Anthropicの1080億ドルの転換社債は、2000年のドットコムバブルと同じ会計トリックか?ドットコムバブルとAIバブルを決算書で比較

2026年10月26日、Anthropicは米国証券取引委員会(SEC)に、新規株式公開(IPO)のための登録届出書(S-1)を提出しました。その直後から、Xで「2000年のドットコムバブルでIPO前の企業がやったのと同じ会計トリックだ」「1080億ドルの経費を転換社債で隠した」という論調が広がっています。

こうした投稿は、当時の企業のやり方として、仕入れ先などへの株式での支払い、広告と株式の交換、ベンダー融資を挙げています。それでは、Anthropicの1080億ドルの転換社債は、2000年のドットコムバブルと同じ会計トリックなのでしょうか?

目次

1080億ドルは経費ではなく、Amazonが持つ転換社債の評価額である

申請書で1080億ドルにあたるのは、貸借対照表の負債の欄にある、2026年6月30日時点の転換社債1085億6,600万ドルです。この転換社債はAmazonが出資のために買ったもので、元本は62億ドルです。

転換社債は、お金を貸した人が、あとで株に換えられる借金です。Amazonは2023年9月と2024年11月の契約で、この転換社債を買いました。IPOの直前に、Anthropicの議決権のない株(Class N普通株)に換わります。

Anthropicは、この転換社債を、株に換えたときの価値で測って貸借対照表に載せています。そのため、元本62億ドルの借金が1085億ドルとして載っています。Anthropicの企業価値が上がるほど、この金額も増え、2024年12月31日に141億ドル、2025年12月31日に417億ドル、2026年6月30日に1085億ドルでした。

転換社債の評価が上がった分は、724億ドルの損失として決算に載っている

Anthropicは、転換社債の評価額が増えた分を、損益計算書に損失として載せています。2026年1月から6月の純損失807億ドルのうち、724億ドルがこの評価の増加分です。この行には、転換社債のほかに、デリバティブ負債とSAFE(将来に株を受け取る権利)の評価の変動も含まれます。申請書は、増えた主な理由を、企業価値の上昇で転換社債の評価額が増えたことだと書いています。

Anthropicの2026年1月から6月の損益は、以下のとおりです。計算資源の費用も人件費も、評価の増加分とは別の行の営業費用に載っています。

項目2026年1月〜6月
売上162億8,600万ドル
営業費用169億7,900万ドル(うち計算資源とインフラの費用89億4,500万ドル)
営業損失6億9,300万ドル
転換社債などの評価の変動による損失723億8,800万ドル
純損失807億4,800万ドル

当時のやり方と申請書を照らし合わせると、株式での支払いと、広告と株式の交換は見当たらない

投稿が挙げた当時のやり方と、申請書で確かめられることを並べたのが、以下の表です。

比べる点2000年前後の企業のやり方Anthropicの申請書で確かめられること
仕入れ先などへの支払い現金のかわりに株で払った(投稿の主張)現金を使わなかった取引の注記にあるのは、転換社債から優先株への転換、会社の買収、寄付の上乗せ制度、リース。仕入れ先や広告代理店への支払いは無い
広告の取引広告と株式を交換した(投稿の主張)現金を使わなかった取引の注記に、広告と株式を交換した取引は無い
ベンダー融資Lucentは顧客の通信会社に融資して自社の機器を買わせ、顧客の破綻で融資の多くを償却した(Lucentの年次報告書、2003年)出資者のAmazon、Google、Microsoftが、計算資源の売り手でもある

投稿によれば、当時の企業は、現金を節約するために株式で支払いました。Anthropicの転換社債は、Amazonが出資のために買ったもので、仕入れ先への支払いに使ったものではありません。転換社債の評価の増加分は、費用を減らすのではなく、損失を大きく見せる向きに働いています。

当時のベンダー融資と形が近いのは、Anthropicの出資者が計算資源の売り手でもある点である

Lucentは、自社の機器の買い手にお金を貸し、そのお金で機器を買ってもらいました。Anthropicでは、計算資源を売るAmazonが転換社債で出資し、AnthropicはAmazonのクラウドで計算資源を使っています。出資した会社が、出資先から計算資源の代金を受け取る立場にもある点で、当時のベンダー融資に近い形です。Anthropic自身も、申請書のリスクの欄に、Amazon、Google、Microsoftは出資者であり、顧客であり、販売の窓口であり、競合でもあるため、利益相反が起きうると書いています。

当時と違う点の一つは、2026年1月から6月に、Anthropicの本業で入ってきた現金が出ていった現金を上回ったことです。その差は39億ドルで、2025年の1年間は、出ていった現金のほうが26億ドル多い状態でした。当時のLucentは、売上や信用が小さい新しい通信会社を顧客にするためにも融資を使いました(Lazonick・March、2011年)。

よくある疑問

Q:724億ドルの損失は、Anthropicが誰かに払うお金ですか?

A:現金は出ていきません。転換社債はIPOの直前に株に換わり、負債の欄から消えます。株に換わったあとは、Amazonが受け取る株の分だけ、ほかの株主が持つ株の割合が下がります。

Anthropicの転換社債は当時と同じ会計トリックではないが、出資と取引の結び付きは当時のベンダー融資に近い

Anthropicの1080億ドルは、経費を隠した金額ではなく、Amazonが持つ転換社債の評価額で、評価の増加分は損失として載っています。一方で、出資者が計算資源の売り手でもある形は、当時のベンダー融資と近いものです。AI企業の申請書をドットコムバブルと比べるときは、出資者と取引先が同じ会社かどうかも確かめてみてはいかがでしょうか。

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