AIに渡す指示書に、1行足しました。読み返しても、私にはおかしいところが見つかりません。それなのに、返ってくるものは思っていたのと違います。私はそこで、書き方が足りなかったのだと考えて、もう1行足しました。
短く書く。分けて渡す。例を付ける。AIへの指示書の直し方として世の中に出ている答えは、このあたりで出そろっています。どれも効きますが、全部やったあとにも同じ状態が残ることがあります。
この記事に書くのは、その残った状態です。書いた本人には、自分の1行が正しい意味でしか読めないので、直すかどうかを自分の読み返しでは決められません。扱うのは、読まれ方を外から測る手順と、直す案を3つの向きに分ける数え方です。
自分が書いた1行は、自分には正しい意味でしか読めない
指示書の章に「常に効く」というラベルが入っていました。効くのは規定のほうで、その1行には、読む側が何をするのかが書いてありません。それでも、書いた側は指摘されるまで違和感を持ちませんでした。
直して「いつも当てる」になりました。私はそこで「いつも当てるって言葉も主語がないじゃん? 何を? ってなるでしょ」と聞きました。主語を直したつもりで目的語のほうが抜けていたので、同じ外し方が2回続いたことになります。
読み返しても止まらないのは、注意が足りないからではありません。書いた側は、何をするつもりで書いたかを覚えています。だから抜けている部分を頭が埋めて、書いたときのままの意味で読みます。
話の流れを知らない相手に1行だけ渡すと、意図と違う読み方がその場で出る
私はここで、話し合っても決まらないと思いました。そこで、その行だけを取り出して、前後を何も知らない新しいチャットのAIに渡し、どう読んだかを言ってもらいました。
「案件を順に通す」は、「たまった案件を順番に片づけていく」と読まれました。書いた側の意図は「1件の案件を、工程に順に通す」で、単数と複数が逆になっています。
「常に効く」は「その種類のやり方は、状況を選ばず通用する」と読まれ、別のことを言う文になっていました。「次にどこを触ればいいか」は「分からない」と返ってきて、「使う人が、次に何を変えればいいか」だけが意図どおりに読まれています。
通った行と通らなかった行の差は1つで、主語と目的語が両方入っている行だけが、そのまま通っていました。
もう1つ分かったことがあります。読み違えた側は、自分が推測で埋めたことに気づいておらず、迷った様子もなくそのまま読んでいます。ですから「分かりましたか」と聞いても、この差は出てきません。聞くのは、どう読んだかです。
足した指示は禁止の形になり、禁止は書き終わったあとにしか働かない
私の指示書には、日付つきで記録された失敗が67件ありました。それを禁じる文は146本あります。数のうえでは1件の失敗に2本以上の禁止が当たっている計算ですが、それでも同じ失敗は止まりませんでした。
止まらない理由は、禁止が働く時点にあります。「回りくどく書かない」は、回りくどく書き終わったあとでなければ判定できません。書いている最中の書き手は言いたいことを持っているので、足りない語を頭が埋めて読み、書いた本人には回りくどく見えません。
効かないので、また足します。足したものは、また禁止の形になります。146本という数字は、この繰り返しの回数として読めます。
話し合って直すことが、指示書を増やす原因だった
2026年8月18日から24日までの7日間で、私の指示書は46回改訂されました。ほとんどが手順を足す直しで、返ってくるものの質は動きませんでした。
原因は、直し方の側にありました。AIとの対話で出てくるのはテキストだけなので、話し合って直すと、必ず指示書が長くなります。直そうとする行為と、悪くなる原因が同じものでした。
指示書のうち、何を作るかを書いた部分は0.3%だった
「余計な情報が多すぎるのではないか」と私は聞きました。返ってきたのは説明ではなく、数字でした。
指示書は約14万字ありました。そのうち、何を作るのかを書いた部分は387字です。全体の0.3%にあたります。残りの63%は運用の手順で、作り方ではありませんでした。完成品の見本は、1本も入っていません。
「配分がおかしい」と言われている間、私は動きませんでした。「0.3%」と数字が出た時点で、話が通りました。同じ内容の規定が離れた11箇所に書いてあったことも、数えて初めて見えています。
数え方は決まっています。指示書を「何を作るか」「どうやるか」「どこに置くか」の3つに割って、それぞれの字数を数えます。割合を見れば、足りないのがどれかが1回で出ます。
直す案は、減らす・移す・足すの3つに分かれる
指示書の直し方を相談したとき、修正案が5つ並んで出てきました。私が返したのは、5つの中身への反論ではなく、5つも出したこと自体への問いです。
説明が通じたのは、5つを性質で分けたときでした。内訳は、同じものに付いた名前を6つから3つに減らすもの、禁止の側から数える側へ移すもの、2行足すもの、食い違いを消すもの、そして純粋な追加が1つです。減らすものと移すものが、5つのうち2つあります。
並べて出すと、5つとも追加に見えます。分けずに数だけを並べたことが、間違いでした。直す案を出すときは、減らす・移す・足すのどれなのかを先に書きます。
長い指示書を深く読ませると、AIは関係のない部分まで拾う
Gema らが2025年に出した「Inverse Scaling in Test-Time Compute」という論文があります。この論文が示したのは、推論を長くするほど成績が下がる課題が存在することです。落ち方はモデルの系統で違い、Claude という系統は、指示文の中の関係のない情報に引きずられる形で落ちました。
論文が言っているのは、長く考えると必ず悪くなる、ということではありません。そうなる課題が存在する、ということです。
そのうえで私がここから引いたのは運用の話で、論文が測った場面とは違います。指示書が長い日に、考える深さまで上げると、拾わなくていい部分まで拾われます。短くできない日は深さのほうを下げると、試せる手が1つ増えます。
壊れた箇所が減ると、読んだ人はどこが悪いか言えなくなる
しばらく直したあと、AIが書いてくるものについて、私は「何がダメなのかわからないぐらい、よくわからないものが上がってくる」と言いました。前より良くなっているとは思うのに、どこを直せとは言えません。
名指しできないのは、欠陥があるからではなく、無いからでした。壊れた日本語も、主語の抜けも、回りくどい言い方も指させます。指させないのは、全部通っているのに言いたいことが無いものです。
つまりこの状態は、悪くなった結果ではなく、直した結果です。指させるものが先に減ったので、残ったのは確認の項目が見ていない層だけになりました。用意していた項目は全部「壊れていないか」を見るもので、「良いか」を聞く項目は一つもありませんでした。
だから、聞く文を1つ足します。「言いたいことは1つか」。壊れているかを聞くのをやめて、これだけを聞きます。答えられないものは、直す場所ではなく、書き直す場所です。
直す案が足すものだけの日は、原因がまだ見つかっていない
手順は短くて済みます。今日足した1行を1つ選び、前後を付けずに取り出します。それを新しいチャットのAIに渡して、どう読んだかを言ってもらいます。分かったかを聞くのではなく、どう読んだかを聞きます。主語と目的語のどちらかが抜けていれば、そこで出ます。
そのうえで、明日また1行足したくなったら、その案が減らすものか、移すものか、足すものかを先に書き出してみてはいかがでしょうか。足すものしか出てこない日もあります。その日は書き足すのをやめて、今日足した1行を、話の流れを何も知らない新しいチャットのAIに読ませてみてはいかがでしょうか。

