脱力しても音量が出ないのは、打った後にスティックを止めているからである

力いっぱい叩いているのに、音が前に出てこない。力を抜けと言われて抜いてみたら、今度は音が小さくなった。正解がどこかにあるはずなのに、その正解が力の入れ具合の中に見つからない。

よく言われる答えは、だいたい3つです。握り込まずに支点だけで持つこと。腕ではなく手首と指を使うこと。跳ね返りを殺さないこと。どれも正しい話ですが、この3つを全部やっても音が変わらない人がいます。

この記事が立てる問いは、その先にあります。打つ瞬間をどれだけ直しても音が変わらないなら、変えるべき場所は打つ瞬間ではないのではないでしょうか。

目次

スティックが打面に触れているのは、5ミリ秒から8ミリ秒しかない

ドラマーが楽器に直接触れている時間は、一打あたり数ミリ秒です。ハノーファー音楽演劇大学の音楽生理学・音楽家医学研究所にいたSofia Dahlらの測定によると、タムやスネアの中央をメゾフォルテで叩いたとき、スティックが打面に触れている時間は5ミリ秒から8ミリ秒の範囲に収まります。

この短さは、他の楽器と比べると際立ちます。管楽器の奏者は、音が鳴っている間ずっと口の形を変えられます。弦楽器の奏者は、弓の圧力と速度を鳴らしながら調整できます。

打楽器だけが違います。音を決めているのは、この5ミリ秒から8ミリ秒の間に起きる力の変化です。そしてその数ミリ秒の間、演奏者は握りを変えることも、打面を押さえることもできません。

つまり、当たっている最中に音を作ることは、誰にもできないのです。手を加えられるのは、当たる前と、当たった後だけになります。

打った後に手を止めると、その動きは打つ前から始まっている

Dahlらの実験は、打った後の扱いだけを変えて音がどう変わるかを調べたものでした。演奏者はプロのジャズドラマーが1名で、14インチのロートタムを使っています。

指示は2種類だけです。ひとつは「normal」で、普段どおりのリラックスしたグリップで、スティックを自由に跳ね返らせます。もうひとつは「controlled」で、打った直後、打面に触れないぎりぎりの高さでスティックを止めます。

この2つを交互に記録し、147打を分析しました。結果として、controlledのほうが接触時間が短く、ピーク力が高く、インパクト前後の速度差も大きくなっています。速度差の違いは統計的に有意でした。

ここで著者が指摘していることが、この記事の核心です。理想を言えば、スティックの高さを調整するのは打面を離れた後であるべきです。しかし接触時間があまりに短いため、実際には演奏者はダウンストロークの段階ですでにグリップを調整しはじめている、と書かれています。

打った後をどう扱うかは、打った後だけの問題ではありません。止めると決めた瞬間から、打ちに行く手はもう別の手になっています。

自由に跳ね返らせた一打のほうが、豊かな音に聴こえた

この実験には、録音した打を人が聴いて評価する工程がついています。8人が、音色を「平板から豊か」の軸で、アタックを「柔らかいから硬い」の軸で並べました。

結果は一貫していました。自由に跳ね返らせたnormalの打が、豊かな音色と硬いアタックとして評価されています。止めたcontrolledの打は、平板で柔らかいと評価されました。どちらの軸でも差は有意です。

ここで測定と聴こえ方が食い違います。controlledのほうがピーク力は高く、接触時間は短かったのに、聴いた人には弱くて平板に聴こえたのです。著者自身が、この結果はやや意外だったと書いています。

直感的には逆を予想します。跳ね返りを止めれば、スティックが打面に留まる時間が延びて、振動を邪魔するはずだと考えるからです。ところが測定では、止めたほうが接触時間は短くなっていました。

ここからは解釈です。著者は、握りを締めたことでスティックの実効質量が変わり、スティック自体の振動の仕方も変わった可能性を挙げています。これは可能性として書かれているもので、確立した説明ではありません。

事実として言えるのは一点だけです。打った後をどう扱うかによって、聴き手に届く音色とアタックが変わる。理由の側は、まだ決着していません。

なお、この実験の演奏者は1名で、使われたのはシェルのないロートタムです。著者もこれを進行中の研究と位置づけています。数字をそのまま自分のスネアに当てはめられる性質のものではありません。

握り方を見直しても音が変わらないのは、直している場所が違うからである

冒頭に挙げた3つの答えを、もう一度並べてみます。支点だけで持つ。手首と指を使う。跳ね返りを殺さない。

この3つは、どれも打つ瞬間についての話です。どう持つか、どう振り下ろすか、当たった瞬間に何を邪魔しないか。脱力という言葉が指しているのも、この範囲でしかありません。全部、接触の手前で終わっています。

