自前スタジオで毎日1〜3時間、セット全体を使って叩いています。基礎練とコンビネーションの練習を午前中に回して、夕方にセット全体を使う。そう分けたら、成長率が2倍にならないか。私はそう考えました。練習の回数が2倍になるのだから、伸びも2倍になるはずだ、という単純な計算です。根拠も自分の中で用意していました。筋合成の最大は8時間で、それを過ぎると止まってしまう。だから8時間より短い間隔で刺激を入れ直せば、伸びが積み上がるはずだ、と。
ドラムの練習について世の中で語られているのは、たいてい長さの話です。1日に何時間やるべきか。1時間では短いのか。毎日15分でも効果は出るのか。時間帯に触れているものもありますが、起きてから2〜3時間が脳のゴールデンタイムだ、という書き方をしています。そこで測っているのは、その場でどれだけ集中できるかです。
この記事が見ているのは、翌日どれだけ残っているかのほうです。練習量を1分も増やさずに、そこだけを変える方法があります。たどり着くまでに、自分で立てた根拠を3つと、途中で出てきた案を2つ捨てました。捨てた順に書きます。
筋合成が止まるのは8時間ではない。いちばん高いのは24時間だった
よく引かれるのは、MacDougall らが1995年に Canadian Journal of Applied Physiology へ報告した研究です。4時間後に50%増、24時間後に109%増。ただしこの2つの数字は、その論文が測ったものではありません。論文の序文にある記述で、出典として1992年の Chesley らの研究が挙げられています。
MacDougall らが自分で測ったのは36時間の1点だけです。被験者6名、種目は片腕の肘の曲げ伸ばしだけで、そこでは対照の腕との差が有意ではなくなっていました。よく引かれる3つの数字を並べると、いちばん高いのは Chesley らの24時間の点です。どちらの研究も、8時間で止まる形にはなっていません。
8時間そのものを測った研究もありました。Trommelen らが2023年に報告したものは、運動後4時間、8時間、12時間で筋を採っています。タンパク質を摂った状態での測定ですが、12時間まで合成は上がったままでした。
ここで私は、一度は引き下がりませんでした。示されたのが1995年の研究1本だったからです。8時間というのは最近の研究として聞いた話で、古い1本を出されても納得がいきません。英語圏まで含めて調べ直すと、2024年に Davies らが79試験・237名をまとめたメタ分析が出てきました。1回の運動による上昇は、空腹時で最大48時間続いています。8時間で切れる形ではありません。
ドラムの上達を止めているのは筋肉ではない
仮に8時間説が正しかったとしても、それを根拠にはできませんでした。Mitchell らが2014年に発表した研究は、直近1年レジスタンストレーニングをしていない男性23名を、16週間追いかけたものです。最初の運動の直後に筋タンパク合成を測り、16週間後の大腿四頭筋の体積増加と突き合わせると、相関は1時間から6時間の合計で0.10でした。ただし、相関しないのは初回だけの数字です。Damas らが2016年に測り直すと、初週は相関しないのに、3週目と10週目では0.9前後まで上がりました。初回の上昇の多くが、筋の損傷を直すほうへ向かうからだと説明されています。動かないのは初日の数字だけです。その初日の数字を、私は1日の配分を決める目安に使おうとしていました。
そのうえ、筋のタンパク合成と運動スキルの習得を結んだ研究は、探しても出てきません。習得にタンパク合成が要るのは事実ですが、必要とされている場所が違います。Luft らが2004年に発表したラットの実験では、前肢で餌をつかむ課題を訓練したあと、一次運動野へタンパク合成の阻害剤を入れました。入れたのは1回目と2回目の訓練の直後、計2回だけです。それだけで、1日目から4日目の伸びが著しく鈍り、合成が戻ると学習も戻りました。
注射は訓練の後です。つまり鈍ったのは、その場での習得ではなく、セッションとセッションのあいだで固まっていく側でした。ラットの実験なので、そのままヒトに当てはめることはできません。それでも、この実験でタンパク合成が必要とされていたのは、腕の筋肉ではなく脳のほうです。私は同じ日に「ドラムの筋肉って神経系じゃん」と口にしていました。そちらのほうが正しく、根拠だけ筋肉から借りていたわけです。
朝10時に叩いた12人のうち9人は、翌日下がっていた
