任せた仕事を結局自分で見直してしまうのは、何を合格とするかの基準が自分の頭の中にしかないからです。相手は納品する前に合否を自分で確かめられないので、最後の判定を毎回自分がすることになります。
しかし、相手を信じて任せ、一部の仕事から渡し、進捗を報告してもらう仕組みも作ったのに、確認の時間だけは減らないと感じている方もいるでしょう。
この記事では、確認の時間が減らない理由、100年前の工場で同じ問題がどう解かれたか、基準を書き出せる仕事の見分け方を順に説明します。
任せる量が増えると、確認する回数も同じだけ増える
仕事を任せる費用が下がると、頼む量が増え、返ってきたものを確認する回数も同じだけ増えます。確認は自分の時間で行うので、確認にかかる費用は下がっていません。
外注先やAIに作業を任せる費用は、以前より下がりました。どこまで下がったかは道具と仕事の内容で変わるので、ここでは扱いません。
費用が下がれば、1本だった依頼を5本にし、1日1回だった依頼を1日5回にできます。そのぶん、返ってきたものを見る回数も5倍になります。
任せる量を増やすほど、自分が確認する時間も増えます。費用が下がったのに楽にならないと感じる理由は、ここにあると思います。
合格の基準は、たいてい自分の頭の中にしかない
確認が自分の仕事として残るのは、何を合格とするかを知っているのが自分だけだからです。ここで言う基準は、ここより上なら通し、ここより下なら差し戻す、という判断の境目のことです。
長く同じ仕事をしていると、資料を1枚めくっただけで「これは違う」と3秒で分かるようになります。
3秒で判断できることほど、言葉にされていません。書かなくても自分は判断できるので、書き出す必要を感じないからです。
頭の中にある基準は、自分がその場で見るときにしか使えません。
基準が書かれていないと、相手は出してみるまで合否が分からない
基準が言葉になっていないと、相手は提出してみるまで合格かどうかを知ることができません。そのため、1回目を出して直され、2回目を出して別の箇所を直される、というやり取りが続きます。
相手からは、こちらの基準が毎回変わっているように見えます。実際には変わっていなくても、基準が書かれていない以上、相手には区別がつきません。
このやり取りは、任せる相手が人でもAIでも起こります。優秀な人に頼んでも、性能の高いAIに替えても、基準が自分の頭の中にある限り、最後の判定は自分がすることになります。
「任せる」には、作業を渡すことと、合否の判定を渡すことの2つがあります。多くの場合に渡せているのは、作業のほうだけだと思います。
1924年、シューハートは検査員の勘に頼らない合否の判定方法を作った
同じ問題を100年前の工場で解いたのが、米国の物理学者ウォルター・A・シューハートです。彼は、良し悪しの判定を検査員の判断から外し、工程の数値が決めた範囲に入っているかどうかで判定する方法を作りました。
シューハートは1918年、ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で検査技術部門に入りました。ウェスタン・エレクトリックは、AT&Tの製造部門にあたる会社です。当時の工場は、できあがった製品を検査し、不良品を取り除くことで品質を保っていました。
作らせてから見て、悪いものを取り除くやり方は、外注先やAIに仕事を任せて、返ってきたものを見直すいまのやり方と同じ形です。
1924年5月、シューハートは1ページほどのメモを書きました。上司のジョージ・D・エドワーズは、そのメモに描かれた図と文章に、工程の品質管理の基本的な考え方がすべて書かれていたと振り返っています(セント・アンドルーズ大学 MacTutor)。この図が、のちに管理図と呼ばれるものです。
管理図を使うと、判定する人が誰でも同じ結論になります。シューハートはこの方法を1931年の著書『Economic Control of Quality of Manufactured Product』にまとめ、1950年からはW・エドワーズ・デミングが日本の企業向けの講習で広めました。
判定の基準を紙に書き出したことで、品質の確認は検査員の勘に頼らなくなりました。
