運動の前日に性行為で射精しても、筋力や持久力の測定値は変わらないという研究があります。
しかし、射精した翌日はだるく、テンションが上がりきらない、長く動き続けられないと感じる人がいます。このだるさは、スポーツのパフォーマンスに影響するのでしょうか?
射精から10時間空けば、筋力と持久力の測定値は落ちない
2022年に発表された研究のまとめ(Zavorsky と Brooks、Scientific Reports)は、9件の研究、133人分のデータを統合しました。運動の30分前から24時間前までに性行為をしても、有酸素の持久力、筋肉の持久力、筋力のどれにも差は出ていません。
射精から運動までの時間で、結果が変わるかを調べた研究もあります。一流の男性アスリート15人に、性行為の2時間後と10時間後に自転車をこぐテストを受けてもらいました(Sztajzel ら、The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness、2000年)。2時間後は、運動のあとの回復中の心拍が高いままでしたが、10時間後にはその差が消えています。出せる最大の負荷と、計算問題で測った集中力は、どちらの時点でも落ちていません。
射精から10時間空けば、心拍の戻りも含めて、体の測定値に差は出ません。前夜の射精で、翌日の筋力や持久力の測定値が落ちることはありません。
射精した翌日に落ちるのは、テンションと動き続ける力である
上の研究が測ったのは、体力テストの数値です。どれだけ気持ちが乗るか、どれだけ長く自分から動き続けられるかは測っていません。射精した翌日にだるいと感じる人がいることと、測定値が変わらないことは、食い違っていません。
射精した翌日のだるさは、脳の働きが落ちた状態です。テンションも、動き続ける力も、脳が決めています。
私はドラムを叩いていますが、射精した翌日は、仕事がある日ならスイッチは入っても、持久力は明らかに違います。
射精のあとに意欲が下がるのは、プロラクチンが増え、ドーパミンの働きが弱まるから
射精すると、血液中のプロラクチンというホルモンが増え、1時間以上高いまま続きます(Krüger ら、Neuroscience and Biobehavioral Reviews、2002年)。ドーパミンは「やりたい」という意欲に関わる物質で、プロラクチンが出るのを抑える働きを持ちます。2つは逆向きに動きます。
このプロラクチンが意欲を下げていることは、男性を対象にした実験で確かめられています。健康な男性10人に、ドーパミンの働きを強めてプロラクチンを下げる薬を飲んでもらうと、性的な意欲が高まり、射精のあとの感じ方も良くなりました(Krüger ら、Journal of Endocrinology、2003年)。射精のあとに休む時間がいらない1人の男性を調べると、3回続けてオーガズムに達しても、プロラクチンが増えなかったという報告もあります(Haake ら、International Journal of Impotence Research、2002年)。
射精のあとに意欲が下がるのは、プロラクチンが増え、ドーパミンの働きが弱まるからです。
翌日まで残るのは、脳が男性ホルモンを受け取る感度が落ちるから
プロラクチンが高いと報告されているのは、射精後の1時間あまりです。翌日まで残る理由は、脳が男性ホルモンを受け取る感度のほうにあります。
ラットに射精を何度も繰り返させ、性行動をしなくなるまで続けた研究があります(Romano-Torres ら、Neuroendocrinology、2007年)。48時間後、性行動を担う脳の一部で、男性ホルモンを受け取る受容体が減っていて、性行動もほぼ止まっていました。72時間後には受容体が元の数に戻り、性行動も戻りました。その間、血液中のテストステロンの量は変わっていません。
血液中の男性ホルモンの量が同じでも、脳がそれを受け取る感度が落ちると、意欲は日をまたいで下がります。
持久力が落ちるのは、同じ練習でも労力を大きく感じるから
運動生理学には、長く運動を続けられるかは、筋肉が限界に達するより前に、脳が「これ以上はきつい」と判断した時点で決まるという説があります。その判断に関わるのがドーパミンです。ドーパミンの働きを弱めた動物は、労力の大きい選択を避け、楽な選択に移りました(Salamone と Correa、Neuron、2012年)。
ドーパミンの働きが弱まると、同じ練習でも労力を大きく感じ、筋肉より先に続ける気力が尽きます。
仕事のある日にスイッチが入るのは、仕事という外からの刺激が動き出すきっかけになるからです。動き出したあとに続けられるかは、ドーパミンの働きにかかっています。
オナ禁が広まったのは、射精後に調子が落ちると体感する人がいるから
オナ禁を続けると気力が出る、集中できると感じる人がいて、海外では「NoFap」というコミュニティもあります。オナ禁で調子が上がると感じる人は、射精したあとに調子が落ちると感じている人でもあります。
ただ、先の2022年の研究のまとめでは、オナ禁と性行為のどちらかが体力テストで有利という結果は出ていません。「オナ禁7日目にテストステロンが1.5倍近くに上がる」という研究(2003年、中国の研究)がよく引かれますが、PubMed では撤回された論文として扱われています。
オナ禁で感じる変化は、テンションと意欲の変化です。筋力や持久力の測定値は、オナ禁をしても上がりません。
大事な練習や試合の前は、射精の間隔を空ける
原因ごとの対策は、次の表のとおりです。
| 原因 | 何が起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| 射精から2時間以内 | 運動のあとの回復中の心拍が高いままになる | 運動の直前2時間は射精しない |
| プロラクチンが増え、ドーパミンの働きが弱まる | テンションが上がりにくい | 大事な練習や試合の前夜は射精しない |
| 脳が男性ホルモンを受け取る感度が落ちる | 意欲の低下が翌日以降も続く | 大事な日の前は間隔を空け、短い間隔で回数を重ねない |
| 同じ練習でも労力を大きく感じる | 持久力が落ちる | 射精した翌日は、通し練習や追い込みを避け、短く区切った基礎練習にする |
大事な日から逆算して、射精する日を決めます。射精した翌日は、長さより回数で練習を組みます。
睡眠時間が短かった日は、射精とは別の理由で、反応やリズムの正確さが落ちます。射精した夜に寝る時刻が遅くなったなら、だるさの原因は睡眠の側にもあります。
よくある疑問
Q:射精した翌日に試合があると、成績は落ちますか。
A:筋力、持久力、集中力の測定値は、射精から10時間空けば落ちません。落ちるのは、気持ちの乗り方と、長い時間動き続ける力です。試合の前夜は避けてください。
Q:ブラジル代表は、試合の前日の射精を禁止しているのですか。
A:時期によって違います。2002年の大会では性行為を禁じたと報じられ、同じ監督が率いた2014年の大会では、普通の性行為なら構わないと話しています。
Q:賢者タイムは、翌日まで続きますか。
A:射精のあとにプロラクチンが高いと報告されているのは、1時間あまりです。翌日まで残るのは、脳が男性ホルモンを受け取る感度の低下で、ラットでは戻るまでに3日かかりました。人で何日かかるかは、まだ測られていません。