Truong らが2023年に発表した研究は、36人を12人ずつ3つに分けて、朝10時、午後3時、夜8時に同じ課題を練習させたものです。課題は、利き手ではないほうの指で決まった順に鍵を打つものでした。練習したその日の習得には、時間帯による差がありません。何時に練習しても、その場での上達は同じです。
差が出たのは24時間後でした。比べているのは、練習を終えた直後の成績と、その24時間後の成績です。朝10時の群は、24時間後のほうが低かった人が12人中9人いました。午後3時の群はほぼ維持、夜8時の群は12人全員が上がっています。朝に練習すると下手になる、という話ではありません。その日の上達は、どの群も同じでした。差がついたのは、翌日どれだけ残っていたかだけです。
起きてから2〜3時間が脳のゴールデンタイムだ、という話がありました。この研究でも、朝10時の群のその日の上達は他の群と同じです。そして、翌日いちばん残っていなかったのが、この朝10時の群でした。同じ「良い時間帯」という言葉で、違うものを指しています。
私は途中まで、逆の説明を受け入れかけていました。午前は新しいことを覚える側に、夕方はそれを出す側に振るのが理にかなっている、という筋です。当てはめてみると逆でした。習得のほうに時間帯の差はなく、差が出るのは翌日の残り方だけだったのです。
正直に書いておくと、全員が上がったのは夜8時の群です。午後3時の群は、下がりはしませんでしたが、上がってもいません。私が実際に取れるのは17時で、この2つの群のあいだに入ります。17時が夜8時と同じ結果になるかは、この研究からは分かりません。
同じ夜にもう一度測った群は、伸びていなかった
では夜が良いのか、それとも眠ったから良いのか。同じ研究に、そこを切り分ける群が2つあります。
1つは、夜8時に練習して、同じ夜の10時に測り直した11人です。この群は上がっておらず、統計的にも差が出ていません。もう1つは、夜8時に練習して、一晩眠ってから翌朝10時に測り直した12人です。こちらは夜8時の群とほとんど同じ結果でした。
この2つの群は、練習した時刻が同じです。違いは2つあります。測るまでに眠ったかどうかと、測るまでの経過時間です。眠らなかった群は練習の2時間後、眠った群は14時間後に測っています。上がったのは、眠って14時間おいた側だけでした。この比較だけでは、効いたのが睡眠なのか、経過した時間の長さなのかは分けられません。それでも、夜8時という時刻そのものが理由ではないことは分かります。練習の2時間後には、まだ上がっていないからです。
では、眠るまでの時間が短いほど良いのか。ここは私の推測にとどめます。その間隔そのものを動かした研究では、差が出ていないからです。Nettersheim らが2015年に、全員を夕方に練習させて、眠るまでを30分と4時間に振り分けました。両者に差はありません。Truong ら自身も2024年に、朝の低下は間隔ではなく干渉で説明できると書いています。
それでも、私が考えていた12時間ごとという設計には、動かせる要素が一つも入っていません。午前中に足した1時間は、そのあと十数時間起きて過ごすことになります。そもそも18時以降は叩かないので、実際に取れるのは朝10時と夕方17時の7時間間隔で、その数字に特別な根拠もありませんでした。
ぼーっとする時間や瞑想は、運動スキルでは3件しか測られていない
では、眠るかわりにぼーっとする時間ではどうか。瞑想ではどうか。ここも捨てました。2025年に Lei らが37研究をまとめたメタ分析があります。静かな休息の効果がはっきりしているのは、言葉で覚える課題のほうでした。運動スキルを扱った比較は3件だけで、有意になっていません。ただし p は0.054で、著者自身が分析に必要だとしている件数にも届いていません。効かないと示されたのではなく、まだ分からない、というのが正確なところです。
NSDR やヨガニドラの根拠としてよく引かれる2002年の研究も、当たってみると被験者8名の脳の画像研究でした。しかも全員が男性の瞑想指導者で、記憶や学習の指標を一つも測っていません。分からないもので睡眠を置き換える理由がないので、こちらは採りませんでした。
逆に、眠っている長さは足りているはずなのに、日中の眠気やいびきが続いているなら、練習の置き場所の話ではなくなります。その場合は、睡眠を診る医療機関に相談することを検討してみてはいかがでしょうか。
7,174人を測ると、1日の伸びの9割が30分で出ていた
増やす側の見込みも崩れました。Listman らが2021年に発表した研究は、狙いを定めて撃つ練習ゲームを使って、7,174人・682,564回のプレイを追ったものです。1回のプレイは60秒でした。ドラムではありませんが、これだけの規模のデータは他にありません。
