ハイハットの高さは好みで決まらない。肩が上限を、左手が下限を決める

ハイハットの高さの目安を調べると、スネアの打面から15〜20cm、握りこぶし2個分から3個分、座ったときのみぞおちのあたり、といった数字にたどり着きます。その数字に合わせてみたのに、刻み続けていると肩が張る、握力のほうが先に切れる、速いテンポになると余裕がなくなる。そして解説の多くは、高さは好みなので自分に合うところを探してください、という一文で終わります。

私自身、長いあいだその「好み」という言葉の前で止まっていました。数字は手に入るのに、その数字が何によって決まっているのかが分からないので、自分の身体で判断できないままだったのです。

この記事が立てる問いは一つです。ハイハットの高さに正解がないのではなく、上限と下限がまったく別の理由で決まっていることが説明されていないだけではないか。以下では、その二つの壁を分けて示し、最後にあなた自身の帯を測る手順をお渡しします。

目次

ハイハットの高さは、独立して決める数値ではない

ハイハットの高さは、単独で決める値ではなく、椅子とスネアが決まって初めて決まる従属変数です。椅子の高さが変われば肩の位置が変わり、スネアの打面高が変われば右腕が左腕を越える地点が変わります。ですから、ハイハットの高さだけを先に決めることは、原理的にできません。

セッティングの順序としては、椅子を決め、スネアの打面高と角度を決め、そのあとでハイハットの高さに手をつける流れが理にかなっています。多くの解説がスネアの打面を基準に語るのは、この順序を踏まえているからだと考えられます。

ただし、基準が一つでは足りません。高すぎるかどうかを決めているのは肩であり、低すぎるかどうかを決めているのは左手であって、この二つは別の場所にあります。ハイハットの高さとは、決める数値ではなく、性質の違う二つの制約に挟まれて残った帯のことです。

上限を決めているのは肩の挙上角である

高すぎるかどうかは、シンバルの位置ではなく、そのとき自分の上腕が何度上がっているかで判断できます。ハイハットを高くするほど、右腕を体側から持ち上げたまま保持することになるからです。

この角度には、産業衛生の分野で積み上げられた知見があります。カナダのウォータールー大学CRE-MSDが公開しているKayla M. FewsterとClark R. Dickersonによるポジションペーパー「Overhead Work – Reduce the Injury Risk」(2021年4月更新)は、肩峰下腔が腕の挙上60〜90度で最も狭くなること(Flatow et al., American Journal of Sports Medicine, 1994/Bey et al., Clinical Biomechanics, 2007)、インピンジメントが95〜106度の範囲で最も多く起こること(McFarland et al., Journal of Shoulder and Elbow Surgery, 1999)を挙げ、上腕は挙上60度未満に保つことを推奨しています。同ペーパーは、肩まわりの筋が挙上60度を超えると効率を落とすことにも触れています。

ここで一点、事実と解釈を分けておきます。上の数値は工場や建設の作業姿勢を対象にした研究から導かれたものであり、ドラム演奏を測ったものではありません。演奏へ当てはめることは私の解釈です。ただし刻みは数十分にわたって同じ姿勢を保ち続ける動作であり、負荷のかかり方は持続的な作業に近いと考えられます。肩は、力の強さよりも、上がっている時間の長さで疲れていきます。

下限を決めているのは左手の通り道である

低すぎるかどうかは、右前腕が左手の上を無理なく通過できるかどうかで決まります。右手が左手の上を越える一般的なクロスの構えでは、右前腕は左手の甲とグリップ、そして左手のストローク幅の上を通ることになるからです。

この下限は、スネアの打面から15cm前後になることが多いと私は見ています。ただしこれは左手の厚みとストローク幅から構造的に導いた数値であって、研究に裏づけられた値ではありません。リムショットを多用する方は左スティックが振り上がる分だけ余裕が要り、ゴーストノート主体の方はもう少し詰められる、という形で人によって動きます。

見落とされやすいのは、下限を割ったときに何が起きるかです。右前腕が通らなくなると、人は無意識に右肘を体の横へ張り出して逃げ道を作ります。つまり、下限を割ると、下げたはずの肩がかえって上がります。低くしたのに楽にならなかったという経験は、この逆転で説明できる場合があります。

上限と下限のあいだが、あなたが選べる帯である

数値を借りるのではなく、自分の身体で二つの壁を測ってしまえば、あとは迷う必要がなくなります。測る順序は、下限が先です。下限のほうが物理的にはっきりしていて、迷いが少ないからです。

下限は、右前腕が左手をかすめる位置で見つかる

椅子に座り、普段どおりの構えで8分を刻みながら、ハイハットを少しずつ下げていきます。右前腕が左手やスティックに触れる、あるいは触れそうで気になる、と感じた位置が下限です。そこから2〜3cm戻したところが、あなたの床になります。

このとき、右肘が体の横へ逃げていないかを確かめてください。肘が開き始めたら、下限をすでに割っています。測るときはハイハットを開いた状態で行うほうが確実です。閉じた状態を基準にすると、開いたときに左手と近づきすぎるためです。

