わかっていると思い込むと、なぜ人は行動しないのか?

人は、仕事でも生活でも、「それはもうわかっている」と思い込んで、そのことに手をつけずにいることがあります。

わかっていると思い込むと、なぜ人は行動しないのでしょうか。

目次

「わかっている」という思い込みには、自分の言葉で説明するまで気づけない

人は、物の仕組みを実際に理解している以上に深く理解していると感じています。わかっているという思い込みには、自分の言葉で説明しようとしたときに、初めて気づきます。

イェール大学のRozenblitとKeilは、2002年に学術誌Cognitive Science(26巻5号)で、次の実験を報告しました。参加者はまず、ファスナーや水洗トイレなどの仕組みを、自分がどれだけわかっているかを7段階で評価しました。次に、そのうちの4つについて、どの部品がどう動くかを順に書き出しました。書き出したあと、参加者は自分の評価を下げました。多くの参加者が、思っていたより知らなかったことに驚いたと答えています。

自分の理解を実際より深く見積もるこの状態は、心理学で「説明深度の錯覚」と呼ばれています。

わかっていると思い込むと、自分の理解を行動して確かめる理由がなくなる

行動は、自分の理解が合っているかを確かめる手段の一つです。わかっていると思い込んでいる人には、その確かめが要らないように見えます。だから、わかっていると思い込むと、人は行動しません。

上の実験で参加者が自分の理解の評価を下げたのは、説明を書くという行動をしたあとでした。

行動しないと、間違った認識のまま物事が進行する

理解が間違っていたと分かるのは、たとえば、やってみてうまくいかなかったときです。行動しない限り、間違った認識は直されないまま進行します。

行動しなければ、うまくいかない場面に出会いません。そのため本人は、自分の認識を正しいと思い続け、次の判断もその認識をもとに行います。

AIエージェントの登場で、間違った認識のまま物事がさらに進行する

AIエージェントは、調べる、書く、手順をこなすといった作業を、人に代わって実行します。AIエージェントに作業を任せると、本人が自分の理解を行動して確かめる場面はさらに減り、間違った認識のまま物事がさらに進行します。

人が生成AIに頼ったときの影響は、いくつかの研究で調べられています。フィンランドのアールト大学のFernandesらは、2025年に学術誌Computers in Human Behaviorで、米国のロースクール入学試験(LSAT)の論理問題を解かせた実験を報告しました。2つ目の実験では、452人をAIを使う組と使わない組に分けています。AIを使った組は、使わない組より正解の数が多かった一方で、正解の数を実際より4問ほど多く見積もりました。多くの人は、AIに1回だけ質問して、答えをそのまま受け取っていました。

Microsoft ResearchのLeeらは、2025年に、知識労働者319人が生成AIを使った936件の事例を調べ、AIを信頼している人ほど、AIの答えを批判的に検討することが少ないと報告しました。

ここで挙げた2つの研究が調べたのは、人が質問してAIが答える使い方です。AIエージェントは、答えるだけでなく作業の実行までを引き受けます。

あなたが「わかっている」と思い込んで、まだ取りかかっていないことは何でしょうか。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次