米国では、ChatGPTが公開されたあとに本人訴訟の割合が上がり、AIで書いたとみられる訴状も増えています。ただし、AIが本人訴訟を増やした要因だと確かめたデータは、まだありません。
米国では、ChatGPTの公開後に本人訴訟の割合が上がった
本人訴訟とは、弁護士を付けずに自分で訴えを起こし、裁判を進めることです。米国の連邦裁判所の民事事件について、2026年に公開された2つの研究が、同じ傾向を報告しています。以下のとおりです。
| 比べる点 | マイアミ大学のOr Cohen-Sasson氏の研究 | MITスローン経営大学院のAnand Shah氏と南カリフォルニア大学のJoshua Levy氏の研究 |
|---|---|---|
| 調べた事件 | 2008〜2025会計年度の連邦民事事件、約280万件 | 2005〜2026会計年度の連邦民事事件、450万件超 |
| 本人訴訟の割合 | ChatGPTの公開(2022年11月30日)より前は11.33%、公開後は16.94% | 長年の平均は約11%、2025会計年度は16.8% |
| AIで書いたとみられる訴状 | 公開後の訴状(書式に記入するだけのものを除く)の13.9% | 2019〜2026年の訴状1,600件のうち、2026年分の18%超 |
2つの研究とも、本人訴訟の割合は約11%から約17%に上がったと報告しています。Cohen-Sasson氏の研究では、2025会計年度の最後の3か月に22.30%まで上がっています(Cohen-Sasson氏の論文、Shah氏とLevy氏の論文)。
増えたのは、書式が決まった種類の訴え
本人訴訟の割合は、事件の種類によって増え方が違います。Shah氏とLevy氏によると、増えたのは書式が決まった種類の訴えで、弁護士の手間が多くかかる複雑な訴えでは増えていません。
Cohen-Sasson氏の研究でも、増え方が大きかったのは、差別などを訴える公民権の事件(28.16%から35.60%)と、個別の法律にもとづく事件(11.23%から19.51%)でした。AIで書いたとみられる訴状を出した人は、79.4%がその研究のデータに初めて名前が出てくる人で、そうでない訴状の70.2%より多くなっていました。
AIで書いた書面は、実際に裁判所へ提出されている
AIで書いた書面が裁判所に提出されていることは、書面の誤りを集めたデータでも確かめられます。AIが存在しない判例を作り、それが裁判の書面に載った事例を集めたデータベースには、2026年6月はじめの時点で米国の事例が1,058件あり、約6割が本人訴訟でした。データベースを作ったのは弁護士のDamien Charlotin氏です(ノースカロライナ大学ロースクール図書館のまとめ)。
研究者自身は、AIが要因だとは特定していない
2つの研究で分かるのは、ChatGPTの公開の前と後で本人訴訟の割合が変わったところまでです。
Cohen-Sasson氏は、論文の中で、本人訴訟の増加の要因がAIだとは特定していないと書いています。増えた仕組みも、この研究の設計では切り分けられないとしています。
AIで書いたかどうかの判定も、文の長さのばらつきや、AIがよく使う語の多さから推定したものです。訴えた人がAIを使ったかを、本人に確かめたものではありません。
要因だと言うには、AIを使えた人と使えなかった人を比べるなどして、同じ時期に起きたほかの理由を外す必要があります。
英国と日本の統計は、訴えた人がAIを使ったかを数えていない
米国のほかに、本人訴訟の数が分かる国の統計も見てみます。英国の雇用審判所(解雇や賃金の争いを扱う機関)では、2026年4〜6月に1人で出した申立てが、前年の同じ時期より28%増えました。ただ、英国司法省は代理人が付いているかどうかの統計の公表を止めているので、本人の申立てが増えたかは統計から確かめられません(英国司法省の統計)。
日本の地方裁判所の民事事件では、原告に弁護士が付いていない事件の割合が、2022年から上がっています。以下のとおりです。

日本では、原告に弁護士が付いていない事件の割合は2022年の10.4%から2025年の12.0%に上がりましたが、2019年の11.5%とほぼ同じ水準です。数字は、地方裁判所の第一審の民事通常訴訟で終わった事件を、最高裁判所が弁護士の付き方別に数えたものです(最高裁判所の司法統計)。日本でも、AIを使った訴えを数えたデータはありません。
要因がAIだと確かめたデータは、まだない
ここまでで言えるのは、米国では本人訴訟の増加とChatGPTの公開の時期が重なり、AIで書いたとみられる訴状も増えた、というところまでです。米国、英国、日本のどれにも、AIが要因だと確かめたデータはまだありません。
「AIで訴訟が急増」というニュースを見かけたら、その数字が訴えの件数なのか、本人訴訟の割合なのか、AIで書いた訴状の割合なのかを、確かめてみてはいかがでしょうか。