上限は、正面から見た肩の高さで見つかる

次に、鏡かスマートフォンの録画で、刻んでいるときの自分を正面から見ます。右肩が左肩より明らかに持ち上がっていれば、それが上限を超えたしるしです。感覚ではなく見た目で判断するのは、肩が上がっている状態は本人には自然に感じられてしまうからです。

肩の高さが左右で揃い、上腕が体側から大きく離れていない範囲。それが天井です。この床と天井のあいだに、多くの場合5〜10cm程度の幅が残ります。

好みで決めてよいのは、この帯の中だけである

帯の中でどこを選ぶかは、たしかに好みの領域です。パワフルに振り抜きたければ帯の上のほう、細かい刻みを丁寧に置きたければ下のほう、といった選び方が考えられます。既存の解説が語ってきた「好み」は、本来この幅の中の話です。

言い換えれば、好みで決めてよいのは、上限と下限を測ったあとに残る幅の中だけです。測らないまま好みで決めると、床を割るか天井を突き抜けるかのどちらかが起こり、そのどちらでも肩に負担が残ります。

握力が先に消耗するとき、高さだけが原因とは限らない

刻んでいると握力のほうが先に切れる、という消耗には、高さとグリップという二つの入口があります。片方だけを疑うと、対処が空振りします。

握力と肩が結ばれていること自体には、根拠があります。Sporrong H、Palmerud G、Herberts Pによる研究「Influences of handgrip on shoulder muscle activity」(European Journal of Applied Physiology and Occupational Physiology, 1995年, 71巻, 485〜492頁)は、握力を発揮したときに棘上筋の筋電位が上がり、その増加が上腕挙上60度以上で統計的に有意になることを示しました。握力と肩は、別々の場所にある別々の問題ではありません。

ただし、この研究が示しているのは握力から肩への方向です。腕が上がっているほど握力の消耗が増える、という逆方向は、私自身の実感からの推測であって、この研究が裏づけたものではありません。仮説として受け取ってください。

下げても残る消耗は、グリップの支点を疑う

ハイハットを下げてもなお握力の消耗が残る場合、原因はグリップ側にある可能性が高くなります。親指と人差し指のあいだを支点として、残りの指は添えるだけ、という持ち方ができていないと、スティックを握り込んで支え続けることになるからです。

握り込みの癖は、速いテンポほど表面に出ます。高さを変えたあとは、まず遅いテンポで支点の感覚を確かめてから、少しずつ上げていく進め方が有効だと考えられます。

痛みが出ているときは、セッティングの話ではない

ここまで扱ってきたのは、演奏後に残る張りや消耗といった疲労の話です。ドラマーの不調が腱鞘炎や肩の痛みという形で現れることは珍しくなく、しびれ、夜間の痛み、腕が上がらないといった状態は、セッティングの調整で扱える範囲を越えています。

そうした症状がある場合は、高さを何cmにするかを考える前に、整形外科や、演奏者の身体を診た経験のある専門家に相談することを検討してみてはいかがでしょうか。セッティングは、疲労を軽くする手段ではありますが、痛みへの答えではありません。

よくある疑問

Q:ハイハットの高さの目安は何cmですか。
A:スネアの打面から15〜20cm程度が、一般的な目安として広く紹介されています。ただしこの数値は多くの人の平均であって、あなたの正解ではありません。上限は肩が上がらない高さ、下限は右前腕が左手の上を通れる高さで、この二つを自分で測ると、多くの場合5〜10cm程度の幅が残ります。その幅の中から演奏スタイルに合わせて選ぶ、という順序が現実的です。

Q:ハイハットは低いほうが疲れませんか。
A:下限までは、低いほど楽になる傾向があります。腕が体側に落ちるほど、肩を持ち上げたまま保持する負担が減るからです。ただし下限を割ると、右前腕の通り道を確保するために右肘が横へ張り出し、肩の角度がかえって上がってしまう場合があります。低いほど良い、ではなく、下限のある片側優位だとお考えください。

Q:刻んでいると肩が張るのですが、高さを下げれば解決しますか。
A:軽くなる可能性は高いと考えられます。肩の張りは、腕を持ち上げたまま保ち続けることで生まれる持続的な負荷が主な原因だからです。ただし握力の消耗が同時にある場合は、グリップの支点も併せて見直すほうが確実です。しびれや夜間の痛みがある場合は、セッティングの問題として扱わず、専門家に相談してください。

ハイハットの高さは、これから叩ける年数を決める

数cmの調整の話が、最終的に効いてくるのは音色ではなく、続けられる時間のほうです。肩を上げたまま保持する負担が消えれば、1回の練習で疲れきるまでの時間が延び、演奏後に残るものが減ります。

その差は1日単位ではほとんど自覚できません。しかし10年、20年という単位で積み上がると、叩けた総時間そのものが変わります。楽器の演奏という資産は、才能よりも、続けられた時間の累積によって形になっていくからです。

セッティングは、上手くなるための工夫であると同時に、上手くなり続けられる年数を確保するための工夫でもあります。次に楽器の前に座ったとき、数字を合わせにいくのではなく、自分の肩と左手に上限と下限を尋ねてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

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