通知を切りました。画面をグレースケールにしました。SNSのアプリをホーム画面から外して、フォルダの奥にしまいました。夜は寝室に持ち込まないと決めました。それが3週間後には、全部元に戻っている。
よく言われる答えは、だいたい3つです。意志が弱いわけではない。環境を変えたほうがいい。代わりにやることを用意しておく。どれも間違っていないと思いますし、私も一通り試しました。
この記事が立てる問いは、その先にあります。環境を変えたはずなのに、なぜその環境のほうが元に戻ってしまうのでしょうか。
スクリーンタイムも通知オフも、あなた自身が1分で元に戻せる
並んでいる対策を見ていくと、一つの共通点があります。
通知をオフにするのは設定アプリのスイッチで、画面をグレースケールにするのもアクセシビリティの中のスイッチです。アプリをホーム画面から外すのは、アイコンを長押しして1回タップするだけの操作です。スクリーンタイムの時間制限も、同じ設定アプリの中にあります。
どれも、1台のスマホの中で完結しています。
そして、どれも同じ場所から取り消せます。設定アプリを開いてスイッチを戻すだけなので、かかる時間は1分もありません。スクリーンタイムのパスコードを決めたのはあなたですし、ホーム画面から外したアプリも検索すれば出てきます。
寝室に持ち込まないという決まりも同じです。持ち込まないと決めたのはあなたで、今夜持ち込むかどうかを決めるのもあなたです。廊下を歩けば、そこにスマホがあります。
これらの対策には、取り消しの手続きがありません。誰かの承認も、相談する相手も要りません。あなたが決めて、あなたが取り消して、それで終わります。
疲れている夜、あなたは自分で決めた制限を自分で解除する
制限を決めるときと、制限を破るときでは、あなたの状態が違います。
決めるのは、たいてい調子のいい日です。今日から変えようと思った日、休みが明けた日、何かを読んでなるほどと思った日。そのときのあなたには、まだ余力があります。
破るのは、疲れた日です。仕事で消耗した日、うまくいかなかった日、誰かに何かを言われた日。そのときのあなたに残っているものは、多くありません。
ここからは私の解釈です。学説として確立された議論ではありませんので、そのつもりで読んでください。
制限を守るという行為は、毎日続く判断だと思います。一度決めれば終わりではなく、その端末を手に取るたびに、開かないという判断をしています。判断の回数は、1日に何十回にもなります。
一方、制限を取り消す行為は1回で終わります。設定を開いてスイッチを戻す、それだけです。
守るには何十回の判断が要るのに、やめるには1回で足ります。この差が続く限り、いつか1回のほうが勝つのではないでしょうか。負けた日があったとしても、それがあなたの弱さを示しているわけではないと思います。
スマホを2台に分けると、アプリに届くまでに立ち上がる必要が出る
私が試したのは、設定を変えることではなく、置き場所を変えることでした。
2台目のiPhoneを買いました。中古のiPhone 15 Proで、128GBのSIMフリー、価格は86,200円でした。
いま普段持ち歩いているのは、この2台目のほうです。入っているのはブラウザとAIと、削除できない標準アプリだけで、Chromeも削除しました。SNSも動画も入っていません。
これまで使っていた1台目には、これまでどおり全部入っています。そちらは夜になると机の棚の中にしまい、扉を閉めて視界から消します。
違いは1点だけです。設定を変えたのではなく、アプリを別の物体に移しました。
手元の端末には、そのアプリが存在しないので、設定を戻しても出てきません。入れ直すという手はありますが、そこまでするなら棚を開けたほうが早い。つまり、どちらにしても椅子から立つことになります。
立ち上がる。棚まで歩く。扉を開ける。端末を取り出す。ロックを解除する。この5つの動作のあいだには我に返る余地がありますが、設定のスイッチを戻す1秒には、その余地がありません。
なお、iPhoneには消せないアプリがあります。電話、メッセージ、カメラ、写真、設定、App Storeは削除できません。Safariもかつては同じ扱いでしたが、日本では2025年12月のスマートフォンソフトウェア競争促進法への対応として、iOS 26.2以降は削除できるようになりました。
iOS 18以降には、アプリを非表示フォルダに入れてFace IDで守る機能もあります。ただしこれはApp Storeから入れたアプリに限られ、標準アプリはFace IDでロックするところまでで非表示にはできません。ホーム画面から取り除いてAppライブラリだけに残す、というのが上限になります。
アプリを全部消したスマホを持つと、不便な日にあなたが元のスマホを取り出す
端末を分けたあとに、もう一つの失敗が待っています。
分けるなら徹底したほうがいいと考えて、ブラウザまで消したくなります。私も一度考えました。ブラウザがあれば、そこから何でも見られてしまうからです。
しかし、そうすると生活が回らなくなります。
出先で乗り換えを調べられない。店の営業時間が分からない。届いたリンクを開けない。地図が見られない。どれも、その場ですぐ必要になるものです。
必要になったとき、あなたは棚を開けて、1台目を取り出します。
そして一度取り出したら、その日はもう戻しません。調べ物が終わったあとに、ついでに通知を確認します。ついでに1件だけ返信して、ついでに動画を1本見ます。夜が終わるころには、分ける前と同じ状態に戻っています。
崩れた原因は、我慢が足りなかったことではなく、不便が発生する設計にしたことです。完全に断つ設計は、調子のいい日にしか成立しません。逃げ道を残すことは甘さではなく、続けるための条件だと思います。
