが使われる場面ではありません。
お金を受け取ったのは営業社員と元営業社員で、約14.5億円は退職後の受け取りだった
1月に公表された106名が受け取った約30.8億円を、在職中と退職後に分けると、以下のとおりです。
| 受け取った時期 | 金額 |
|---|---|
| 在職中 | 約16.3億円 |
| 退職後 | 約14.5億円 |
| 106名・お客さま498名(合計) | 約30.8億円 |
会社は、この約30.8億円を受け取った行為を「金銭に関わる不適切行為」と呼んでいます。中身は、営業社員や元営業社員が個人としてお客さまに投資や儲け話を持ちかけてお金を受け取った行為と、お客さまからお金を借りた行為です。受け取ったお金の全部や一部を自分のものにした(着服した)ケースも含まれます。会社が「詐取」と呼んでいるのは、これとは別に、元営業社員3名がお客さま8名からだまし取った約6,000万円です。
約30.8億円のうち約14.5億円は、元営業社員が、会社を辞めたあとに個人としてお客さまから受け取ったお金です。辞めたあとの受け取りがどういう経緯だったかまでは、会社の発表に書かれていません。辞めた人の行為は、会社が社員として管理できる範囲の外にあります。それでも会社は「社会的責任を認識し」、退職後の分も対象に含めました。
会社は7月24日に、補償の進み具合を公表しています。7月8日時点で、1月に公表した約30.8億円の内訳は以下のとおりです。
| 区分 | お客さま | 金額 |
|---|---|---|
| 会社が補償の対象にした | 184名 | 約8.4億円 |
| 営業社員から返金された | 138名 | 約7.9億円 |
| 補償の対象と認められなかった | 115名 | 約12.2億円 |
| 審査・対応中 | 61名 | 約2.3億円 |
| 1月公表分(合計) | 498名 | 約30.8億円 |
1月16日以降に新たに申し出があった分もあり、プルデンシャル生命では101名・約6.2億円が補償の対象になっています。会社は、四半期ごとをめどに進み具合を公表するとしています。
業務停止の間も、いま入っている保険は続く
最後に、いま契約している人の保険がどうなるかを見ます。処分案で業務停止となるのは、新規契約と販売です。会社は4月22日の発表で、既存の契約、保障の内容、保険金と給付金の支払いは「これまでどおり変更なく継続」すると書いています。2019年のかんぽ生命の業務停止も、止めたのは保険の募集と契約の締結でした。
処分案のとおりなら、業務停止となるのは新規契約と販売で、いまある契約への保険金の支払いや手続きは続きます。正式な処分の中身は、金融庁の発表を待つ必要があります。契約の扱いで不安があるときは、プルデンシャル生命の窓口か、金融庁の金融サービス利用者相談室に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