論文の要約には、1日の学習利得の90%が1日30分の練習で達成された、と書かれています。結果の本文にある数字は、これより長くなります。49回のプレイ、およそ50分です。同じ論文の中で、要約と結果で数字が違います。ここでは長いほうの50分を取ります。伸びがいちばん大きいのは約75回で、時間にすると1時間15分ほど。そこを超えると増え方が鈍ります。
つまり、このゲームでは1時間を2時間にしても、伸びは2倍になっていません。9割を取り終えたあとに、残りの1割を取りにいく形です。同じ曲線がドラムにも出るかは、測られていません。それでも、練習を2倍にすれば伸びも2倍になる、という前提は置けなくなりました。私は毎日1時間から3時間叩いています。伸びがいちばん大きい1時間15分を、すでに超えている日があります。増やす案は、始める前から取り分の小さいほうを向いていました。
そのうえ、疲労は当日だけの問題ではありません。Branscheidt らが2019年に発表した研究では、疲れた状態での練習が学習そのものを損ない、その影響が2日から3日続いていました。起きたのは、指先の力を調節してカーソルを動かす課題です。頭で順番を覚える課題では起きていません。四肢で力を出し分けるドラムは、前者に近いほうだと思います。期待できるのが残りの1割で、下振れすると2日から3日の学習が落ちる。増やす案は、ここで捨てました。
夕方に叩けない人には、この話は使えない
ここまで挙げた研究に、ドラマーは一人も出てきません。Truong らの課題は指で鍵を打つもので、Listman らはエイムのゲームです。打楽器奏者の練習スケジュールを直接調べた実証研究は、見つかりませんでした。音楽で行われている実験も、電子ピアノの鍵盤系列の課題に限られています。セットを使ったドラムの練習は、四肢が別々に動き、体全体を使い、しかも疲労の出方が指の課題とは違います。そのまま当てはまる保証はありません。
もう一つ、当てはまらないかもしれない点があります。ここまで挙げた研究は、どれも1回だけ練習させて、その24時間後までを測ったものです。毎日1時間から3時間、何年も続けている人に同じことが起きるかは、測られていません。
そして、住環境の都合で夜に音を出せない人、日中しかスタジオに行けない人には、練習を夕方へ移すという選択肢自体がありません。その場合、この記事は使えません。
増やす前に、午前の分を夕方へ移す
判断の順番はこうなります。まず、その日の練習に午前の分が入っているかを見ます。次に、その午前の分を夕方へ移せるかを見ます。移せるなら、練習時間を増やす前にそちらを先にやります。
ここで動かしているのは、眠るまでの間隔の長さではありません。そこは30分と4時間を比べても差が出ていませんでした。動かすのは、練習が1日のどこに入っているかのほうです。午前に叩くと、そのあと起きて過ごす十数時間に別の動作が入ります。夕方へ移すと、その入る分が短くなります。
午前の分を夕方に足すと、1回の練習が長くなります。Listman らの数字で伸びがいちばん大きかったのは1時間15分ほどでした。移したあとの1回がそれを大きく超えるなら、超えた分は移さずに減らします。移すのは置き場所であって、長さではありません。
冒頭で私が考えていたのは、基礎練とコンビネーションを午前に、セット全体を夕方に置く配分でした。ここまで挙げた研究に、その配分を分けて測ったものはありません。分かったのは、何を午前に置くかではなく、午前に置いた分が翌日に残りにくいということだけです。決められるのは、午前の分を夕方へ移すかどうかだけでした。
根拠は、1群11〜12名の研究1本です。強い根拠ではありません。それでも、この変更に費用はかかりません。練習を1分も増やさず、体への負担も変わらず、動かすのは時刻だけです。私自身、この記事を書いた時点ではまだ試していません。試すのはこれからです。
翌日どれだけ残っているかは、翌日の練習のいちばん最初に測ります。前日に叩いたフレーズを1つ決めておきます。翌日、テンポを上げずに1分だけそれを叩いて、崩れずに続いた小節数を日付と一緒に書き留めます。前日の練習の最後にも同じ測り方をしておくと、2つの数字を並べられます。
もし午前中に叩いている分があるなら、来週の1週間だけ、それを夕方へ寄せてみてはいかがでしょうか。総量は変えずに、翌日の最初の数字だけを見ます。変わらなければ、いつでも元に戻せます。







