ドラムで疲れるようになったのはなぜか。腕と息と技術は、落ちる速さが違う

久しぶりにドラムの前に座って、1時間叩きました。手は動きます。フレーズも思い出せます。それなのに、1時間で腕が上がらなくなり、それ以上は続けられませんでした。昔はもっと叩けたはずなのに。

こう感じたとき、たいていは技術のほうを疑います。脱力ができていないのではないか。フォームが崩れたのではないか。世の中に流通している答えも、だいたいこの2つに集まります。上達すれば疲れなくなる楽器なのだから、疲れるのは技術の問題である、という説明です。

この記事が立てる問いは違います。技術と体力は、同じ速さで落ちるのでしょうか。

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8年練習しなくても、両手で刻んだリズムは戻ってくる

指と腕が覚えた手順は、年の単位で残ります。

Frontiers in Computational Neuroscience 誌に2013年に載った研究があります。責任著者はノースイースタン大学のダグマー・スターナッドです。被験者は、左右の手で違う周期を同時に刻むポリリズムの課題を、2か月かけて練習しました。そのあと6か月あけて再テストを受け、うち2名は8年後にもう一度テストを受けています。

8年後、2人とも課題を再現できました。それだけではありません。個人ごとの叩き方の癖まで、そのまま戻っていました。8年で維持されていなかったのは、片手の周期がもう片方に漏れ出す量だけです。研究者はこれを両手間のクロストークと呼んでいます。

これは実験室の課題であって、ドラムセットを叩いた記録ではありません。ただ、左右の手が別々の周期を刻むという点では、ドラムの動作にかなり近いところにあります。

心肺の側は、3週間で7%落ちる

同じ身体の中に、まったく違う速さで落ちていくものがあります。

Coyle ほかが1984年に Journal of Applied Physiology に発表した研究では、持久系のトレーニングを積んだ7人が練習をやめたあとを追跡しています。最大酸素摂取量は、最初の21日で7%低下しました。そして56日以降は、元の値より16%低い水準で安定しています。一方で、筋肉の毛細血管の密度は落ちず、運動をしていない対照群より50%高いままでした。

2022年に European Journal of Sport Science に載った Chen ほかの研究は、持久系の競技者に2週間だけ練習をやめてもらっています。最大酸素摂取量、疲労困憊までの運動時間、1回拍出量、膝を伸ばす筋力が下がりました。ところが、膝を曲げる筋力と筋持久力には、有意な低下が出ていません。

2週間で下がったのは、力そのものではなく、酸素を運ぶ側でした。

ドラムを叩いている間、心拍は140を超えている

ドラムは、腕の運動であると同時に持久運動です。

Clem Burke Drumming Project という研究プロジェクトがあります。2008年に、ブロンディのドラマーであるクレム・バークと、グロスターシャー大学のスティーブ・ドレイパー教授、チチェスター大学のマーカス・スミス教授が始めたものです。1999年のブロンディのツアーで心拍を計測したところ、90分の演奏中、心拍数は140から190拍の範囲で推移していました。研究チームはこれを、トップアスリートの水準と並べて説明しています。

プロが大音量のロックを90分続けた数字なので、自宅の練習パッドがそのまま同じとは言えません。ただ、ドラムを腕だけの動作だと思っている人には、幅を持って見ても大きすぎる数字です。

技術だけが先に戻るので、叩けてしまう

ここまでを並べると、叩けるのに持たない、という状態の説明がつきます。

年の単位で残る運動の記憶は、久しぶりに座っても最初の数分で戻ってきます。だから手は動きます。フレーズも出てきます。本人の感覚としては、昔の自分がそこにいます。

一方で、酸素を運ぶ側は数週間で落ちています。しかも本人には落ちた自覚がありません。心拍が上がるところまで行かないと、その低下は表に出ないからです。

つまり、昔と同じ設計の演奏を、昔より細い供給ラインで走らせることになります。昔はもっと叩けたのに、という感覚は、記憶のほうは正しいまま、身体の一部だけが入れ替わっている状態から出てきます。

ここからは私の解釈です。上に挙げた3つの研究は、いずれもドラマーの疲労を測ったものではありません。持久系の競技者と、実験室の課題と、プロのツアーの記録です。この3つを重ねて、あなたの1時間はここで潰れたと言い切ることはできません。ここで示せるのは、落ちる速さが要素ごとに違うという事実までです。

