「Gmailで自動返信ができるようになったと思います」。そう書き出して、私は自分らしい文案を作りはじめました。社内向け、社外の親しい方向け、社外のあまり親しくない方向け。3つ用意して、あとはどういうフローで回すかを決めるだけだと思っていました。
世の中に出ている手順は、だいたい同じ形をしています。返信の型を何本か用意して、相手や用件で出し分ける。うまくいかないのは文案が硬いからで、文案の精度を上げれば任せられる、という順番になっています。
この記事が扱うのは、文案の作り方ではありません。文案ができたあとに残った、返信していい相手と内容をどこで線引きするか、という話です。順番を逆にすると、よくできた文案が、返してはいけない相手に届きます。
文案が4本できても、そのまま送信には回せない
型が4本そろった時点で、私は送信まで任せられると思っていました。実際に詰まったのは、そこから先です。難しかったのは文章を作ることではなく、この1通に返信していいのかどうかを決めることでした。
受信箱には、いろいろなものが混ざっています。契約を切るという通告。請求の金額が合っていないという指摘。社内の込み入った申し立て。こういうメールに、それらしい返事が自動で届いたら何が起きるかは、想像がつきます。
文案の精度をいくら上げても、この事故は止まりません。むしろ自然な文であるほど、相手はこちらが読んで書いたものとして受け取ります。技術的にできることと、やらせていいことは、別の話でした。
下書きすら作らせない返信を、先に決めておく
そこで、送信をやめて下書きまでにしました。1時間に一度だけメールを開いて、返事が要りそうなものに下書きを作り、確認して送るのは自分の手でやります。2026年8月の時点では、AIの側から送信まで任せられる状態になっていましたが、できることと、やらせることは一致させませんでした。
線引きは2段にしました。1段目は下書きを作ってよい相手かどうか、2段目は下書きを作ってよい内容かどうかです。金額、期日、責任の所在といった、こちらが何かを決める返信は、下書きすら作らずに保留のリストへ回します。下書きが目の前にあると、確認が「読む」から「見て送る」に変わるからです。
相手の区分のほうは、頭の中の分類ではなく、実際に送った宛先を数えてから決めました。私は3つで足りると思っていましたが、数えると4つに割れました。割れたのは社外の側ではなく、社内だと思っていた側です。
文案は書き起こさずに、送信済みメールから抜き出す
最初に考えたのは、文案を4本先に書いてもらい、私が赤を入れて型を固める形でした。速いのですが、初稿が想像から始まります。先に書くと、誰かが想像した「私らしさ」になります。
採ったのは、送信済みのメールから実際の型を抜き出してから作る形です。私が出した条件は「やりとりが発生しても良いから、私の実際のメールをベースにしてほしい」でした。往復が増えてもいいので、出どころを自分の文にしておきたかったのです。
抜き出すと、自分では意識していなかった決まりが出てきました。「お世話になっております」を書いている相手と書いていない相手が、はっきり分かれていること。謝るときは「申し訳ございません」ではなく「すいません」と書いていること。署名はスレッドの1通目だけで、返信では省いていること。先に文案を書いていたら、どれも逆に書いていたと思います。
「まだできない」と言われた機能が、実際には使えた
この件でいちばん最初につまずいたのは、私とAIのあいだでした。私が「Gmailで自動返信ができるようになったと思います」と書いたところ、AIは「できるようになったかどうかは確認していません」と返してきました。そのうえで、仕組み上そうはならない、という説明を続けました。
私が返したのは「できるようになった。信じてほしい。ウェブブラウジングして。」でした。調べさせたら、実際に使えるようになっていました。AIは、自分の知っている範囲に無いことを、こちらの勘違いとして処理していたわけです。
これは、AIの知識が古いという話ではありません。調べてから疑う、という順番になっていなかった、という話です。私の側も同じで、その「できません」がいつの時点の話かを先に聞いていれば、「信じてほしい」と言わずに済みました。メールをどこまで任せられるかは、この先も増えたり止まったりしますから、いま何が使えるかは、そのつど確かめてみてください。
添付ファイルの名前も種別も、実際と違っていた
先方から届くファイルを、案件ごとのGoogleドライブへ入れるところも試しました。「無理だと思うけど、検討してほしい」という頼み方をした部分です。
最初の1件で引っかかりました。ファイル名の末尾が .crdownload で、これはダウンロードの途中に付く拡張子です。ファイルの種類として付いていた表示のほうも、中身が判別できないときに使う汎用のものでした。開けてみると、中身は壊れていない普通のPDFでした。
名前も種別も当てにならないので、振り分けは中身を見てから決める形にしました。自動で動く仕組みでは、判定に使う材料そのものが嘘をつくことがあります。名前で分けていたら、この1件はどこにも入らないまま消えていたはずです。
検証している30分のあいだに、人が表を書き換えていた
もう一つ頼んだのは、案件の進み具合をまとめた表の更新です。行ごとに期限と対応者が入っていて、私はそこへ、終わったかどうかを書き込ませようとしていました。
検証していた30分ほどのあいだに、その表が動きました。行の並びが変わり、担当を入れる列の中身も書き換わっていました。私が読んだときの3行目と、書き込もうとしたときの3行目は、別の行だったということです。
止まっている紙として扱うと壊れると分かったので、書く直前に必ず読み直す作りに変えました。人が同時に触っているものへ機械が書き込むとき、いちばん危ないのは、読んだ時点と書く時点のあいだです。
気づけない間違いは、下書きが作られなかった側で起きる
正直に書くと、この作りには弱いところが残っています。返信していい内容かどうかを判定するのも、保留に回すかどうかを決めるのも、AIだからです。判定を誤って下書きが作られたなら、私はそれを読んで気づけますが、保留に沈んだ分は、リストを開かないと見えません。
間違いは2つの向きで起きます。返してはいけないものに下書きができる向きと、返すべきものが保留に沈む向きです。前者はその場で気づけますが、後者は何日か経って、相手からの催促で気づくことになります。この線引きが実際に効くかどうかは、巡回が何度か回るまで分かりません。
それでも下書きから始めるのは、送信を自分の手に残しておけば、判定の間違いが事故にならないからです。メールは、送ってしまうと取り消せません。自動で返したことは相手には分からないので、返事の中身は、そのまま私の判断として受け取られます。
これから同じ仕組みを組むなら、文案を1本も書く前に、自分の受信箱を上から30通ほど眺めてみてはいかがでしょうか。この中の何通なら、自分が読む前に返事が出ていても平気か。その線が引けたところまでが、任せてよい範囲だと思います。


