名作を残した作家たちは、それぞれ違う入口から物語を言語化していました。答えの出ない問いから入った作家、言語を先に作った作家、筋を決めずに書きながら物語を見つけた作家がいます。
作家たちは、どんな物語なのか、何を表現したいのかを、どのようにして言葉にしていったのでしょうか。
ドストエフスキーと手塚治虫は、答えの出ない問いを持ち続けて物語を作った
ドストエフスキーと手塚治虫は、物語を作る前から、答えの出ない問いを持っていました。 ドストエフスキーは1870年、詩人のアポロン・マイコフに宛てた手紙で、構想中の長編を貫く問題は、生涯苦しめられてきた神の存在という問題だ、と書いています(Denis Dirscherl『Dostoevsky and the Catholic Church』1986年に引用)。
手塚治虫は、人間の生と死という答えの出ない問いを持ち続けて、長編『火の鳥』を描き続けました。火の鳥は、その血を飲んだ者は永遠の命を得るという伝説の鳥で、作品はそれを追い求める人々を描いています(手塚治虫「火の鳥」展の案内)。過去と未来を往復しながら最後に現在へたどり着く構想でしたが、手塚治虫が亡くなったため未完となりました(兵庫県・宝塚市立手塚治虫記念館の企画展の案内)。
トールキンは、言語と世界を先に作り、物語をあとから作った
問いではなく、言語を作るところから始めた作家もいます。トールキンは、まず言語を作り、その言語が使われる世界を作り、そのあとで物語を作りました。 1955年、詩人のW.H.オーデンに宛てた手紙で、物語は自分の言語の好みが働く背景や世界を与える試みであり、物語ができたのは比較的あとだった、と書いています(トールキン財団が公開している手紙)。
トールキンは、エッセイ『妖精物語について』で、言葉で第二の世界を作ることを「準創造」と呼びました。神が創った世界に対して、人が言葉で作る世界、という意味です(トールキン財団の解説)。
村上春樹とスティーヴン・キングは、筋を決めずに書き始め、書きながら物語を見つけた
筋を決めずに書き始めた作家もいます。村上春樹とスティーヴン・キングは、書く手を動かしながら物語を見つけていきました。 村上春樹は、川上未映子さんとの対談『みみずくは黄昏に飛びたつ』で、計画を立てずに小説を書き上げる方法を語っています。毎日10枚を書き、細かい描写は書き飛ばし、あとで10回ほど書き直します。理屈やテーマに頼ると底の浅いものになる、とも語っています(新潮社の書籍ページ)。
スティーヴン・キングは『書くことについて』で、物語を地面に埋まった化石にたとえ、書き手の仕事はそれを丁寧に掘り出すことだと書いています。キングは「もしも〜だったら」という状況から書き始め、結末を知らないまま、登場人物がどう動くかを追います。
作家ごとの入口と、物語ができるまでの流れ
5人の作家の入口と、物語ができるまでの流れは、以下のとおりです。
| 作家 | 入口 | 物語ができるまで |
|---|---|---|
| ドストエフスキー | 神は存在するのかという問い | 問いを持ち続けたまま長編を構想した |
| 手塚治虫 | 人間の生と死という問い | 『火の鳥』を亡くなるまで描き続けた |
| トールキン | 自分で作った言語 | 言語が使われる世界を作り、物語をあとから作った |
| 村上春樹 | 何も決めない | 毎日書き、10回ほど書き直して形にした |
| スティーヴン・キング | 「もしも」の状況 | 結末を知らないまま、登場人物の動きを追って書いた |
作家たちが最初に手がかりにしたものは、答えの出ない問い、自分で作った言語、「もしも」の状況に分かれ、何も持たずに書き始めた作家もいます。
よくある疑問
Q:名作を残した作家は、テーマを決めてから書いていたのですか。
A:作家によって違います。ドストエフスキーは書く前から問いを持っていました。村上春樹は、理屈やテーマに頼ると底の浅いものになると語り、決めずに書き始めています。
Q:答えの出ない問いを持っていない人は、どの作家のやり方が近いですか。
A:トールキンは、問いではなく自分で作った言語から物語を作りました。キングは「もしも〜だったら」という状況から書き始めています。
持っているのが問いか、言語や世界か、「もしも」の状況か、まだ何も無いかで、参考になる作家が変わる
自分が持っているのが、答えの出ない問いなのか、作りたい言語や世界なのか、「もしも」の状況なのか、まだ何も無いのかで、参考になる作家のやり方が変わります。 問いがある人はドストエフスキーと手塚治虫、作りたい言語や世界がある人はトールキン、「もしも」の状況がある人はキング、何も決まっていない人は村上春樹のやり方が近いと思います。まずは、自分がどの入口に近いかを書き出してみてはいかがでしょうか。







