隠された真実を追うジャーナリストの深層心理には、何があるのか?

ジャーナリストを動かしているのは、好奇心と正義感だとよく言われます。ただ、何年もかけて1本の記事や1冊の本を書き、ときには訴えられても取材を続けられる理由は、この2つだけでは説明しきれません。

取材をしない側から見ると、ジャーナリストの取材は、かけた時間に見合わない仕事に思えます。さらに、訴訟されるリスクも伴います。私なら、気が滅入って途中で投げ出してしまうと思います。それでも続けられるのは、なぜなのでしょうか。

ここでは、好奇心と正義感の奥で何が働いているのかを、心理学と脳科学の研究から読み解きます。取り上げるのは、調査報道を長く続けるジャーナリストを何人か思い浮かべて書いたものです。誰か特定の個人を取り上げている記事ではありません。

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ジャーナリストは、好奇心と正義感をきっかけに取材を始める

ジャーナリストを語るときによく挙がるのは、「なぜ」を深く掘り下げる好奇心と、権力に屈しない正義感です。

この2つは、ジャーナリストが取材を始めるきっかけになります。何かがおかしいと気づき、確かめたいと思ったところで、ジャーナリストは動き出します。

ただ、取材を始めるきっかけと、何年も続けられる理由は、同じとは限りません。同じ相手を何年も追い、反論や訴訟を受けながら書き上げるには、途中で気持ちが切れないだけの別の理由が要ります。

不正を暴く自分に酔うだけなら、ジャーナリストは何年も取材を続けられない

ジャーナリストが取材を続ける理由としてまず思い浮かぶのは、不正を暴いている自分に酔っている、という見方です。ただ、自分に酔いたいだけなら、何年もかかる取材はかえって遠回りです。

取材する相手に会わず、外から批判を書くだけなら、書き手には、その日のうちに読んだ人から反応が返ってきます。相手の組織の中に入って事実を積み上げる取材では、記事が出るまで、誰からも反応がありません。そのうえ、記事を出したあとに訴えられることもあります。

ジャーナリストが、すぐに反応が返る書き方を選ばず、時間のかかる取材を選んでいる以上、自分に酔うこととは別の目的があるはずです。

ジャーナリストが取材を続けられるのは、隠された真実を否定できない形で示し、自分の信念を証明したいからだ

何年もかかる取材を支えているのは、隠された真実を、相手が否定できない形で世の中に示したい、という気持ちだと考えられます。それは、相手に勝つことより、自分の信念が正しかったことを自分で証明すること、つまり自己証明に近いと思います。外から書いた批判は、相手に「現場を知らない」「中身を見ていない」と言われれば、それで退けられてしまいます。中に入ってジャーナリストが自分で確かめた事実は、そうは退けられません。否定できない事実を積み上げることが、そのまま自分の信念の証明になります。

自分が大切にしている信念を確かめることが、脳の報酬の仕組みとつながっていることを示した研究があります。ペンシルベニア大学のCascioらが2016年にSocial Cognitive and Affective Neuroscience誌で報告した実験です。

  • 参加者は、あらかじめ家族、独立、創造性など8つの価値観に、自分にとって大切な順の順位を付けた
  • 一方の群は、自分がいちばん大切にしている価値観について考え、もう一方の群は、いちばん低い価値観について考えた
  • いちばん大切な価値観について考えた群では、報酬や価値の判断に関わる脳の部位(腹側線条体と腹内側前頭前野)が、より強く働いた

自分が大切にしている信念に向き合うことは、それだけで脳にとって報酬になります。真実を否定できない形で示すことは、その信念が正しかったことを、事実で確かめることでもあります。

ジャーナリストは、相手の社会悪の大きさより、相手が言い返す力の強さで、追う相手を選ぶ

ジャーナリストは、社会悪の大きい順に相手を追っているわけではありません。外から見ると、なぜもっと大きな不正を追わないのか、と不思議に思うことがあります。

ジャーナリストは、相手の社会悪の大きさより、相手が言い返す力の強さで、追う相手を選んでいるのだと思います。言い返す手段を持たない相手なら、真実を示しても、それを否定しようとする人がいません。自分の信念を証明できたという手応えも、ほとんど得られないはずです。

広報や弁護士を抱えた企業や、自分の発信の場を持つ人は、記事が出ればすぐに反論できます。権力や影響力のある相手ほど、その反論を受けても揺るがない形で真実を示したときに、自分の信念を証明できたという手応えは大きくなると考えられます。ここは、研究ではまだ確かめられていない推測です。

ジャーナリストは、真実を示しきった瞬間より、そこへ近づいていく途中で手応えを感じている

真実を示しきったときの気持ちよさには、ドーパミンが関わるとよく言われます。ドーパミンは、脳の報酬の仕組みの中で働く物質です。腹側線条体は、ドーパミンを受け取って働く部位の1つです。

Cascioらの実験では、大切な価値観について、過去の場面より、これからの場面を思い描いたときに、報酬に関わる部位の働きが強くなりました。人は、信念が報われた瞬間だけでなく、これから報われる場面を思い描く途中でも、報酬を受け取っていると考えられます。

何年もかかる取材の途中でも、ジャーナリストが事実を1つ確かめるたびに、相手が否定に使える材料は減っていきます。記事が出る前から、自分の信念の証明に近づいている手応えを感じられるので、ジャーナリストは途中で気持ちが切れにくいのだと思います。この手応えは、ジャーナリストにとって、金銭や報酬以上の価値を持つのだと思います。

ジャーナリストは好奇心で取材を始め、自分の信念を証明したい気持ちで取材を続ける

ジャーナリストは、好奇心と正義感から取材を始め、隠された真実を否定できない形で示して、自分の信念を証明したい気持ちで取材を続けています。隠された真実を追い続ける力は、正義感と並んで、自分の信念を自分で証明したい気持ちから来ていると考えられます。

あなたにも何年も続けていることがあるなら、それを続けさせている手応えは何でしょうか。一度、振り返ってみてはいかがでしょうか。

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