演奏には自信があるし、ミスもしていない。それなのに、ライブが終わったあとの客席の反応が薄い。自分で撮った動画を見返しても、なぜか地味に見える。上手いことは分かるけれど、かっこよくは見えない。
よく言われる答えは、だいたい3つです。腕を大きく振ること、笑顔を作ること、ここぞという場面で立ち上がること。実際に試した方は多いと思いますし、試したのに浮いただけだった、という経験をした方も同じくらい多いはずです。
この記事が立てる問いは一つです。効く動きと、冷める動きの線は、どこに引かれているのか。その線は、派手さでも、意識の持ち方でもない場所にあります。
客が受け取っているのは、鳴った音ではなく、その音を出した身体の動きである
客は耳だけで演奏を聴いているのではなく、目で見た動きが、聴こえ方そのものを書き換えています。
これを示した研究があります。Michael SchutzとScott Lipscombによる「Hearing gestures, seeing music: Vision influences perceived tone duration」(Perception, 2007年, 36巻6号, 888〜897頁)です。この研究では、著名な打楽器奏者が長い音と短い音を叩く場面を撮影し、映像と音を切り離しました。そのうえで両者を組み替えて提示し、聴こえた音の長さを評価させています。
結果は、評価が映像の側で変わり、音の側では変わりませんでした。長いジェスチャーで叩くと、同じ音が長く聴こえたのです。
同じ方向を示す研究が、もう一本あります。Chia-Jung Tsayによる「Sight over sound in the judgment of music performance」(PNAS, 2013年, 110巻36号, 14580〜14585頁)は、7つの実験を行いました。国際音楽コンクールの上位3名の演奏を、音声のみ、無音の映像のみ、その両方という3条件で提示し、実際の優勝者を当てさせています。最も正確に当たったのは、無音の映像のみの条件でした。この傾向は、素人でも、プロの演奏家でも、専門家でも変わりませんでした。
ここで事実と解釈を分けておきます。Tsayが測ったのはコンクールの審査結果であって、ライブの客席の高揚ではありません。演奏の優劣を判断する場面と、身体が乗る場面は同じではないので、そのまま重ねることはできません。
ただ、2本が共通して示しているのは一点です。動きは演奏の飾りではなく、聴こえ方の一部として処理されている。ここから先は私の解釈です。学説として確立された議論ではありませんので、そのつもりで読んでください。
同じ演奏でも、見える角度が変われば、別の演奏として届く
ドラムが最も見える角度は、正面のやや斜め上、45度前後だと私は考えています。この位置なら、スティックの軌道、ハイハットとスネアの上下、キックペダルの踏み込みが、一枚の絵に収まるからです。
真横から見ると、動きの奥行きが消えます。腕が前後に動いている分は、横からだと重なって潰れてしまうためです。真正面から見ると、今度はシンバルとタムが手前に来て、顔と手元が隠れます。
45度なら、肩から手首までのラインと、顔の表情が同時に見えます。もう一つ強いのは、ドラマーの背後のやや上、演奏者本人の視線に近い位置です。客が普段は見られない景色なので、映像作品ではこの角度がよく使われます。
角度の話をしているのは、撮影の技術を語りたいからではありません。同じ演奏が、見える面によって別物として届く。この事実をまず確認したいからです。ここが確認できると、次の話が意味を持ちます。あなたの腕の軌道は、どの面の中で動いているのか、という話です。
ハイハットを体の正面に置くと、振りかぶりが客から見えるようになる
一般的な配置では、ハイハットは体の左の外側にあります。右手は左手の上を斜めに横切って、体の前を通ることになります。
この軌道を正面から見ると、奥行きの方向に潰れます。手が動いていることは分かりますが、どれだけ振りかぶったかは見えません。しかも左腕とスネアが手前にあるので、手元が半分隠れます。
