親との縁を切る「家族じまい」の相談が増えています。読売テレビの報道によると、家族じまいに関する相談は、2022年1月から3月の55件が、2026年1月から3月には320件になりました。
親の介護や看取り、葬儀までを子の代わりに引き受ける業者も、いくつも見つかります。しかし、なぜこれほど多くの代行業者が出てきているのでしょうか?
家族じまいの代行業者の多くは、身寄りのない高齢者を支えてきた事業者である
家族じまいの代行は、新しく生まれた商売ではありません。身寄りのない高齢者のために作られたサービスを、親から離れたい子どもが買うようになったものです。
報道に出てくる一般社団法人LMNは、もともと家族のいない高齢者を支えるために始まり、3年ほど前から、自分の親やきょうだいの世話を頼みたいという依頼に変わってきたと現代ビジネスは伝えています。家族代行をうたうほかの業者にも、同じ本業のところがあります。あかり保証は自社を「高齢者等終身サポート事業者」と名乗り、「毒親問題で悩まれている方からのご相談が急増」していると書いています。NPO法人しゃらくや一般社団法人包括安心サポート研究所も、身元保証と死後の手続きのサービスを「家族代行サービス」と呼んでいます。
国は2024年6月に高齢者等終身サポート事業者ガイドラインを作り、この事業のサービスを3つに分けました。
| ガイドラインの区分 | 中身 |
|---|---|
| 身元保証等サービス | 入院・施設入所の手続きの代行、緊急連絡先の引き受け、亡くなったときの身柄の引き取り |
| 日常生活支援サービス | 通院の付き添い、買い物の代行、財産管理の手続き |
| 死後事務サービス | 葬儀・火葬・納骨の手続き、行政への届出、残った物の処理 |
LMNが家族の代わりに請け負っているのも、介護、看取り、お葬式、施設への入所の手続き、緊急時の対応です。身寄りのない高齢者に「家族の代わり」を売ってきた事業者にとって、家族はいるけれど関われない、関わりたくないという依頼は、同じ仕事の延長です。
身元保証の事業には、取り締まる法律も監督官庁もない
身元保証や死後の手続きを請け負う事業には、それだけを取り締まる法律がないので、事業の中身を変えずに家族じまいの依頼を受けられます。
総務省が2023年8月に出した調査は、この事業のサービスを直接規律・監督する法令や制度がなく、監督する官庁も事業者の団体もないと書いています。同じ調査は、この事業が近年出てきたもので、需要は今後も増えると見込んでいます。調査で把握した事業者は204で、利用にかかる費用は少なくとも100万円以上と推計しています。
報道に出てくる料金は、LMNが初期の登録料55万円と、4時間程度までで1回1万1,000円の生活のサポートです。あかり保証は入会金88万円で、ほかの事業者には入会金が150万円を超えるところも多いと書いています。
名乗るための資格も届出もいらないので、身元保証の事業者が「家族代行」「家族じまい」という言葉を掲げれば、その日から子どもの依頼の受け皿になります。家族じまいの代行業者が次々に見つかるのは、もともとあった事業者が、子どもからの依頼に向けてこの言葉を掲げ始めたからだと思います。
親子の縁は法律で切れないので、親に何かあったときの窓口が子に残る
法律に親子の縁を切る手続きがないので、子が手放せるのは関係そのものではなく、親に何かあったときの窓口だけです。代行業者が売っているのは、その窓口です。
夫婦なら離婚という手続きがあります。親子には、それにあたるものがありません。弁護士ドットコムニュースの解説によると、成人した子が自分の意思だけで親子関係を消す方法は、いまの民法にはありません。「戸籍を抜く」と言われる分籍も、戸籍が別になるだけで、法律上の親子関係は残ります。同じ解説は、次の2つも残ると書いています。
- 扶養義務:民法877条は、直系の血族どうしに互いを扶養する義務を置いています。成人した子が親を扶養する義務は、自分の生活に余裕がある範囲で足りると解説は書いています
- 相続:子が親を相続する権利は、分籍しても失われません。相続放棄は、相続が始まったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所で行う手続きです(民法915条)
連絡を断つことはできます。読売テレビの報道に出てくる60代の男性は、引っ越し先を教えず連絡を絶って、母親と縁を切りました。それでも、親が入院や施設への入所をするときには、身元保証人が求められることがあります。厚生労働省が2018年4月に出した通知は、身元保証人がいないことだけを理由に入院を断る事例が見られるとして、それは医師法に触れると示しました。入院や入所の手続き、緊急の連絡、亡くなったあとの身柄の引き取りは、ガイドラインが身元保証の事業者のサービスとして並べているものそのものです。
行政からの連絡には、家族が関われない場合の扱いがあります。厚生労働省は2021年2月の事務連絡で、親が生活保護を申請したときに福祉事務所が子に送る「扶養照会」について、10年程度音信不通であるなど交流が断絶している場合や、虐待の経緯がある場合などは、照会を行わない扱いにできると示しました。ただ、こうした通知は行政や病院の扱いを決めたもので、親子の関係も、扶養義務も、相続も動かしません。
依頼する子どもの世代が、20代から30代に下りてきた
報道された家族関係の相談の4割は、いまは20代から30代からです。
読売テレビの報道によると、以前の相談は、親の過干渉や厳しいしつけ、男尊女卑の価値観の押しつけに悩む60代から70代の子が中心でした。いまは、ネグレクトやモラハラ、DVに苦しんだ20代から30代からの相談が急に増え、全体の4割を占めています。
LMNの遠藤英樹代表理事は、高い費用を払ってでも頼む理由として、毎日のように続く連絡や心配事から解放されたいという思い、無視し続けると何をされるか分からないという恐怖、関係が壊れていても捨てきれない親への思いを挙げています。遠藤代表理事は、いまの20代から30代を「“初老”の親を持つ若い世代」と呼んでいます。身寄りのない高齢者のために作られた窓口が、その世代からも求められています。
代行業者に窓口を任せたあとも、親子の関係は法律の上で続きます。そのとき、家族じまいとは何を終わらせることなのでしょうか。







