AIのアルゴリズムは、動画や商品の候補を利用者ごとに絞ることで、私たちの選択に影響しています。AIの進化に漠然とした不安を感じるのは、自分で選んだつもりの選択肢が、サービスによって先に絞られているからです。
しかし、候補が絞られていても、最後に選ぶのは自分自身です。それでも影響があると言えるのか、と疑問に思う人もいるでしょう。
この記事では、判断の拠り所の移り変わり、アルゴリズムが候補を絞る仕組み、その先に起こりうる格差、自分で選ぶための方法の4つを順に説明します。
宗教と科学は、人間の判断の拠り所を変えてきた
人間が判断の拠り所にするものは、時代ごとに変わってきました。自然、宗教の教え、科学という順に、拠り所が移っています。
アニミズム:自然物に霊がいるとみる信仰
アニミズムは、木や岩、風や雨のような自然物や自然現象に霊がいるとみる考え方です。この語は、人類学者のエドワード・タイラーが1871年の『原始文化』で広めました。
一神教:教えに沿って暮らす社会
中世ヨーロッパでは、キリスト教が社会の中心にあり、人々は教義や戒律に沿って暮らしました。宗教は、人々の行動の規範になり、社会の秩序を支える役割を担いました。
科学は、人間に問題を解決できるという自信を与えた
近代に入ると、人間は科学技術の発展によって、神の御業とされてきた疫病や日食の原因を説明できるようになりました。科学は、病気や飢え、情報不足といった問題を、人間の手で解決できるという自信を与えました。
- 医学:祈るしかなかった病に、治療で対応できるようになった。
- 農業技術:飢えを、計画的な生産で減らせるようになった。
- 通信技術:世界中の情報を、すぐに手に入れられるようになった。
アルゴリズムは、見るものと買うものの候補を絞っている
YouTubeやAmazonは、利用者ごとに表示する候補を変えています。候補が絞られるぶん、私たちが選べる範囲は、先にサービスによって決められています。
- YouTube:視聴履歴、検索履歴、登録チャンネル、高評価などをもとに、おすすめの動画を出す。
- Amazon:購入履歴をもとに、その商品と一緒に買われやすい商品を出す。
YouTubeもAmazonも、利用者の視聴や購入の記録を使って、次の候補を絞ります。記録が増えるほど、候補は利用者に合わせて変わります。
予測:AIを持つ側と使われる側に、見えない格差が生まれる
AIとアルゴリズムを開発し所有する少数の事業者と、その結果を受け取る大多数の利用者の間で、情報と判断力の格差が広がる可能性があります。
| 層 | 起こりうる状態 |
|---|---|
| 開発・所有する側 | 少数の事業者が、AIとアルゴリズムを持ち、社会のインフラや経済、情報に影響を与える力を持つ。 |
| 使われる側 | 大多数の利用者の行動や思考が記録され、最適化されたアルゴリズムが示す選択肢の中で選ぶようになる。自由に選んでいる感覚は残るが、選択肢はアルゴリズムが示したものに限られる。 |
この未来で問題になるのは、アルゴリズムに選択肢の範囲を決められていても、利用者が気づきにくいことです。自分の意思で決めている感覚だけが残り、個人の自由や尊厳が少しずつ損なわれる危険があります。
自分で選ぶために、どんな情報をどれだけ受け取るかを自分で決める
対策は、情報を受け取る量と順番を自分で決めることです。おすすめに任せて受け取る情報は、アルゴリズムが選んだ範囲に限られます。
外から受け取る情報をわざと減らし、自分の考えを確かめる時間を作ることが、アルゴリズムが示す候補だけで選ばずに済む方法です。
- 受け取る量を減らす:スマートフォンやPCから離れ、通知や情報が入らない時間を作る。
- 自分の考えを書く:日記を書く、瞑想するなどして、自分が何を感じ、何を考えているかを確かめる。
- 一次情報に当たる:加工されたニュースより、原典、論文、書籍といった体系的な知識に触れる。
- 設定を使う:YouTubeでは、視聴履歴をオフにして削除でき、「興味なし」でおすすめを変えられる。
アルゴリズムが予測できるのは、利用者が過去にした行動の続きになる未来です。自分で確かめて決めた新しい目標は、過去の行動からは予測できません。
次の行動を自分で選んだのか、考え直してみてはいかがでしょうか
次に動画を開いたり商品を買ったりする前に、一度手を止めてみてください。
そのときの選択は、自分が決めたものでしょうか。サービスが先に絞った候補の中から選んだだけでしょうか。この問いを持つことが、選ぶ主導権を自分に戻す最初の一歩です。





