半導体が戦略物資と呼ばれるのは、AIや通信、自動運転、軍事技術に欠かせない部品でありながら、製造が特定の国と企業に集まっているからです。供給が止まったり輸出が規制されたりすると、その国の経済と安全保障にすぐ影響が出ます。
しかし、半導体は電子部品の一つであり、ニュースになるほどの話なのかと感じる人もいるでしょう。
この記事では、各国の政策、戦略物資の歴史、台湾・日本・米中の役割、ウクライナ情勢の順に、その理由を整理します。
半導体は国の経済を支える部品である
AI、5G通信、自動運転、クラウドコンピューティングは、高性能な半導体がなければ成り立ちません。そのため、国の経済力は半導体の技術力と供給力に左右されます。
各国はこの点を踏まえ、国をあげて投資を増やしています。
- 米国:2022年8月に「CHIPS and Science Act」が成立しました。5年間で総額527億ドルを充て、うち390億ドルを国内での半導体製造への支援に使います。
- 欧州連合(EU):2023年9月に「European Chips Act」が施行されました。2030年までに公的資金と民間投資をあわせて430億ユーロ超を見込み、域内の生産を世界の2割に倍増させる目標です。
各国が資金を出す目的は、半導体の供給を自国の近くで確保することです。
戦略物資の中心は石油、コンピューター、半導体の順に替わってきた
戦略物資とは、国の経済と軍事を維持するために確保が欠かせない物資のことです。その中身は時代ごとに変わってきました。
- 20世紀前半の石油:第二次世界大戦では、石油の確保が戦争を続けられるかどうかを左右しました。
- 1960年代以降のコンピューター:情報化が進むなかで、IBM、インテル、マイクロソフトなど米国の企業が技術の中心になりました。
- 21世紀の半導体:AIやIoTがあらゆる産業に広がり、半導体がその土台になりました。
石油やコンピューターのときと同じく、半導体も、確保できる国とできない国で経済と軍事の力に差が出る物資です。
半導体の供給は台湾、日本、米中の動きに左右される
最先端の製造は台湾が、素材と装置は日本が担い、規制と自給化をめぐって米国と中国が対立しています。三つの動きを順に見ます。
台湾:最先端の製造がTSMCに集まっている
台湾積体電路製造(TSMC)は、世界最大の半導体受託生産(ファウンドリ)企業です。2025年4〜6月期の受託生産の売上シェアは約70%と報じられました。
AppleのiPhoneやNVIDIAのAIチップなど、世界の主要な製品に使われる半導体の多くをTSMCが製造しています。台湾の供給に世界が頼っているため、台湾情勢は米中対立の焦点になっています。
日本:素材と装置で欠かせない
日本は、半導体デバイスそのものでは存在感が下がりましたが、素材と製造装置では今も欠かせない位置にあります。
- シリコンウエハ:信越化学工業が世界シェア約3割で首位です。SUMCOとあわせると約6割を占めます。
- フォトレジスト:回路を焼き付けるための感光材で、最先端のArF液浸用では日本企業4社が2024年の推計で世界シェアの約9割を占めます。
- 半導体製造装置:東京エレクトロンは日本最大の装置メーカーで、成膜や洗浄、塗布・現像の装置で世界の上位に入ります。
最先端の半導体は、これらの素材と装置を使って作られます。
米中:輸出規制と自給化が対立点になっている
米国は輸出を規制し、中国は国内で作る比率を上げようとしています。
- 米国:2022年10月7日、商務省が先端半導体と、その製造装置の中国向け輸出を制限する規則を発表しました。CHIPS法による国内生産の支援とあわせた政策です。
- 中国:2015年に「中国製造2025」を発表し、半導体の国内供給の比率を2020年に40%、2025年に70%とする目標を掲げました。2020年の実績は、調査会社IC Insightsの推計で約16%にとどまりました。
ウクライナ情勢は原料ガスの供給を通じて半導体に影響した
半導体の製造には、ウクライナ産のネオンや、ロシアが産出するパラジウムが使われます。戦争は、領土の問題にとどまらず、この原料の供給にも影響しました。
ネオンは、回路を焼き付ける深紫外線(DUV)露光で使うレーザーのガスに欠かせません。ロイターの試算では、ウクライナは2022年時点で、半導体向けネオンの世界供給の45〜54%を占めていました。米国際貿易委員会(USITC)によれば、2014年には約7割を占めていました。
パラジウムについては、ロシアが世界の供給の約4割を占めます。半導体の製造では、チップと基板をつなぐ金属の接続部分に使われます。
ネオンの価格は、2014年のクリミア併合の前後で600%以上上がりました。2022年の侵攻でも、ウクライナのネオン生産会社が操業を止めたと報じられ、半導体メーカーに供給の不安が広がりました。原料の産地で起きた紛争が、製造コストと製品の供給に直接かかわる例です。
半導体への投資を考えるときは政策と企業の動きをあわせて確かめる
各国が工場の建設に補助金を出すと、その国で大きな設備投資が生まれます。インテルやTSMCが米国で進める新工場がその例です。
国の政策、企業の投資、地政学上の緊張をあわせて確かめると、資金がどの国のどの企業に向かっているかが分かります。この記事は、個別の銘柄の売買を勧めるものではありません。
半導体のニュースを読むときに確かめる3点
- 各国が決めた予算や補助金の額。
- 工場を建てる企業と、建てる国。
- ネオンのような原料の産地と、素材・装置の供給元。
ニュースを読むときは、この3点を確かめてみてはいかがでしょうか。