手元のスマホに残していいのは、終わりがあるアプリだけ
では、手元の端末に何を残せばいいのでしょうか。
私が残したのは、ブラウザとAIです。基準にしたのは内容が有益かどうかではなく、使い終われるかどうかでした。
調べ物には終わりがあります。乗り換えが分かれば止まりますし、営業時間が分かれば止まります。AIとのやりとりも同じで、聞きたいことが片付けば、続ける理由がなくなります。
フィードには終わりがありません。スクロールすると次が出てきて、動画が終わると次が再生されます。読み終わったという状態が来ないように作られていて、作っている側にとっては、それが収益の条件だからです。
同じサービスでも、入口によって形が変わります。
アプリ版のYouTubeでは、おすすめもショート動画も外せません。ブラウザ経由なら外せる場合があります。Braveの場合、設定からShields & Privacy、Content Filteringと進み、YouTube Anti-Shortsを有効にすると、ショート動画が表示されなくなります。
ホーム画面のおすすめ動画を消す設定については、iOSで機能しなくなったという報告が2026年1月に開発元のコミュニティへ投稿されています。環境によって挙動が違うようなので、事実として断定はできません。ご自身の端末で確かめていただくのが確実です。
私がブラウザを残しているのは、抜け穴としてではなく、アプリ版では外せない部分を外すためです。ブラウザから見たほうが、見ている時間は短くなります。
スマホを2台持つと、費用も手間も増える
公平を期すために、逆側も書きます。
まず費用です。私の場合は86,200円でした。中古であっても、安い買い物ではありません。
次に手間です。充電器が2つ、ケーブルも2本要ります。出かけるときはどちらを持つかを毎回決めることになりますし、両方持てば荷物も重くなります。
連絡も分かれます。電話は1台目にかかってくるので、棚にしまっている時間帯は着信に気づきません。仕事で急な連絡が来る立場の方には、この時点で向かない方法です。
そして、いちばん起こりやすい失敗があります。2台目のほうが、だんだん常用機に育っていくことです。
ブラウザのブックマークが増えて、よく見るサイトが決まってきます。気づくと、2台目を無意識に触っています。ここまで来たら、同じ問題が場所を変えて再発しているだけです。ブックマークが増えてきたら、それがサインだと考えています。
この方法を、誰にでも勧めるつもりはありません。1台で足りている方は、1台のままがいいと思います。
判断基準は、そのアプリに終わりがあるかどうか
ご自身の端末に当てはめるとき、三つの点を見てみてください。
一つ目。そのアプリは、あなたが自分で閉じなければ終わりませんか。
二つ目。そのアプリから、通知が届きますか。
三つ目。一つ見終わったあと、次が自動で始まりますか。
三つとも当てはまるものは、無意識に触る端末には置かないほうがいいと思います。当てはまらないものは、置いていても時間を持っていきません。
端末を2台にできない場合でも、考え方は使えます。機種変更で余った端末や、家族が使わなくなった端末があれば、SIMを入れなくても分けられます。それも難しければ、いま持っている1台から終わりのないアプリだけを消して、見るときはブラウザから開く。これだけでも、たどり着くまでの手数が増えます。
スマホ依存という言葉をよく見かけますが、ここまで書いてきたのは、あなたの性質の話ではありません。アプリの置き場所の話です。ただ、眠れない日が続いている、仕事や学校に行けない、離れようとすると強い不安が出る。そうした状態が2週間以上続いているなら、それはこの記事の話ではありません。医療の領域なので、専門家に相談することを検討してみてください。
よくある疑問
Q:スマホを2台持つと、かえって触る時間が増えませんか。
A:増える可能性はあります。目的は台数を減らすことではなく、無意識に手が伸びる端末の中身をなくすことです。手元の端末を触っても数十秒で用が終わるなら、時間は減ります。逆に2台目にアプリを足していくと、同じ状態が場所を変えて戻ってきます。
Q:スクリーンタイムやアプリの制限では足りないのでしょうか。
A:足りる方もいます。ただ、その制限を取り消す操作が自分の指先で完結する以上、疲れた日には取り消せます。取り消すのに立ち上がる必要がある形にすると、同じ制限でも続きやすくなります。
Q:電話アプリだけを消すことはできますか。
A:できません。iPhoneでは電話アプリを削除できない仕様です。ホーム画面から取り除いてAppライブラリだけに残し、Face IDを必要にする設定を加えると、無意識に開く経路は塞げます。着信は通常どおり届きます。
決めるのは、我慢の量ではなく、手元に何を置くか
スマホを見てしまうことを意志の問題として扱っている限り、対策は毎日の判断として実装されます。判断は疲れると鈍りますし、鈍った日には1回のスイッチ操作で全部が戻ります。
対策を続けるために必要なのは、我慢を増やすことではないと思います。取り消すときに、立ち上がらなければならない形にすることです。
そのうえで、全部を取り上げないこと。取り上げると不便が発生し、その不便を解消するために元の端末を出すことになります。
だから、手元に何を残すかを選ぶ必要があります。私が使っている基準は、終わりがあるかどうかです。用が済めば止まるものは残し、止まらないように作られているものは別の場所に置く。
いま手元にあるスマホの中で、あなたが自分で閉じなければ終わらないアプリは、どれでしょうか。