どこが先に潰れたかは、疲れ方の順番で分かる

自分の1時間のどこが潰れたのかは、疲れが出た場所とタイミングで切り分けられます。

叩き始めて5分から10分で、前腕や手のひらが張って動かなくなるなら、局所の筋持久力と力みの側です。ここは手を下ろせばいったん戻り、再開するとまた同じくらいの時間で張ってきます。

30分から1時間かけて、息が上がり、全身がじわじわ重くなるなら、酸素を運ぶ側です。腕だけを休ませても戻りが遅く、座っているだけでも呼吸が整うまで時間がかかります。

手は動くのに音の粒が揃わない、タイミングが後ろにずれる、という崩れ方なら、技術と神経の側です。これは疲労が引き金になって出ることが多いので、力の問題とは分けて扱う必要があります。

3つは同時に起きます。それでも、いちばん先に出たものが、いまの自分の上限を決めているものです。

足りない分を埋めようとすると、腕に力が入る

脱力しなさい、という助言は、たいてい正しいのに効きません。

供給が細くなっている状態で昔と同じ音量を出そうとすると、身体は不足を別のところから埋めにいきます。埋める場所はたいてい腕です。リバウンドを待たずに振り下ろす。グリップを握り込む。肩を上げる。どれも、出力を確保するための代償です。

だから、力んでいるから疲れる、という順番だけでは足りません。足りないから力む、という向きが同時に走っています。この向きが走っているあいだは、脱力を意識しても、意識が切れた瞬間に力が戻ります。

握りを緩めても音が変わらないなら、その分は無駄な力みです。この確認そのものは有効です。ただし、緩めた瞬間に音が痩せるなら、それは力みではなく、いまの供給で出せる音量の上限を見ています。

戻す順番は、落ちた速さの逆になる

早く落ちたものは、早く戻ります。だから供給の側から先に戻します。

酸素を運ぶ側を戻すのに、ドラムの前に座り続ける必要はありません。歩く、自転車を漕ぐ、階段を使う。心拍が上がる時間を、ドラムの練習とは別に確保するほうが早く効きます。ここは練習時間を削らずに足せる部分です。

局所の筋持久力は、叩く動作そのものでしか戻りません。ただし1時間を通しで叩くのではなく、15分から20分で区切り、間に完全に手を下ろす時間を挟むほうが、その日の総打数は増えます。張ったまま叩き続けた時間は、力みを練習した時間になります。

技術の側は、いちばん最後で構いません。年の単位で残っているものを、慌てて取りに行く必要がないからです。テンポを落として粒を揃える時間は、供給が戻ってきてから作っても間に合います。

よくある疑問

Q:数週間しか休んでいないのに、体力は本当に落ちるのでしょうか。
A:落ちます。ただし落ちるのは、体力という一つの量ではありません。研究で早く下がることが確認されているのは、最大酸素摂取量のような、酸素を運ぶ側の指標です。筋力や筋持久力は、同じ2週間でも下がらないことがあります。

Q:昔と同じ1時間を叩けるようになるまで、どのくらいかかりますか。
A:期間を断言できる研究は見当たりません。分かっているのは、落ちるのに3週間かかったものが、戻るのに数日で済むことはないという程度です。目安を置くなら、休んでいた期間と同じくらいを見ておくと、焦りにくくなります。

Q:疲れが何日も抜けません。
A:それはこの記事の話ではありません。数週間のブランクからの再開で説明できるのは、その日のうちか翌日には回復する疲労までです。だるさが何日も続くようなら、医療の領域なので、専門家に相談することを検討してみてください。

昔と同じ1時間が、そのまま戻るとは限らない

公平を期すために、逆側も書いておきます。ブランクの前と後で、身体の条件そのものが変わっていることがあります。年齢、睡眠時間、仕事の量。これらが変われば、同じ1時間は同じ負荷ではありません。戻す先を昔に固定すると、届かない基準を追い続けることになります。

それでも、技術が年の単位で残るという事実は動きません。時間をかけて手に入れた叩き方は、数週間のブランクでは消えません。消えたのは、それを1時間ぶん動かすための供給のほうです。

今日の1時間は、どこから潰れましたか。腕でしたか、息でしたか、それとも音の粒でしたか。

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