私のセットは変則で、ハイハットを体の正面に置いています。この配置だと、右手の軌道が、客の視線と平行な垂直の面の中で動きます。上下の運動が、そのまま振り幅として見えるということです。
腕が交差しないので、右腕が遮られずに全部見えます。体の中心線の上にあるので、顔と腕が同じ縦のラインに乗ります。振りかぶる、顔が見える、落とす。この3つが一つの流れとして読めます。
副次的な効果もあります。交差しないので、左右の腕が対称になります。左手のスネアと右手のハイハットが体の中心から等距離に開いた形は、見ていて安定しています。その安定した形から片方だけが大きく動くと、差が際立ちます。オープンハンドの奏者がやたらかっこよく見える理由の一部は、ここにあると私は見ています。
ただし、これは配置の幾何から導いた説明であって、測定されたものではありません。仮説として受け取ってください。
振り上げたところで一度止めると、次の一打だけが大きくなる
見えることの次に効くのは、順番です。動きが音より先に来ているかどうか、という点です。
同じ音量で叩くとしても、大きく振りかぶってから落とすと、音が鳴る前に客の身体が身構えます。振りかぶりが、これから何かが鳴るという予告として働くからです。予告があると、鳴った瞬間の受け取り方が変わります。
もう一つは、叩いたあとの処理です。クラッシュを叩いた瞬間に手を引かず、腕を上げたまま一瞬止める。すると、音の余韻と身体の余韻が一致します。
そして最も強く効くのは、静止です。ブレイクで動きを全部消すと、次の一発の解像度が跳ね上がります。動いていない時間があるから、動きが動きとして見える。音を減らすと一発が重くなるのと、同じ形をしています。
剣道の面が格好良く見えるのは、ドラムの一発と同じ理由による
剣道の面は、振りかぶって真っ直ぐに落とす動作なので、動きが完全に垂直の面の中で完結します。正面から見たときに、軌道が最も大きく見える形です。しかも竹刀という長い延長物があるので、軌道の見えやすさがさらに増幅されます。
効いているのは、それだけではありません。剣道では、振りかぶった位置で一瞬止まります。予備動作、溜め、解放という3つが、順番に並んでいるということです。弓道はさらに極端で、溜めが長く、解放が一瞬です。ドラムのブレイクからの一発と、並びがそのまま重なります。
もう一つは、動きと結果の距離です。剣道は当たった瞬間に音が鳴ります。弓は的に刺さります。動作と結果が、時間的にゼロ距離で結びついています。
他の競技を並べると、傾向が見えてきます。走り高跳びの背面跳び、体操の宙返り、飛び込み、ハンマー投げの回転、テニスのサーブ。いずれも軌道が大きく、見る面の中に全体が収まります。逆に、陸上の短距離を真正面から見ると前後の動きが消えるので、中継は横から追います。ゴルフのスイングを正面から見ると、面が体の右側にあるので重なって見えます。
ドラムが珍しいのは、この両方を持っていることです。振りかぶりが見えて、音が即座に鳴って、しかもそれが数分間続きます。剣道は一発で終わりますが、ドラムは原因と結果の連なりを見せ続けます。
スティック回しは、どれだけ上手くても客の身体には届かない
線がどこにあるかは、逆から見ると分かります。
音と無関係な動きは、冷めます。その代表がスティック回しで、どれだけ上手く回しても、その動きは一つも音を出していません。客の身体は動きと音を結びつけようとして、結びつく先を見つけられずに終わります。
同じことは、かっこよく見せようとして意味なく腕を大きく振る動作にも起きます。よく言われる「むやみなアピールは逆効果」という指摘は、この現象を言い当てています。ただしそこで止まっているので、では何が違うのかが分かりません。
違いは、その動きが音を出したかどうかです。振りかぶりは、次の一打を出すための動きです。クラッシュ後の残しは、いま鳴った音の余韻に対応しています。ハイハットを開くときの脚の動きは、開いた音そのものを出しています。フィルインでのタム移動は、鳴らす場所へ移る軌跡です。全部、音とつながっています。
回転だけが、つながっていません。
