社内の業務自動化に、GeminiとClaudeのどちらを入れるか。会社の標準はGoogle Workspaceで、Claudeは私の手元だけで動いている、という状態でした。「エンタープライズを入れているから悩ましいんだよね。どちらをベースとするか」。そのまま口に出していたとおりの迷い方です。
選定をAIと詰めていたら、二層構成の案が返ってきました。Workspace標準のGeminiを全員のベースに置き、Claudeは設計のときだけ使う。比較記事の早見表を、そのまま社内に持ち込んだ形です。
私はその案に一言返しました。「違うね。長考できるかだろ」。ここで書くのは、その一言のあとに何が起きたかと、選定を早見表ではなく完走率で決めるようになった順序です。完走率というのは、走らせた業務のうち、人が助けずに最後まで終わった回の割合を指します。
用途の早見表を読み終えても、社内に入れるほうは決まらない
使い分けや比較を説明する記事は、たいてい用途の一覧で終わります。最新の情報を集めるならこちら、長い文書を読んで構造化するならこちら、料金はこちら、という並びです。
決まらない理由は、その一覧の作りにあります。用途の一覧は、その作業に向いているかどうかを書いていますが、向いていても、任せたときに最後まで行くかどうかは別の話です。用途で割る枠には、時間の経過が入りません。
業務の自動化は、手順が決まっている作業と、途中で判断が要る作業に割れます。手順が決まっているものには、AIが来る前から自動化の道具がありました。AIエージェントを入れて値打ちが出るのは途中で判断が要るほうだけなので、見るべきなのは、その作業の完走率です。
全員のベースにGeminiを置く案は、自分が引いた数字で潰れた
「違うね。長考できるかだろ」で外れたのは、案の前提でした。前提は、社内の自動化は定型が多いから長く考えさせる必要はない、というものです。
外れたあとで気づいたことがあります。その案を支えるために引いていた数字が、そのまま案の反証になっていました。2026年8月に一般提供が始まったGemini 3.7 Flashは、ZapierのAutomationBenchで30.4%とされています。前の世代の17.0%からは大きく上がった数字です。
上がってはいますが、多段の自動化タスクの7割を落としているという意味でもあります。7割落ちる側を全員のベースに置く案を、その数字で支えようとしていました。順序としては否定が先で、気づいたのは後です。早見表の発想のまま社内へ入ると、この間違いを踏みます。
データがWorkspaceの中にあることは、設計の理由にならない
案にはもう1つ根拠がありました。自動化の相手がGmailやドライブや文書の中にあるのだから、同じWorkspaceのGeminiが有利だ、というものです。
これも潰れました。私が返したのは「君にはConnect機能があるからそこは関係がないんだ」。そのやりとりをしていた相手には、GmailとGoogleドライブのコネクタが既につながっていて、中身は読めていました。
読めるかどうかは、もう解決していた話です。残っていたのは座席の単価と、管理の権限だけでした。それは調達の理由であって、設計の理由ではありません。調達の理由を設計の側に置くと、切り分けの線がそこで歪みます。
切り分ける線を、置き場所から粘りへ引き直す
二層構成そのものは捨てませんでした。捨てたのは線の引き方です。最初の線は「Workspaceの中にあるかどうか」で、引き直した線は「粘りが要るかどうか」です。最初の線が間違っていたことは、消さずに書いておきます。
手順が決まっていて途中で判断が要らないものは、Workspaceに付いてくる自動化の機能に置きます。2025年12月に提供が始まったWorkspace Studioは、2026年8月の時点で追加のライセンス費なしに使えます。途中で判断が要るものは、長く考えさせられる側に置きます。線を引き直すと、同じ二層構成が別のものになりました。
ここで1つ、私が確かめきれていないことがあります。ノーコードで流れを組む画面に、どれだけ長く考えさせるかの設定が出てくるかどうかです。出てこなければ、そこで組んだ流れは全部、既定の思考量のまま走ることになります。決める前に、自分の環境で見ておいてください。
数十億人に配る会社は、標準で長く考えさせにくい
それまでは総合の指標で比べていました。2026年8月の時点で、Claudeの最上位が63、Geminiの最上位が56という並びです。7点の差をどう読むかを考えていましたが、比べる先を賢さからエフォートへ移した瞬間に、その並びは決め手ではなくなりました。エフォートというのは、1回の応答にどれだけ考えさせるかの度合いです。
「Geminiのダメなところは手を抜くところだよ。モデルが優秀でも、エフォートが甘いでしょ」。この見方に変えると、それまで意味を持たなかった事実がつながります。2026年8月の時点で、開発者向けの資料に載っている思考量の段階は4つあり、上限はhighです。よく使われる帯のモデルは、その既定が真ん中に置かれています。Claude側は同じ種類の設定でhighのさらに上を出しているので、上限の位置が1段ずれています。
なぜずれるのか。ここから先は私の解釈で、Googleがそう説明しているわけではありません。数十億人に配る義務を負っている会社が標準で長く考えさせると、その分の計算費用が利用者の数だけかかります。だから既定を低いところに置くほうが、会社としては合理的になります。仕様からそう読んでいるだけなので、ここを断定すると、記事のほうが崩れます。
安く大量に回す仕事が主戦場になるなら、Googleの既定のほうが正しい
ここは自分の結論の反対側です。長く考えさせる必要があるのは、途中で判断が要る作業だけだからです。
もしこの先、AIに任せる仕事の大半が、安く大量に回す実務のほうへ寄っていくなら、既定を低く置いて単価を下げた側が勝ちます。1回あたりが10分の1なら、7割落ちても3回投げれば足りる、という計算が成り立ちます。
この記事の言い分は、値打ちのある仕事が多段の側に残るという見立てに、全部ぶら下がっています。そこが外れたら、結論も一緒に外れます。
数えるのは、人が助けずに終わった回数である
公開の数字を見て決めたのではありません。自分の業務のフローで数えていて、「完走率は圧倒的にClaude」という手応えが先にありました。あとから出てきた公開の数字のほうが、その後追いです。
数え方は簡単で、同じ業務を10回投げて、人が途中で助けずに終わった回を数えるだけです。ただし私が測ったのは自分のフローの範囲で、件数も出せないので、一般化はできません。製品の名前も設定の名前も2026年8月の時点のものなので、半年もすれば入れ替わります。
「汎用AIはすでにコモディティ化したよ」とは思っていますが、コモディティ化しているのは真ん中の帯で、粘りの上限のほうはまだ揃っていません。来月どちらが上に来るかは、私にも分かりません。分かるのは、自分の業務で数えた完走率だけが、来月も同じ意味を持つということです。いちばん時間を取られている業務を1つ選んで、10回投げて数えるところから始めてみてはいかがでしょうか。


