富士山の世界遺産登録には、夏の開山期間に来訪が集中し、登録時に求められた来訪者管理が課題になっているという問題があります。世界遺産は価値を保てなくなると登録を外されることがあり、2009年にはドイツのドレスデン・エルベ渓谷が、橋の建設で景観が損なわれたとして抹消されました。
しかし、富士山の夏の登山者数が最も多かったのは2010年の約32万1千人で、その後は減っています。2019年は約23万6千人、2024年は約20万4千人でした。
この記事では、登録時に求められたこと、登山者数の推移、対策の3案、来訪の時期をずらす方法を順に並べます。
登録時に世界遺産委員会が求めたのは、登山道の収容力の調査と来訪者管理
世界遺産委員会は2013年の決議で、上方の登山道の収容力を調べ、その結果をもとに来訪者管理戦略を作るよう求めました。富士山は同年6月22日に、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の名称で世界文化遺産に登録されています。
これを受けて、日本側は2014年12月に「ヴィジョン・各種戦略」を作りました。2016年の報告書には、2018年7月までに、登山道ごとの1日の登山者数を含む指標と望ましい水準を決める方針が書かれています(山梨県の保全状況報告書)。
山梨県は、登山鉄道構想の目的の一つに、イコモスから求められている人数制限への対応を挙げています(山梨県の質疑応答資料)。富士山について抹消の手続きを示す資料は、確認できた範囲にはありません。
夏の登山者数は2010年の約32万人が最多
環境省の2005年以降の集計では、夏の登山者数が最も多かったのは2010年の320,975人です。2019年は235,646人、2024年は204,316人でした。人数の面では、増え続けているとは言えません。
| 年 | 登山者数(人) | 集計の範囲 |
|---|---|---|
| 2009年 | 292,058 | 7月1日~8月31日、4登山道の8合目でのカウント合計 |
| 2010年 | 320,975 | 同上 |
| 2017年 | 284,862 | 各登山道の開山日から9月10日(または9月14日)まで |
| 2019年 | 235,646 | 各登山道の開山日から9月10日まで |
| 2024年 | 204,316 | 同上。御殿場ルートに欠測期間があり、実数はこれより多い |
集計の期間と方法が年によって違うため、数字を厳密に比べることはできません。出典は環境省の2010年の発表、平成29年までの集計、令和6年までの集計です。
山梨県が問題にしているのは、夏の開山期間に来訪が集中することです。県は登山鉄道構想の目的に、この集中をやわらげることと、通年で観光できるようにすることを挙げています。
対策は3案が挙がり、実施されたのは入山規制
山梨県は2024年11月18日に、富士スバルラインへの登山鉄道の整備を断念すると表明しました。2024年10月の中間報告で、黒字にするには年間300万人超の利用が必要との試算が示されたことが背景にあります(報道による)。
| 対策案 | 内容 | 人数を管理できる理由・できない理由 | 現状 |
|---|---|---|---|
| 登山鉄道(LRT) | 富士スバルラインに次世代型路面電車を走らせ、一般車の通行を制限する | 乗車定員と運行本数を決められる。20km以上の連続勾配や低温下での走行事例は世界になく、安全性は調査中だった | 2024年11月に断念を表明 |
| バス(EV化を含む) | 五合目までの輸送をバスで行う | 道路法上の道路では、道路交通法に定める理由がなければバスなどを規制できない。五合目が混雑しているという理由では交通量を制限できない | 県の資料はEVバスを個別に評価していない |
| 入山規制 | 吉田ルートで通行料の徴収、1日の人数の上限、夜間の閉鎖を行う | 1日の登山者が4000人を超えると、登下山道を閉鎖する | 2025年7月1日~9月10日に実施 |
2025年の吉田ルートでは、通行料が前年の2000円から4000円に上がりました。山小屋の宿泊予約がある人などを除き、14時から翌日3時までは登下山道が閉鎖されました(トラベルボイスの報道)。
来訪の時期を夏から他の季節にずらす方法
来訪者の集中をやわらげる方法の一つは、来訪の時期を夏以外の季節にずらすことです。山梨県は登山鉄道構想の目的に、通年観光の実現を挙げていました。
富士山を訪れる人に向けて、次の3つの取り組みが考えられます。
- 専門のガイドが、富士山の自然、地質、歴史、文化を解説するツアーを増やす
- 富士山信仰の歴史や環境保全を学ぶ講座を、入山前に提供する
- 登山シーズン以外の季節の魅力を発信する
ガイド付きツアー、講座、オフシーズンの発信が、登山者数や環境への負担をどれだけ減らすかを示した資料は、見つかっていません。人数の上限を決める仕組みと組み合わせる必要があると思います。
富士山の価値は、信仰、芸術、火山の3つの面にある
登録名は「信仰の対象と芸術の源泉」で、25の構成資産から成ります。ここに火山としての成り立ちを加えた3つの面から、価値を見ることができます。
信仰の対象としての富士山
かつて富士山は、噴火を繰り返す山として畏れの対象でした。富士講などの信仰集団が、富士山を人々に身近な存在にしました。構成資産には、人穴富士講遺跡が含まれます。
芸術の源泉としての富士山
葛飾北斎は、各地から見た富士山を「冨嶽三十六景」に描きました。この浮世絵は、海外の芸術家にも影響を与えたとされています。
火山としての富士山
富士山は約10万年前に小御岳火山の麓にでき、古富士火山と新富士火山の2世代の噴火を経て、現在の円錐形になりました。最後の噴火は、1707年の宝永大噴火です。
富士山に登る前に、通行予約と誓約を確かめる
2025年の吉田ルートでは、通行料を支払う前に、12項目の誓約への同意が必須でした。誓約には、防寒着・雨具・登山靴の準備、夜間登山をしないこと、ゴミの持ち帰りなどが含まれます。
規制の内容は年によって変わります。登る年の「富士登山オフィシャルサイト」で通行予約と誓約の内容を確かめ、混雑する時期と時間帯を避けた計画を立ててみてはいかがでしょうか。