ジョン・ボーナムがかっこいいのは、余計な動きが一つもないのに、一発の質量が動作から予測できるからだと私は考えています。動きの量ではなく、動きと音の対応が、そのまま見えているのです。
見せるための配置には、叩きにくさという代償がある
公平を期すために、逆側も書きます。
まず、慣れた配置を変えると、しばらく叩けなくなります。クロスで何年も刻んできた身体は、右手が左手の上を通ることを前提に組み上がっているからです。それを外すと、テンポも音量も一度崩れます。戻るまでに月単位かかると考えたほうが現実的です。
次に、スタジオやライブハウスの共用セットは、ほとんどが一般的な配置です。自分のセットでしか成立しない形にすると、外で叩くたびに組み直すか、慣れない配置のまま叩くことになります。
そして、正面にハイハットを置くと、その分だけタムやシンバルの置き場所が狭くなります。私は8インチで統一して見た目のノイズを削っていますが、これは同時に、鳴らせる音の幅を捨てているということでもあります。
見せることを優先した配置は、演奏の自由度を一部あきらめる配置です。どちらを取るかは、あなたが叩く場面によって変わります。
判断基準は、音を消した動画で、どこで音が鳴るか分かるかどうかである
自分の演奏が見えているかどうかは、感覚では分かりません。叩いている本人には、全部見えているからです。
確かめる方法は一つです。自分の演奏を正面のやや斜め上から撮り、音を消して見る。そして、どこで音が鳴っているかが分かるかを確かめます。
分かるなら、動きが音の原因として見えています。分からないなら、動いてはいるけれど、その動きが何を出したのかが伝わっていません。
見るのは3点です。スティックがどこまで上がったかが分かるか、叩いた瞬間に手が止まって見えるか、動いていない時間があるか。この3つが揃うと、音を消したままでもリズムが読めます。
うまくいっていない場合、原因は配置ではなく順番にあることが多いと考えられます。振りかぶりが小さいのではなく、振りかぶりと打点が同じ速さで流れていて、区切りが見えない。まずはフィルの前の一拍だけ動きを止めるところから試してみてはいかがでしょうか。
よくある疑問
Q:ドラムをかっこよく見せるには、動きを大きくすればよいのでしょうか。
A:大きさだけでは決まりません。同じ大きさの動きでも、その動きが音を出したと客に分かる場合は効き、分からない場合は冷めます。振りかぶりは次の一打を出す動きなので伝わりますが、スティック回しは一つも音を出していないので伝わりません。まず、自分の動きが何の音に対応しているのかを確かめてみてください。
Q:ハイハットを体の正面に置くと、本当に見え方は変わるのでしょうか。
A:軌道が動く面が変わります。一般的な左配置では右手が体の前を斜めに横切るため、正面から見ると奥行き方向に潰れて、振り幅が見えません。正面配置では上下の運動がそのまま振り幅として見えます。ただし、慣れるまで演奏が崩れることと、共用セットでは再現できないことが代償として残ります。
Q:客席が盛り上がらないのは、技術が足りないからでしょうか。
A:技術と、伝わり方は別の問題です。同じ演奏でも、見える角度と動きの順番が変われば、届き方が変わります。技術を上げる前に、音を消した動画で自分の演奏を一度見てみると、どちらが原因なのかの見当がつきます。
同じ技術でも、見えているかどうかで、次に呼ばれるかが変わる
ドラマーが評価される場面は、音源だけではありません。ライブを見た人が次に誰を呼ぶかを決めるとき、その判断には、そのとき見えていたものが混ざっています。
技術を1年で目に見えるほど上げるのは大変です。一方で、見える面を変えることは、椅子の角度と、カメラの位置と、一拍の静止から始められます。同じ腕の力のままで、かっこよく見える距離だけが変わることもあります。
その差は1回のライブでは分かりません。ただ、呼ばれる回数として積み上がっていくと、叩けた時間そのものが変わってきます。楽器という資産は、続けられた時間の累積でできています。
次のライブの前に、音を消した自分の動画を一度だけ見てみてはいかがでしょうか。そこで音が鳴る場所が分かるなら、あなたの動きは、もう客に届いています。







