首都圏の中古マンションで、売り出し価格と実際に売れた価格の差が開く「ワニの口」の状態になっている、と報じられています。
しかし、東京23区の中古マンションは1年で18%値上がりしたという発表もあります。値上がりしているのか、売れなくなっているのか、どちらが本当なのでしょうか。
「ワニの口」とは、売り出し価格と成約価格の差が広がっていくこと
「ワニの口」とは、グラフに描いた売り出し価格の線が上がり、成約価格の線が横ばいか下がって、2本の線の間が広がっていく形のことです。開いた形がワニの口に似ているので、こう呼ばれます。
売り出し価格は、売主が「この値段で売りたい」と付けた価格です。成約価格は、買い手がついて実際に売買が決まった価格です。
「マンションが値上がりしている」というニュースの多くは、売り出し価格をもとにしています。東京カンテイが2026年9月24日に発表した資料では、8月の東京23区の中古マンションの売り出し価格(70㎡に換算)は1億2677万円で、前年同月より18.2%高くなりました。この1億2677万円は、売主が付けた希望の価格です。
東京都の中古マンションは、売り出し価格が2割上がったのに、成約価格は前年と同じくらいだった
では、実際に売れた価格はどう変わっているのでしょうか。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の2026年8月の月例速報から、東京都の中古マンションの数字を並べると以下のとおりです。
| 比べる点 | 2026年8月 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 売れた物件の価格(成約価格) | 6826万円 | −0.4% |
| 売り出し中の物件の1㎡あたりの価格 | 173.99万円 | +21.8% |
| 売れた件数(成約件数) | 1,562件 | −18.7% |
| 売り出し中の件数(在庫件数) | 28,082件 | +21.3% |
東京都では、売り出し中の物件の価格が1年で2割上がったのに、売れた価格はほとんど変わらず、売れた件数は2割近く減りました。1㎡あたりで比べると、売り出し中の物件の価格は売れた物件の価格の1.46倍で、1年前の1.19倍から開いています。
首都圏全体(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)でも、2026年8月に売れた件数は前年同月より10.5%少なく、前年同月を下回るのは5か月連続です。首都圏の成約価格も前年同月より2.8%低く、前年同月を下回るのは4か月連続です。
都心3区は8月に売り出し価格と成約価格の差が縮んだが、売れた件数は154件だけだった
千代田区、中央区、港区の都心3区では、8月に売り出し価格と成約価格の差が縮みました。ダイヤモンド不動産研究所が東日本レインズのデータから集計した数字では、8月の差は4802万円で、6月の7212万円、7月の7113万円から2000万円以上小さくなっています。8月の成約価格が前月より8.2%上がり、売り出し価格が前月より6.1%下がったためです。
ただし、8月に都心3区で売れたのは154件で、前年同月より38.9%少なくなりました。売り出し中の物件は5,197件で、58.1%増えています。売れた件数が少ない月は、高い物件が数件売れるだけで平均の成約価格が大きく変わるので、1か月だけ差が縮んだことを、売れ行きが戻った合図と読むのは早いと思います。
買う人は金利が上がって借りられる額が減り、売る人は物件を高く売るつもりで買った人が多い
差が開いた理由は、買う人と売る人の両方にあると思います。
買う人に関わる住宅ローンの金利は、上がりはじめています。日本銀行は2026年6月に政策金利を1.0%に引き上げ、9月18日の金融政策決定会合でさらに1.25%に引き上げました。住宅ローンの変動金利も、これに合わせて上がっていく見込みです。
年収700万円の人が、年収の25%を返済に充て、35年の元利均等返済でお金を借りるとします。その場合、金利1.0%なら約5166万円、金利1.5%なら約4763万円まで借りられます。金利が0.5%上がると、同じ年収で借りられる額は約400万円減ります。
売る人の中には、買った時から売るつもりだった人が多くいます。LIFULL HOME’Sが2026年9月2日に発表した調査では、過去3年以内に東京圏のマンションを売った人のうち、自宅用に買った人の51.9%が、買った時点で「いずれ売ろう」と考えていました。売った理由でいちばん多かったのは「不動産価格上昇で高く売れそう」で、33.5%でした。高く売れる前提で買った人は、相場に合わせて値段を下げることに踏み切りにくいはずです。
この先「ワニの口」が小さくなるかは、値下げした物件の割合と在庫の数で確かめる
「ワニの口」が小さくなるかどうかは、売り出し価格が下がって成約価格に近づくかどうかで決まります。確かめる数字は2つあります。
確かめる数字の1つ目は、東京カンテイが毎月発表する「価格改定シェア」です。売り出しが続いている物件のうち、直近3か月の間に一度でも値下げした物件の割合を示します。東京23区の推移は以下のとおりです。
| 時期 | 値下げした物件の割合(価格改定シェア) | 値下げの幅(値下げ率) |
|---|---|---|
| 2025年8月 | 36.8% | −5.5% |
| 2026年2月 | 40.2% | −5.6% |
| 2026年5月 | 44.2% | −5.9% |
| 2026年8月 | 48.9% | −6.2% |
東京23区では、売り出し中の物件のほぼ半分で、直近3か月の間に売主が値下げしています。値下げした物件の割合は、この1年で12ポイント増えました。
確かめる数字の2つ目は、東日本レインズが毎月発表する月例速報の在庫件数です。在庫が増えて成約件数が減る月が続くあいだは、売主が値下げしないと売れない状態が続くはずです。
買う人は、気になる物件の売り出し価格を同じ地域の成約価格と比べると、値下げの余地があるかを判断しやすくなります。売る人は、売り出し価格を決めるときに同じ地域の成約価格を基準にすると、売れ残る期間を短くできるはずです。マンションを買うか売るかを決める前に、東日本レインズの月例速報で、自分が住むエリアの成約価格と在庫件数を確かめてみてはいかがでしょうか。