打った後をどうするかは、この3つのどれにも入っていません。そして測定が示しているのは、打った後の扱いが打つ瞬間のグリップを決めているということです。

だから、握りを何度見直しても音が変わらないことが起こります。打った後に手を止める癖が残っているかぎり、打ちに行く手は毎回そこへ引き戻されるからです。

順序が逆になっている、と言い換えてもいいでしょう。多くの人は、いい音を出すために持ち方を直そうとします。実際には、打った後を変えると、持ち方は勝手に変わります。

叩き方が正反対の二人が、打った後だけは同じことをしている

Dennis Chambersは、大音量で知られるドラマーです。1978年にParliament-Funkadelicに加入し、1986年からはJohn Scofieldのバンドで演奏しました。2001年にModern Drummerの殿堂入りを果たしています。

彼の演奏を見ていると、叩きつけている印象がありません。スティックを指先でつまんでいるように見えるのに、一発の音が非常に太い。ゴーストノートの細かさで知られながら、フルショットではジャズやフュージョンの現場で音量を指摘されるほどの音圧を出します。

道具の側にも思い込みがあります。彼のシグネチャーモデルであるZildjianのZASDCは、直径0.55インチです。標準的な5Aが0.565インチ、5Bが0.595インチなので、5Aより細い。太い音が太いスティックから来ているわけではありません。

対極に見えるのがDave Grohlで、腕全体の重さを落とし、ストロークの長さで鳴らすタイプです。低域と胴鳴りが前に出るので、ロックのミックスの中ではこちらが正解になります。

音量も、ジャンルも、一打あたりの手数も正反対です。それでも共通していることが一つあります。どちらも、当てた後にスティックを手の中で止めていません。

ここは演奏から読み取った解釈であって、本人たちが説明したものではありません。ただ、打った後を拘束しない打が豊かな音色として評価された測定と、方向は一致しています。

打った後を自由にするコストを、正直に書いておく

打った後を常に自由にすればいい、という話ではありません。止める必要がある場面は現実にあります。

強い一打の直後に弱い一打を置くとき、跳ね上がったスティックは高すぎて間に合いません。次の音までの距離が短いほど、跳ね返りは邪魔になります。実際、多くの奏法がこの問題を扱っていて、打った後にスティックをどの高さで止めるかを技術として教えています。

そして測定が示しているとおり、止めれば音は平板になります。避けようがありません。止めた瞬間に、その一打の音色は失われます。

だからここは、音の豊かさを取るか次の一打への準備を取るかという、交換だと考えるのが正確です。両方は取れません。

問題になるのは、交換であることに気づかないまま、常に止めているときです。次の音が遠い場面でも止めていれば、払わなくていいコストを毎回払っていることになります。

判断基準は、一発の音が消えるまでの長さ

自分がどちら側にいるかは音量では測れないので、測るのは一発が消えるまでの長さになります。

やり方は単純です。ドラムセットの前に座ったら、スネアの中央をリムショットを混ぜずに一発だけ叩きます。そして次の一発を打たずに、音が消えるまで聴きます。これを、打った後にスティックを自由にした場合と、打面のすぐ上で止めた場合で比べます。

音量は揃えなくて構わないので、見るのは長さと余韻の中身だけです。止めたほうは、輪郭は立っていても後ろが早く痩せるはずです。

録音できるなら、そのほうが確実です。波形の減衰の形を見れば、耳で迷う部分が目で分かります。スタジオでもリハーサルスタジオでも、スマートフォンの録音で足ります。

練習の順序としては、腕を止めて指だけでシングルストロークを打つところから入るのが近道です。ただし、狙うのは接触時間の短さではありません。打った後、手が何もしていない状態を作ることです。

なお、手首や指に痛みやしびれが出ている場合は、この記事の話ではありません。フォームの調整で解決する範囲を超えているので、専門家に相談することを検討してみてください。

よくある疑問

Q:脱力すれば、ドラムの音量は大きくなるのでしょうか。

A:大きくはなりません。脱力は音量を上げる技術ではなく、楽器が鳴るのを邪魔しない技術です。音量を決めているのはスティックの速度と質量なので、力を抜くだけでは何も足されていません。変わるのは音の質のほうです。音量そのものが足りないなら、振り幅か速度を上げてください。

Q:打った後に手を止めないと、スティックが暴れませんか。

A:暴れる場合は、止める場所が間違っています。止めるべきなのは打った後のスティックではなく、次の一打に入る前の腕です。打った後を自由にしたまま、次の準備を早く始めるほうが、結果として動きは小さくなります。

まとめ

打楽器の演奏者が楽器に触れているのは、一打あたり5ミリ秒から8ミリ秒です。その間に音を作ることはできません。作れるのは、当たる前と、当たった後だけです。

そして測定が示しているのは、この2つが別々ではないということでした。打った後に止めようとすると、その動きは打つ前から始まり、打つ瞬間のグリップを変えてしまいます。

音の豊かさを決めているのは、力の強さでも、握りの正しさでもありません。当てた後に、手が何もしていないかどうかです。

今日の練習で、一発だけ叩いて消えるまで聴いてみてはいかがでしょうか。あなたの一打は、どこで止まっていますか。

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