基準を書き出して渡すと、相手が納品前に自分で確かめられる
基準を書き出すと、確認は「おかしな箇所を探す作業」から「項目と照らし合わせる作業」に変わります。同じ紙を相手に渡せば、相手も納品する前に同じ項目を確かめられます。
基準が頭の中にあるうちは、どこかにおかしな箇所があるはずだと考えて全体を見ることになります。何を見ればよいかが決まっていないので、確認にかかる時間も見積もれません。
基準が書き出されていれば、書いてある項目を上から順に確かめるだけなので、どこで終わるかが分かります。
書き出した基準は、そのまま相手が自分で確かめるためのチェック表になります。渡す先が外注先でも、部下でも、AIへの指示書でも、使い方は同じです。相手が自分で直してから出すので、差し戻しの回数が減ります。
書き出せない基準の仕事は、最後まで自分で確認することになる
すべての基準を書き出せるわけではありません。書き出せる基準の仕事は判定ごと任せられますが、書き出せない基準しかない仕事は、量が増えても自分で確認し続けることになります。
| 観点 | 書き出せる基準 | 書き出しにくい基準 |
|---|---|---|
| 例 | 誤字がないか、表示される秒数、必要な項目が入っているか | この企画は面白いか、この文章は自社らしいか、この判断は筋が通っているか |
| 書き方 | 数値や位置で書ける | 書こうとすると手が止まる |
| 任せ方 | 判定ごと任せられる | 最後の確認を自分で行う |
書き出しにくいのは、良し悪しの根拠が、その場の事情、それまでの経緯、関わる人の顔ぶれによって決まるからです。そうした事情ごと伝えなければ同じ判断はできないので、1枚の紙には書ききれません。
2種類の仕事を分けないまま任せる量を増やすと、量に比例して自分の確認時間も増えます。先に仕事を2種類に分けておけば、任せる量を増やすのを書き出せる基準の仕事に限れるので、自分の確認時間は増えにくくなります。
書き出せるかどうかは、合格と不合格の実物を2つ並べると分かる
基準を書き出せる仕事かどうかは、合格した実物と不合格だった実物を並べ、違いを相手が同じ判定をできる言葉で書けるかで分かります。書けたなら、その仕事は判定ごと任せられます。
並べてみても「なんとなくこちらのほうが良い」としか書けなかったなら、その仕事の判定はまだ任せられません。
この方法は、基準を思い出さなくても始められます。過去の納品物は手元に残っているので、合格にした1本と差し戻した1本を出してくるだけで済みます。頭の中から基準を思い出そうとしても、何も出てこないことが多いと思います。
一度書き出した基準は、担当者が替わっても、使う道具が新しくなっても、そのまま使えます。任せた仕事の成果物は1回ごとに終わりますが、基準を書いた紙は次の依頼にも使えます。
よくある疑問
Q:外注やAIに仕事を任せているのに、確認の時間がまったく減りません。何を変えればよいでしょうか。
A:合格かどうかを決める基準を、相手が読める形にすることです。基準があなたの頭の中にしかないと、相手は出してみるまで正解が分からないので、差し戻しのやり取りが起きます。まず、最近合格にした成果物と差し戻した成果物を1つずつ並べ、違いを、相手が読んで同じ判定ができる言葉で書き出してみてください。書けた項目はチェック表にして相手に渡し、納品前に確かめてもらいます。書けなかった項目は、当面あなたが確認する部分として残します。
任せられる仕事とは、自分がいなくても合否が決まる仕事である
任せた仕事を結局自分で見直してしまうのは、合格の基準が自分の頭の中にしかなく、自分にしか使えないからです。作業は渡せても、合否の判定を渡せていないので、最後の確認を自分がすることになります。
1924年にシューハートが行ったのは、良し悪しの判定を検査員の判断から外し、誰が見ても同じ結論になる方法に置き換えることでした。作らせてから見るやり方を続ける限り、確認する人の時間は減りません。
基準を書き出すには時間がかかりますが、かかるのは最初の1回です。頭の中に置いたままにすると、任せるたびに確認の時間がかかり続けます。
あなたがいま任せている仕事のうち、合格と不合格の違いを紙に書けるものは、何割あるでしょうか。







